2019/11/11

MSP公演『ローマ英雄伝』

明治大学シェイクスピアプロジェクトの公演『ローマ英雄伝』を観に久しぶりに母校へ。
自分とはもはや親子ほど年齢の離れた学生さんたちが作り上げる舞台はもちろんのこと、受付や誘導のスタッフの機敏な立ち振る舞いや丁寧な応対に至るまで、そこで見たこと、経験したことひとつひとつに感動しっぱなし。すっかり涙腺緩みおじさんと化していました。親戚や知り合いが出てるとかそういうのでは全くないのに、不思議なものです。

今から400年前、グローブ座などで上演されていた頃から常に庶民の最も近いところにあり続けたシェイクスピア。学生さんたちにとってそれらの作品を日本という国で受け止め、咀嚼し、解釈し、さらには日本語の舞台として作り上げて観客に届けるという行為は凄まじいパワーを要するものだと思います。でもこの日本最大規模の学生カンパニーが奏でる一大プロジェクトは見事に呼吸を合わせてそれをやってのけていた。見ていてただただ壮観でした。

世界中で「ポピュリズム」というものが注目される今、それを色濃く描いた「ジュリアス・シーザー」と「アントニーとクレオパトラ」という、シェイクスピア物としてはそれほど有名とは言えない二本の戯曲を二部構成にして提示した趣向にも唸るものがありました。古代の物語なのにそこには自ずと現代世界が透けて見えてくるかのよう。とりわけ、メインとなる登場人物に匹敵する「民衆」という得体の知れない、しかしとてつもなく強力な存在の描き方にゾクゾクさせられた3時間超えの圧倒的な空間。見に行って本当に良かった。

「学生さんたちにとって素晴らしい経験になったと思う」なんて口が裂けても言いたくない。何よりもそれを観た僕自身にとって素晴らしい経験になりましたし、大きなパワーをもらいました。もしかしたら400年前の観客たちも、こうやってシェイクスピアから生きる喜びを与えられていたのかもしれません。そんなことを考えながら帰途に着きました。心から感謝。また来年も必ず見に行きたいと思います。

この記事が参考になりましたら、クリックのほどお願い致します。

TOP】【レビュー】【TWITTER

|

『12モンキーズ』と『めまい』

ヒッチコックの『めまい』は、決して紋切り型の言葉で片付けることのできない映画だ。ある意味、掴みどころのない作品とも言えるのかもしれないが、その実、鑑賞中に受けとめたイメージの連続は知らず知らずのうちに深層心理に蓄積され、5年後、10年後、自分が思ってもみなかったタイミングで「ああ、そういうことなのか」と納得がいったりもする。ある程度の齢を重ねた人がしみじみと衝撃を受けるタイプの作品であるのは間違いない。

以前、『12モンキーズ』について調べていた時、テリー・ギリアム監督の「全然意識していなかった場面で、気がつくと『めまい』と同じ撮り方をしていた」という発言を目にしたことがあった。その他にも『めまい』と『12モンキーズ』は重要な場面でともに「セコイアの森」が登場するといった繋がりがある。(詳しくはCINEMOREで執筆した記事を御覧ください)

僕が『12モンキーズ』を観たのは、まだヒッチコックを一本も見たことのない学生時代で、まさかこのSF映画にヒッチコックの遺伝子が刻まれているとは知る由もなかった。これまた公開から20年以上が経過してようやく「ああ、そういうことなのか」と納得した次第。人生と同じく、映画の世界もそういう「遅れてやってくる気づき」で一杯なのだ。

この記事が参考になりましたら、クリックのほどお願い致します。

TOP】【レビュー】【TWITTER

|

2019/11/07

ギャスパー・ノエ最新作『CLIMAX』

ギャスパー・ノエ、それは我々の世代にとってかなり衝撃的な名前だ。フランスの鬼才にしてタブーを犯すことを恐れない魔人。かつてシネマライズで観た『カノン』は、上映中に画面が点滅して「警告。今から衝撃的な場面あり。五秒以内に立ち去るべし」みたいな文言が大写しにされたりもしたものだった。

そんなノエの最新作の『クライマックス』は驚きと楽しさと衝撃が相まった、逸品だった。R-18+なので、あらゆる人にお勧めできるわけではないし、毛嫌いする人も多いかと思う。だが、序盤からエンドロールが流れ始めるという意表をつく展開を抜け、雪に閉ざされた体育館でのダンスが始まると、そこはもうハイテンションの渦。長回しで撮られていく生々しいパフォーマンスの交錯がとにかく素晴らしい。

ワン・アイディアを反射神経で95分の映画へと昇華させたような身軽さがまた秀逸なのだけれど、おそらく参加したキャストたちは本作がどんな仕上がりになるのか想像もできなかったのではないか。案の定、そこには過去のノエ作品のエッセンスを全て詰め込んだような楽しき地獄絵図が待っていた。うーん、こんな映画を作ってしまうなんて、やっぱりノエは唯一無二で底知れぬ才能に満ちた怪人だ。

