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2005/09/12

『酔画仙』

本作に関してまず湧き上がる疑問は、2002年のカンヌ映画祭で監督賞を受賞した話題作にも関わらず、どうして公開がこれほど遅れてしまったかということだろう。この件について宣伝の方に尋ねてみたところ、かなり慎重になってタイミングを探っていたとの事情を話してくれた。そして、いよいよタイミングの女神は微笑んだ。韓流ブームが到来し、2004年のカンヌでは『オールドボーイ』がグランプリを受賞。この一大潮流が次の段階へと移行していくことを見届けるかのように、本作は満を持して劇場公開を迎えたわけである。

主人公は19世紀後半に実在した伝説的絵師、チャン・スンオプ。『風の丘を越えて』(93)や『春香伝』(00)を経て今や巨匠となったイム・グォンテク監督は、酒をあおり女と戯れることで名画を生み出すスンオプの異才ぶりを時に静かに時に激しくアピールし、その一方、激動の韓国史を背景に、周囲への迎合を拒否し、常に自分に正直であり続けた男の熱い想いを丁寧にすくいとる。もちろん、そこでは『オールドボーイ』の狂騒的な演技が記憶に新しいチェ・ミンシクが大いに輝きを放っているし、また、“静"の存在感でそっと深みを添えるアン・ソンギの妙演もいい。

酒に酔ったソンオプが筆を取りいよいよ描画をはじめると、まるで激しいスポーツでも観戦しているかのようにダイナミックなカメラワークと編集とが一体となり、天才絵師の天才たるゆえんを追い続ける。筆使い、呼吸、それを見守るギャラリーの緊張感、そしてため息。その一切の描写が名実ともに「酔画仙」の出現を人々に納得させ、劇中のギャラリーの表情はいつしか私たち観客のそれと奇妙なシンクロを果たす。逆説的に言うならば、ある意味、ソンオプの絵画にはいつの時代の人々をも虜にする“映画の源泉"が詰まっているのかもしれない。

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