今日の一本 vol.16
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・『いとしきエブリデイ』というマイケル・ウィンターボトムの作品がある。90年代の上京時、身の回りの全てが衝撃だった僕にとって、とりわけミニシアターの存在はこれまでの「映画」の位置づけ180度覆すものだった。そこでよくかかっていたのがウィンターボトムで、『バタフライ・キス』とか『I want You』には傷口に塩を塗るみたいにヒリヒリさせられたものだ。だが、2010年代に入って製作されたこの『いとしきエブリデイ』は違った。十数年前のヒリヒリ感は薄れ、親子の日常を刻みつつも広くて普遍的な愛で包み込むかのような温もりを感じた。これはウィンターボトムの変化であり、歳をとった僕の変化でもあるのだろう。刑務所に収監されている父を待ち続ける妻と幼い子供たちの5年間の物語。本当に5年の歳月をかけて撮影を重ねて日々を捉え(子供らもどんどん大きくなっていく)、そこに流れるマイケル・ナイマンの寄せては返す絶え間ない波のような音楽がまた胸を打つ。
『いとしきエブリデイ』(2012年/イギリス)
監督:マイケル・ウィンターボトム 出演:シャーリー・ヘンダーソン、ジョン・シム
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