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2005/10/20

『バットマン・ビギンズ』は、史上最もクラシック音楽の似合うヒーロー・ムービーだ。

『バットマン&ロビンMr.フリーズの逆襲』の誰の目にも明らかな不作を受けて長らくプロジェクトの硬直状態が続いていたこのシリーズがようやく息を吹き返した。バットマン・ビギンズの誕生である。

僕らはなんの心配もいらなかった。運命はホントいいようにできている。やがて『メメント』『インソムニア』のクリストファー・ノーランの監督起用が決まり、若き日の主人公ブルース・ウェインには『マシニスト』のクリスチャン・ベール。これがもう、傑作の域を遥かに超えた仕上がりになっている。ティム・バートン風のマジカルでファンタスティックなヒーローでもなく、ジョエル・シュマッカーのロックなバットマンでもなく、ここに登場するのは極めてノワール色の強い、それでいて荘厳なクラシックがよく似合う上級志向のバットマンだ。何か奇をてらうでもなく、正真正銘のフルコースのストーリーライン、そしてラストにはメインディッシュの盛り上がりがきちんと供される。

もちろんバットマン特有のアクションも盛り込みながら、本作ではとりわけ「彼がなぜバットマンになったのか」というエピソード1的な内容に焦点が置かれる。ブルース・ウェインのヒーローへの志しにしても、数々の秘密道具にしても、すべてがまだ未熟でプロトタイプに過ぎない。しかしだからこその“洗練される途上の楽しみ”がある。だって、ブルース・ウェインは執事アルフレッドと共に毎晩頭を寄せ合って、「これでいいかなぁ?」なんて秘密道具の開発に余念がないんだもの。マイケル・ケインの飄々たる演技もあいまってまるで武士が内職にでも精を出しているかのように可笑しい。

そして本ストーリーの根本を司るのは「なぜ彼は戦うのか」というテーマであり、更には「正義とは何か、善とはなにか」に集約されていく。ここにはシリーズものであると同時に、現代という時代に投げかけられた奥深い問いかけとしても機能している。まさにこの映画を生み出したアメリカ自身に突きつけられた映画と言えるだろう。

そういえば『スパイダーマン』でもそのあたりの描写には事欠かなかった。しかしバットマンはそれよりもかなりリアルだ。そもそもブルースが冒頭、強くなりたいが為に戸を叩いた秘密結社は、自ら「善である」と主張しながらも蓋を開けてみるとかなり原理主義的なものであり、彼は少なからず衝撃を受ける。いまの世界情勢を鑑みるならばそれはタリバンのような組織と重なるのかもしれないし、はたまたその裏をかいてアメリカのような自らを正義と称して疑わない存在を視野に入れたメタファーですらあるのかもしれない。その首領役には渡辺謙。イントネーションの違いこそあれ、迫力のある風貌、そして威厳のある活舌で他を圧倒する。ただ、僕が本作を試写した段階ではまだ字幕の調整がまだ済んでいなかったらしく、「こいつを組織に加えてはいけん!」などと、なぜか九州弁の渡辺謙がそこには存在していた。

その秘密結社の参謀役には、“指導する者”を演じさせたら右に出る者がいないと言われるリーアム・ニーソン(本人は「もうこの類の役はやめる」と言っている)、ブルースの父が創設した会社で昔は敏腕だったものの、いまや窓際族へと追いやられ悶々と兵器開発を続ける年配社員役にモーガン・フリーマン、ゴッサム・シティを恐怖に陥れる謎の怪人“スケアクロウ”には『28日後』でブレイクした英国人俳優キリアン・マーフィ、ブルース・ウェインの幼なじみで今では弁護士としてゴッサムの敵に果敢に闘いを挑む女性をケイティ・ホームズ(本作よりも、トム・クルーズと婚約したことで一気に名前がメジャーに・・・)、バットマンと協力体制を結び不正のはびこるゴッサムを内側から変えようと努める警部役にはこれまで極端な悪役の多かったゲイリー・オールドマン(彼の意表を突いた善人役はサイコーです!)、そして主人公を温かく、そしてコミカルに見つめ続ける執事には名優マイケル・ケイン。

さあ、どうですか!こんな名優ぞろいで面白くない映画を作る方が逆にハードル高いよ。

もちろんバットマンに対する興味関心は皆無であるよりも少しでもあったほうが楽しめるだろう。しかしそうでなくともある程度映画を観ている人にとっては“そのまま”で充分楽しめる内容に仕上がっていると思う。少なくとも本作の大成功によりバットマン・シリーズという洗練された金鉱脈に再びスポットが当たり始めたのは間違いない。

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