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2005/09/12

『オアシス』

 映画を単なる娯楽だと侮ってはいけない。時としてそれは、我々が直視しがたいとても過酷な描写を突きつけ、その交換条件として天地がひっくり返るかのような感動をもたらすことがある。この「オアシス」は、まさしくそんな作品だ。

 監督は、前作「ペパーミント・キャンディー」が絶賛され、いまでは韓国政府の文化観光長官を務めるイ・チャンドン。すでに国際的な評価も高く、2002年のヴェネツィア国際映画祭では、最優秀監督賞、新人俳優賞(ムン・ソリ)を受賞するという快挙を成し遂げている。

 ストーリーは、常識どおりに生きるのが苦手な青年ジョンドゥと脳性麻痺を患った女性コンジュの出逢いから幕を開ける。衝撃的で突発的な“ある事件"からスタートしたはずのふたりの関係は、やがて次第に純粋な愛へと変わり、彼らは自分たちだけの世界の中でその愛を大切に育んでいく。だが、周りの人間にとってその様子はとうてい理解が困難なものだった。そしてある日、彼らの愛は誤解が誤解を呼び、警察沙汰の事件にまで発展してしまう。

 始めのうちは衝撃的で声もでなかった。てっきりムン・ソリという女優が本当に脳性麻痺を患った人なのだと信じて疑わなかった(彼女が自分の想像の中で突然に立ち上がり朗々と歌いだすところで初めて“演技"だということがわかるのだが)。こんなにも真に迫ったリアルな演技を前にしたとき、観客は果たしてどういう態度をとるだろうか。誤解を恐れずに言うならば、僕はとても“うろたえた”。誤解を恐れずに言うならば、直視しがたいというか、居心地の悪さというか、そういう陰鬱な感情がいっせいに噴き出し、身動きが取れなくなった。しかしイ・チャンドン監督は、人間がこれらの感情を見事に克服できる生き物であることを知っている。我々がそのハードルを乗り越えたと同時に、これまでに体験したことのないまったく価値観が、感慨が大波となって押し寄せてくる。 こんな完璧な演出を思いつく人が政府の大臣を務める韓国という国がとても強大なものに思えて仕方がない。

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