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2005/09/12

邦画の新たな手ごたえは、『リアリズムの宿』にある。

『どんてん生活』『ばかのハコ船』で一気にコアなファンを獲得した山下敦弘監督が、つげ義春による原作漫画を大胆に脚色し、ここに傑作オフビート・コメディが誕生した。またしても、極上のくすくす笑いが忍び寄る作風ながら、全体が過ぎ去ったときに訪れるふとした悲哀がより中毒性を促進しているように感じられる。出演は、舞台に映画にと幅広い活動を展開する長塚圭史、山下作品常連の山本浩司、『萌の朱雀』の尾野真千子。そして、インド人のサニー・フランシスさん。ちなみに彼、サイコーです。『ジョゼと虎と魚たち』に続いて、くるりが音楽を手掛けているのも注目。

駆け出しの脚本家・坪井と、映画監督・木下。金はないが、見栄はある。そんなふたりは、ひなびた温泉街へとあてもなくやってきた。互いのことをあんまり知らないのに行きがかり上ふたりきりになってしまった彼ら。ふたりきりで見つめる真冬の日本海。突然海から駆け上がってきた謎の少女・敦子との出会い。そんなこんなで3人は共に旅をする。それぞれに惹かれあうものを感じつつ。

やたらと素晴らしい。とてもリラックスしたムードの中で、脱力の笑いが間断なく続く。その作風に素直に惹きつけられた。若い監督の映画はすぐ走る、といったイメージがあるかもしれないが、それよりももっと若い世代の監督の映画では主人公はちっとも走らない。走らないどころか、実にマイペースで、飾ることなく、自分の言葉で話をする。つまり、相手と積極的にコミュニケーションを図らない。だが、平行線をたどるかに見えた登場人物たちの道程が、何かをきっかけにふとブレる。そのブレが、ほんの少しずつではあるが、両者のこれからの道程を僅かに交差させていくかのようだ。山本のボケ、長塚のツッコミ、そして尾野が醸しだす“ブレ”が、日常からはみ出さない程度に、ちょっと笑えて、ちょっと泣かせてくれる。タイトルにもなっている“リアリズムの宿”はラスト付近に満を持して登場。これまたどんなCG技術をも凌駕するほどのリアリズムっぷり。ぜひとも心ゆくまでの圧倒されていただきたい。

ちなみにこの後、山下監督は、韓国人俳優ぺ・ドゥナらを主演に『リンダリンダリンダ』を手がけてこちらでも大成功を納めている。いつまでもこのようなミニマムな世界を作り続けてほしいという思いと、いやこれからもどんどん日本を背負うような監督として羽ばたいてほしいというアンビバレントな期待が平気で託せるのも、彼ならばふとした妙案によってその難題を軽々とこなしてしまいそうな予感が漂っているからである。

 

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