小説「小さなことばたちの辞書」
最近、「小さなことばたちの辞書」(ピップ・ウィリアムズ著、最所篤子訳、小学館)という小説を読みました。
19世紀から20世紀にかけてマレー博士らによって「オックスフォード英語大辞典」が編纂されていく中、その写字室(スクリプトリウム)と呼ばれる仕事場を遊び場にして育った一人の少女エズメの物語。
彼女の人生は、幼い頃から自ずと無数の「ことば」に彩られていきますが、それは同時に、辞書に入りきらなかったたくさんの”こぼれ落ちたことば”を拾い集めることにもつながっていく。
ヴィクトリア朝時代に生きる女性たちのことば、虐げられし階層の者たちのことば、女性参政権を求めることば、ルパート・ブルックの詩集を胸に第一次大戦へ赴く若者たちのことば、それからエズメが自ら痛みや悲しみを伴って経験したことば・・・それは人々の「生きた証」とさえ表現できるものかもしれません。
数十年に及ぶ辞典の編纂と共にエズメも大人の女性へと成長していきます。時代もどんどん移り変わる。それからことばもまた、生き物のように意味や形を変えていくーーー。エズメの人生を通じて「ことば」という視点から時代を望む、とても有意義なひとときでした。
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