この記事が参考になりましたら、クリックのほどお願い致します。

TOP】【レビュー】【TWITTER

|

2019/11/05

ヒッチコックの名作『めまい』

今年に入って、立て続けにヒッチコック作品を鑑賞している。最初は初心者にも等しい知識量だったのに、回を重ねるごとにハッとするポイントは増えた。なるほどこれはあの映画のアイディアが再活用されているのかとか、このモチーフは他の作品で何度も繰り返されたものだなとか、視点も徐々にディープになりつつある。

だが今改めて思うのは、ヒッチコックを観るのに小難しい知識など要らないということだ。何度見ても、どの作品を見ても、純粋な驚きが詰まっている。観客を極限まで驚かせようとするサービス精神が詰まっている。何と言っても「わかりやすい」ところが良い。同じことを表現するにしても、ヒッチコックはそれを最もわかりやすく、簡潔に描く方法を知っている。それが絶妙に歯切れの良いテンポとリズムを生む。

Vertigo

今回、CINEMOREで取り上げた『めまい』は、従来の小気味良いエンタメ作からするとやや印象の異なる映画かもしれない。まるで霧を思わせる空気感の中、昨日見た夢のような幻想的なストーリーが展開する。タイトルは極めて有名だが、ヒッチコック作品としては難度の高い方かと。精神的な浸食度も高いので、「危ない映画」だと個人的には思ってます。

この記事が参考になりましたら、クリックのほどお願い致します。

TOP】【レビュー】【TWITTER

|

2019/10/29

『象は静かに座っている』234分の衝撃

中国映画「象は静かに座っている」のレビューを執筆しました。この作品、なんと尺が234分もあります。しかしながらいざ見始めると思い切り没入してしまい「長い」なんて微塵も感じることがありません。映画や物語は主人公や私たちが辿る一つの旅のようなもの。この道のりを乗り越えていざなわれる場所は一体どこなのか。その果てで、私たちの心には一体どんな思いが発露するのか。切実な内容ではあるものの、ラストシーンを迎えた時、もう一つの違う自分と出会えたような気持ちが込み上げてきました。個人的には2019年で最も熱狂した映画体験かも。この気持ち、生涯忘れることがないと思います。

この記事が参考になりましたら、クリックのほどお願い致します。

TOP】【レビュー】【TWITTER

|

2019/10/23

子役と動物にはかなわない

どんな名優も子役と動物には敵わないと言われる。『クレイマー、クレイマー』はまさにそのことを端的に証明する映画だ。父母の離婚問題に揺れる男の子は、いかにしてあのナチュラルな演技を手にできたのか。詳しくはCINEMOREに書いた本作に関する原稿をお読み頂きたいのだが、このメソッドを紐解くうちに強烈に思い出したことがある。それはスピルバーグが『E.T.』の子役たちに用いた手法だ。

Kramer

基本、すべてのシーンをストーリー通りに順撮りして子供たちの感情を醸成させていった『ET』だが、ことラストシーンに至っては、子役たちの悲しみの演技を導き出すために、スピルバーグは子供らにこう語りかけたという。「いいかい、今からETにさよならを言うよ。これでもう最後だ。もう二度と会えないんだからね・・・」。この一言の効果はてきめんだったとか。

子供の頃は「永遠」とか「二度と」という概念を意識することはほとんどない。が、『クレイマー、クレイマー』や『ET』の見せ場となる場面では、こうしてあえて子供達に自らの力で扉を押し開かせることで、未踏の感情を導き出すことができた。つくづく演技とは奥深いものである。

この記事が参考になりましたら、クリックのほどお願い致します。

TOP】【レビュー】【TWITTER

|

2019/10/22

テリー・ギリアム監督作「バロン」

先日の『バンデットQ』に続き、同じくテリー・ギリアム監督作の『バロン』について書きました

Barron

よく「史上最大の失敗作」的な言われ方をする映画ですが、今改めて鑑賞してみると実に素晴らしい作品です。数々のトラブルに見舞われながら、それでも芸術性をいっさい安売りすることなく、思い切りイマジネーションを爆発させているところが感動的。さらに戦争という圧倒的な現実の中でフィクションというものがいかに機能しうるのか、そんな究極の問いが垣間見えるところにもハッとさせられます。

ちなみにこの作品、制作費が節約できるという理由でローマに拠点を置いたのですが(そもそもこれがトラブルの始まりだったという声も)、この地でテリー・ギリアムは何度かフェデリコ・フェリーニとも会って言葉を交わしたそう。その時、感じたこととして「撮影中のフェリーニは驚くほどエネルギッシュで若々しく、そうでない時の彼は急に歳を取ったみたいに弱々しく見えた。仕事と想像力によってこんなにも人は変わるんだな、と思い知らされた」という風に述べている。

今やギリアムもフェリーニの享年をとうに超えてしまったが、困難にぶつかってもすぐにまた起き上がって猪突猛進を続けるその勢いはまだまだ衰えそうにない。どんなサイズでもいいから、いつまでも若々しく、エネルギッシュに映画を撮り続けて欲しいものだ。

この記事が参考になりましたら、クリックのほどお願い致します。

TOP】【レビュー】【TWITTER

|

«バンデットQ