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2005/09/22

『チャーリーとチョコレート工場』に満ち溢れるこの幸福感はいったいなに?

恐らくチャーリー少年を見ていてとても心が温かくなるのは、彼の存在に「調和」を感じるからなのだろう。それは彼の住む「(文字通りの)傾いた家」の中に漂う空気のようなものでもある。

父親は「歯磨き粉工場」で働き、そこをクビに。家には祖父祖母が4人同じベッドで暖を取り、夕食のスープにはキャベツが浮かんでるだけ。そんな貧しい中にありながらも彼の家庭にはそこはかとなく「調和」の灯火が絶やさず明かりをともし続けている。そんな家庭の描写のひとつとして、おじいちゃんが汚い言葉を吐きまくり、思わず父親がチャーリーの耳を塞ぐというシーンがあるのだが、後にこのおじいちゃんが「いいか、紙幣は毎日刷られ続けている。しかしゴールデンチケットは1枚しかないんだぞ。それをお前は捨てるというのか?」などと問いただし、チャーリーが思わず「イエス、サー」と言ってしまうところを見ると、このおじいちゃん、恐らく軍隊上がりなのである。後々のシーンでキューブリックの『2001年 宇宙の旅』のパロディが登場するところを見ると、もしかするとこのおじいちゃんのくだりは同じくキューブリックの『フルメタル・ジャケット』のパロディですらあるのかもしれない。

で、まあ、「調和」の話だ。チョコレート工場のウィリー・ウォンカ氏はとある出来事から今回の見学ツアーのアイディアを思いつく。作中では原作にない彼の過去(少年時代)が語られるが、「歯医者」であった父親の存在と、それでも「チョコレート」を食べたかったウィリー少年の間にはティム・バートンの前作『ビッグ・フィッシュ』でも見られた父と息子の関係性が浮上しており、思えば「歯医者」と「お菓子」の関係性というものは一見互いに反目しているようにも思えるが、実は「歯」という対象を取り巻くバランスのようなものとも考えられる。つまり「調和」なのである。本作を既にご覧になった方ならお分かりかと思うが、クライマックスではその「調和」という方向性がさらに突き詰められることになる。なぜだかこのごろのティム・バートンはそういうテーマにご執着らしい。そして、この世界中で有名な原作にそのようなテーマ性を盛り込むことの出来る手腕と度胸にはほとほと頭が下がる。

このストーリーの中で現われし他の子供達、そしてウォンカ氏は皆、きれいな歯を持ってはいるものの、それが保たれているのは「調和」からかけ離れた別の理由によるものだ。その“バランスが悪い”とされる挑戦者たちを、ウォンカ氏はティム・バートン風のブラック・ユーモアでもって次々と脱落させていく。彼は調和か否かを見抜く才能(そんなもの観客でも一目瞭然ではあるのだが)を持っている。と同時に、彼をそれらの行動へ向かわせるのは、彼自身がかねてよりバランスの悪い状況の持ち主であるという事実を暗黙のうちに悔いているからではないだろうか。

つまり、永久に少年のようでさえあるウォンカ氏にもいつかは「老い」という魔物が食いついてくる。そのタイムリミットが迫る時分になって、彼はようやく過去の記憶をフラッシュバックさせはじめ、そのような修復能力が自ずと働き始めたのかもしれない。結局は彼も手探り状態で、チャーリー少年の持つような「調和」を模索するようになる方向性がこの映画の本質でもある。

そんなことを考えながら、スクリーン上のチャーリー少年に「君はとても調和しているね」などと語りかけたところで、彼はきっとただポカンとしてしまうだけなのかもしれない。だって、彼の言葉を借りれば「理屈ぬきに楽しいのがお菓子」なのであって、きっと「理屈ぬきに温かいのが家族」でもあるに違いないのだ。

こういう映画の根本的なところを「調和」などといった言葉で片付けてしまう僕のあざとさを彼は笑うだろうか。白髪は生えていないものの、僕もそろそろ引き返せないところまで歳を取り始めているのだ。

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