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2005/09/13

『10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』で、巨匠を囲い込んだパトロン風情を味わう。

「“時間”というテーマで10分間のショート・ムービーを」とのオファーに、恐れ多くも巨匠クラスの映画監督15人が快諾。それそれに平等な予算と時間とが与えられ、ここにかつてない短編映画プロジェクトがスタートした。各作品はそれぞれのテイストにより2作品へと配分され劇場公開されたが、DVD発売にあたってはどうやら当初の“競作”という理念を尊重して15本がすべてコンプリートされている。

ちなみに劇場公開時の「人生のメビウス」編には、これらの経緯で完成した作品中、アイディア満載で奇想天外な7作品を収録。たった10分間とあなどることなかれ。そこにはハマり出したら止まらない、まるで無限の宇宙のような創作空間が贅沢に拡がっている。(なお、もう一方の「イデアの森編」では“時間”についてもっと哲学チックに掘り下げた作品集になっている)

「人生のメビウス」編では、7人の監督が様々な“人生の瞬間”をピックアップ。『過去のない男』がカンヌで絶賛されたアキ・カウリスマキは、10分後に出発するロシア行きの列車にフィアンセと一緒に乗り込むべくプロポース作戦を展開する男を独特の乾いたユーモアで描き、10年に1作しか撮らないという伝説の監督ビクトル・エリセは、詩情溢れる感覚でなんとも温かい味わいの作品を綴り、鬼才ヴェルナー・ヘルツォークは、アマゾン奥地に住むとある民族についてドキュメンタリー・タッチで考察を重ねる。プロジェクトの発起人ともいうべきジム・ジャームッシュは、女優に与えられた10分間の休息時間をリアルタイムで描写し、ヴィム・ヴェンダースは、砂漠のど真ん中でバッド・トリップに襲われる男の悪夢をROCKな映像感覚に乗せ爆発させる。スパイク・リーは、ゴアVSブッシュの大統領選挙に劇的変化をもたらした“運命の10分”を再現すべく数々のインタビューを抜群の切れ味で紡ぎ、ラストを飾るチェン・カイコーは、大規模な変貌を遂げる北京を舞台にファンタジックでユーモラスな寓話を展開している。

ショート・ムービーというと、日本では「世にも奇妙な物語」のような“オチ付きミステリー"ばかりが蔓延していて、その作品数がある程度にまで達すると、観客も食傷気味にもなってしまうわけだが、それでも本作に「ガツン!」と持っていかれてしまう理由は、まず、その発想の“自由自在”にある。たった10分間の中にいったいどれだけのことが詰められるというのか。誰もが頭を抱え込みそうなこの難題に、参加した監督達は確実に楽しんで取り組んでいる。『過去のない男』に代表されるようなおなじみのテイストをそのままに持ち込んだカウリスマキの手法もOKだし、そのカウンターとしてのヘルツォークやスパイク・リーの「10分間ドキュメンタリー」ってのもお手軽にいろんなことが学べて面白い。これはもはや、観客と監督の知恵比べのようなものなのかもしれない。次はどの監督がいったいどんな手で来るのか、それが次第に楽しみで仕方がなくなる。

ちなみに個人的に特に気に入ったのは、2本目のビクトル・エリセの作品。モノクロ映像がまるで詩のように胸にスッと入り込んできて、思わず涙ぐんでしまうじゃないか。男の子が自分の腕にペンで描いた時計にそっと耳を近づけるシーンなんか、もう神の領域としか考い。

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