« 『10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』で、巨匠を囲い込んだパトロン風情を味わう。 | トップページ | 『CODE46』で、現地調達のSF世界を目撃する。 »

2005/09/13

『ロスト・イン・トランスレーション』に見る、海外生活の孤独と楽しみ

『ゴッド・ファーザーPART3』での不評や、父フランシス・フォード・コッポラのことを持ち出すのは野暮ってものだ。いまやソフィア・コッポラといえば、『ヴァージン・スーサイズ』でその卓越したセンスが観客をすっかりと心酔させ、第2作目にはこの日本を舞台として素晴らしい贈り物を届けてくれた一種のカリスマ的な存在にまで上り詰めてしまった。アカデミー賞での脚本賞の受賞など世界中で賞賛を集めた本作でのテーマは、“アウトサイダー・イン・ニッポン”。出演は『ゴースト・バスターズ』『チャーリーズ・エンジェル』(本人はこの作品が持ち出されることは好まないだろうが)のビル・マーレイと『真珠の耳飾りの少女』のスカーレット・ヨハンソン。

ウィスキーCMの撮影のために来日したアメリカ人俳優ボブ(ビル・マーレイ)と、カメラマンの夫の仕事に伴って来日した新婚のシャーロット(スカーレット・ヨハンソン)。理解不能な日本語や、一向に慣れない文化の壁に憂鬱を隠せないふたりは、いつしか滞在先のホテルで偶然に出会い、またたく間に意気投合する。カラオケ、雑踏、パチンコ屋…いつしか笑顔で東京の街を駆け抜けていく彼ら。ふたりの感情には、互いに“安らぎ”を通り越して、徐々に強い絆のようなものが芽生え始めていた。

進学や就職・転職などで新しい生活を始めた人。ひとり旅や海外留学の経験がある人。これらのピン・ポイントな想い出を抱えた観客には、この作品がかけがえのない友人のようにも感じられるかもしれない。はじめのうちはどこかぎこちなかった生活も、ふとしたきっかけで憂鬱な雲の切れ目からにサッと晴れ間が射していく。ラブ・ストーリーのようでも、単なるコメディのようでもある本作だが、この映画がとびきりの応援歌のように感じられる瞬間がある。ヴェネツィアでもアカデミー賞でも常に話題を独占し続けたのは、そういった些細な共感が誰の心の奥底にも“大事な思い出”としてしまわれているからなのではないか。普段は恥ずかしくて取り出せないようなその青臭い記憶の扉を、他でもないあのビル・マーレイが解き開いてくれるのだ。こんなにも贅沢なことはない。

sofia ソフィア・コッポラは本作の後に新作『マリー・アントワネット』に着手(全米での公開はいまのところ2006年10月13日)。タイトル・ロール役は『ヴァージン・スーサイズ』でも主演したキルスティン・ダンスト。共演にはソフィアの従兄弟でもあり、『天才マックスの世界』でも驚異的な新人として注目を集めたジェイソン・シュワルツマン。

コッポラ・ファミリーといえばニコラス・ケイジもそれに含まれることは有名だが(フランシス・フォード・コッポラは叔父にあたる)、彼の本名が“ニコラス・コッポラ”であることはあまり知られていない。

ちなみに下のAmazon.comのリンクにはキャストとして藤井隆の名が掲げてあるが、実は公開の時、マスコミ各社に対して「本編中にはあくまで藤井ではなく、マシュー南として出演しております」との注意書きが配布されていた。

そして毎度のごとくソフィア・コッポラの作品は選曲のセンスも抜群にいい。今回は日本が舞台ということで、幾人かの日本のミュージシャンにもアドバイスを貰ったそうなのだが、その中には「コーネリアス」(つまりは小山田くんのことなんだろう)の名前もあった。つまり本作の中で冴え渡る『風をあつめて』(byはっぴいえんど)などの曲は彼による推薦ということになるのだろう。このサントラを聴きながら東京の街をめぐると、いつもとはまた別の顔が見えてくるようでなんだかくすぐったいやらおかしいやら、である。


|

« 『10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』で、巨匠を囲い込んだパトロン風情を味わう。 | トップページ | 『CODE46』で、現地調達のSF世界を目撃する。 »

【地域:TOKYO発】」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/137483/5921172

この記事へのトラックバック一覧です: 『ロスト・イン・トランスレーション』に見る、海外生活の孤独と楽しみ:

« 『10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』で、巨匠を囲い込んだパトロン風情を味わう。 | トップページ | 『CODE46』で、現地調達のSF世界を目撃する。 »