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2005/09/14

『殺人の追憶』の絶望の淵で、わずかに微笑む。

韓国では、『シュリ』『JSA』さらには『マトリックス』シリーズをも超える560万人を動員。見事、2003年興行収入No.1を記録した。出演は、『シュリ』『JSA』のソン・ガンホ、『気まぐれな唇』のキム・サンギョン。監督は、『吠える犬は噛まない』のポン・ジュノ。第16回東京国際映画祭では「アジアの風」にて上映され、アジア映画賞を受賞している。ちなみに韓国の興行成績NO.1をその年ごとに振り返ってみると、1999年『シュリ』、2000年『JSA』、2001年『友へ チング』、2002年『大変な結婚』、2003年『殺人の追憶』、2004年『ブラザーフッド』という具合になっており、2005年については今のところ『マラソン』が優勢であると見られている。

1986年、ソウル近郊の農村で若い女性の裸死体が発見された。無惨にも手足を拘束のうえ暴行されており、その後も同じ手口の連続殺人事件が相次いで発生。現地には特別捜査本部が設置され、地元の刑事パク・トゥマン(ソン・ガンホ)とソウル市警から派遣されたソ・テユン(キム・サンギョン)は、この難事件に挑む。性格も捜査方法も異なる二人は、対立を続け何度も失敗を重ねながら、ついに有力な容疑者を捕らえるのだが…。

本作が“衝撃的なサスペンス”でありながらも、“笑い”の要素をふんだんに取り入れていることに驚かされる。そういえば、ポン・ジュノ監督の前作『ほえる犬は噛まない』も抱腹絶倒のコメディだったが、この作品でもふとした瞬間にふらりとジャンルの境界を越えて、なんだか凄く切なくなってしまったり、という部分が多分に見受けられた。本作も同じだ。一方で笑わせておいて、他方で途方もない“恐怖”と“無力感”が背後から忍び寄り、知らないうちに身体を蝕んでいく。人間、これだけどうしようもない絶望に追い込まれるとかえって感動すらしてしまうのだから、本当に奇妙なものだ。これらのジャンルの器用な往復に、観客の体内時計はすっかりと狂わされてしまう。岩代太郎の音楽も耳にやさしくて素晴らしいし、またそのバックに映し出される田園風景も息を呑むほどに美しい。だからこそ恐ろしい。我々は、それらを「美しい」と感じた瞬間に、次の罠への入り口に立たされているのだから。

ところで、ポン・ジュノ監督は意外な日本通としてもよく知られており、日本の漫画「オールド・ボーイ」を友人でもあるパク・チャヌク監督に紹介したのも彼だったし、山下敦弘監督作『リンダリンダリンダ』に『ほえる犬は噛まない』で主演したぺ・ドゥナが出演することになったのも彼の紹介がきっかけだったという。

8月に日本で公開された『南極日誌』では脚本執筆に参加していたジュノ。期待を集める新作は2006年の夏に公開の『怪物』という作品となるようだ。本作は、突如現われた怪物の手から逃れようと奔走する家族の物語、となっている。 「怪物」という言葉を聞いたときに僕は『殺人の追憶』のラストシーンを思い浮かべてしまう。そこでソン・ガンホの見せた表情とは、まさしく人間という名の怪物の存在にうちふるえる哀れな子羊といった衝撃的なものだった。

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