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2005/09/15

ヨン様の『四月の雪』を試写。

『四月の雪』を試写させてもらった。先日の来日会見の際には、きっと凄いことになっているだろうとの憶測(いや、確信)のもと、すっかり弱気になって会場に赴くことさえ出来なかった。そんな僕に本作とあいまみえる資格があるのだろうかといささか憂鬱になりながらの試写。『八月のクリスマス』や『春の日は過ぎゆく』の確立された映像演出で観るものを心酔させてきたホ・ジノ監督の手腕はやはりここでも健在だった。

インス(ぺ・ヨンジュン)とソヨン(ソン・イェジン)演じる男女が出会う場所は救急病院。ふたりはそれぞれに妻が、夫が交通事故に巻き込まれたとの連絡を受けて駆けつけていた。緊急治療室で生死の境をさまよい横たわるふたりの男女。彼らは事故当時、同じ車に乗り合わせていた。どうやら主人公らの目を盗んで不倫関係にあったらしい。普段はまったく酒が飲めなかったはずのインスの妻からはアルコールが検出されていた。

飲酒運転による交通事故・・・しかも対向車線を走行中に巻き添えになった若い男性はすでに息を引き取っていた・・・。あまりにも衝撃的な事実を突きつけられ、絶望の淵に立たされたインスとソヨンには言葉も出ない。意識不明のままの妻の顔を眺めながらインスは言う。「いっそのこと死んでくれればよかったのに・・・」。

それでも看病のために毎日通院しなければならないインスとソヨンは、そんな状況の中でまるで互いの傷を癒すように言葉を重ねていく。そしていつしか、彼らの互いを想う感情は特別なものへと変わっていた・・・。

こういったあらすじで物語は進行し、まあ、これを読まれれば大抵の方はこう想うに違いない。

「暗いなあ・・・!」

そう、本作は哀しみの物語でもある。冒頭部なんて哀しみのミルフィーユのような構造で描かれていて、うわあ、もうこれ、どうしよう、とこの悲劇に自分が耐えられるのか心配にすらなってしまうのだが、それは観客がインスとソヨンというふたりの主人公らの感情を少なからず推察してしまうからで、実際には彼らが泣きわめいたりなどという見ているのも辛い劇的なシーンがあるわけでもない。

そこに映るのは、どんよりと曇った空、うっすらと降り積もる雪、一面に広がる荒涼たる田園地帯。観客はこれらの描写をもとに、自ずと彼らの心理状態を察してしまうのだ。そこには互いの気持ちを安易な言葉で表現してしまうような演出などいっさい存在せず、イメージによって積み重ねられていく心の変化といったものが、ごく自然に伝えられていく。この上手さに僕ははっきりいって脱帽したのだった。

また、病院のベッドに横たわる男女の表情を克明には映さないことで、主人公らにとっても“自分の妻、夫の表情が見えていない”状況なのだということが瞬時に伝わってくる。自分のいちばん側にいた人間について実は何も知らなかったのだ、という絶望。そんな残酷な状況に見舞われた彼らであっても、明日はやってくる。その当たり前な日常がもたらす更なる絶望・・・。

僕は最初、いろんな媒体で「やがてインスとソヨンが心を通わせていく」という展開を知らされ、「いやあ、それは出来すぎだろう!」などと思っていたのだが、彼らの置かれた状況とは実際そんな生易しいものではなく、むしろ「明日を生きるために心を通わせる」といった様相にやりきれなさを感じたのだし、ホ・ジノ監督によって丹念に描かれる心象風景が絶妙であるからこそ、観客は知らぬうちにその境地へといざなわれてしまう。

かなり重い映画ではあるものの、クオリティとしては非情に高い。こうした作品を日比谷スカラ座のような一級の劇場で観られるのは、日本人としての幸福と言えるのかもしれない。

ちなみにソヨン役のソン・イェジンは10月公開の『私の頭の中の消しゴム』という作品でもヒロイン役を演じている。これまた幸せの絶頂でアルツハイマー病に侵されるという薄幸な女性役であり、いや、彼女の魅力はきっとその“薄幸そうなたたずまい”にこそあるのではないか、と勝手ながら感じてしまった。こちらの作品は、原作がなんと日本のドラマということで(永作博美が主演でした)、驚くべきことにまったく韓国っぽい匂いのしない“世界標準”的な上質ラブ・ストーリーに仕上がっていることを付け加えておきたい。

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