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2021年12月30日 (木)

『長く熱い週末/The Long Good Friday』

2021年もあとわずか。今年は執筆や調べ物、裏方、はたまた人と人の間に入ってのお仕事など、おかげさまで例年になくバタバタと動き回っていた気がします。

ようやく年内に済ませるべき仕事を終え、じっくり腰を落ち着けて鑑賞できたのがこの1980年公開のイギリス映画『長く熱い週末/The Long Good Friday』。ボブ・ホスキンス演じるギャングの親玉が、テムズ川下流付近に広がる荒廃したドックランズ(Docklands)の再開発を担おうと、出資者相手に接待、パーティと様々な手を尽くすなか、その足を掴んで引きずり下ろそうと、殺人、爆発といった事件が身近で頻発するーーーという内容。

 

世の中には、リアリティを求めて創造性を駆使する中で思わぬ具合に未来をピタリと言い当ててしまった映画が無数に存在しますが(今年に絡めて言えば『AKIRA』などが代表的な例)、マーガレット・サッチャーが首相就任したのと同じ年に撮影された『長く熱い週末』は、その後のサッチャリズムによって社会が大きく様変わりしていく兆しであったり、それから80年代、90年代と劇的な変貌を遂げていくドックランズを活写した記録映像としての価値も高い逸品。ホスキンスが「これからロンドンは大きく変わっていく」と宣言したように、今ではこのエリアはロンドンの一つの顔として生まれ変わりました。

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私が本作に興味を持ったのは、マシュー・ヴォーン監督が長編デビュー作『レイヤーケーキ』(04)を手がけるにあたり、本作に少なからず影響を受けたことを知ったから。すなわち、盟友ガイ・リッチーが描いたロンドンを舞台にしたギャングものとは違い、同じロンドンでありながら少し視点をずらし、従来とは違う風景を提示しながら、その土地や文化やキャラクターといったものの”多面性”を見せていくというやり方です。

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『長く熱い週末』のホスキンスはどう優雅に振る舞おうとしても、ギャングとしての血が言葉や振る舞い、獰猛さから滲み出てしまう。彼はどうあがいても空回りするばかりで頂点には立てない気すらしてきます。が、『レイヤーケーキ』でダニエル・クレイグが演じる役柄はそうではない。彼は本編中、その名前すら一度も明かすことなく、見事に”X”を演じきります。すなわち、何者でもなく、だからこそ何者にだってなれる。人種の多様性と階層社会、二つの側面を併せ持つこの国でのしあがれるのは彼のような人物なのかもしれません。

とは言え、マシュー・ヴォーン監督は本作について面白いことを付け加えています。「『レイヤー・ケーキの』マイケル・ガンボンは、かつてボブ・ホスキンスが『長く熱い週末』で演じた役柄の20年後の姿かもね」。

『レイヤー・ケーキ』と『長く熱い週末』、制作された年代は全く異なりますが、ぜひ2本セットで鑑賞してみたい作品群です。

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