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2005/10/04

『ほえる犬は噛まない』はどちらかというと日本人の感性に近い傑作ガールズ・ムービーだ。

これが「韓国に伝わる古いことわざです」と言われたら「はあ、そうですか」と信じてしまいそうだ。この飄々として他人事なタイトルに心惹かれる。いまや『リンダリンダリンダ』で日本映画にまで進出したぺ・ドゥナ主演のこれまでにない新感覚ムービー。

マンション内の犬をハライセに処分して回る危ない男と、それら行方不明の犬を必死に捜しまわる女の子(けれど成人女性)の物語。こうして書くと善悪ははっきりしているけれど、それが映画の中でユーモアたっぷりに描かれると、どちらがいい、悪いかなんてそう簡単には判別つかなくなってしまう。テレビのニュースで勇敢な女性が市民栄誉賞をもらうのを見て「ああ、私もあんなふうになれたら!」なんて思い浮かべてしまう女の子の冴えない日常のあらましに「ああ、分かる分かる」と素直に共感。そして、彼女にいつもそっと寄り添う親友の太っちょさんの存在も優しい。彼らは決してレズビアンなどではないけれど、異性には絶対に分からない信頼関係でしっかりと結ばれている。

飲んだくれて酔っ払えば電車の連結部分で介抱してやり、女の子を背中におんぶして家まで連れ帰っていた太っちょさん。はたまた、その太っちょさんが怒って蹴り壊した車のバックミラーを大事な戦利品のように抱えて回る女の子。そういう些細な描写の積み重ねが、「あれ、本題の“犬が行方不明”って話はどこいっちゃったの?」と一瞬不安にさせもするけれど、彼女達の友情はそんな右往左往でヘコタレはしないのだ。

そして、最重要アイテム、黄色いレインコート。女の子がついに勇気を振り絞って境界線を踏み越えるとき、「とりゃあ!」という踏ん張りと同時に、そこかしこのマンションの屋上からおんなじレインコートを着た大観衆の歓声が鳴り響く。辺りに飛び散る黄色い紙吹雪。もちろんこれは紛れもない心理描写なのだが、こんな漫画のごとくにくだらない描写がなんだかとても泣けてしまうのはなぜだろう。

それは女の子のリアルな感情を我々が既に察していて、彼女がこんなにもいろんな思いを詰め込んで行動している切なさに、バカバカしくも心底胸を打たれるからなのだろう。そして女の子がピンチに陥るとやっぱり親友の太っちょさんが飛んできてくれる。女の子にとって彼女はスーパーマン以上の存在だ。なんだろう、この信頼関係。可笑しくもやっぱり涙ぐんでしまうのだった。

劇場で本作を観た当時、僕はこの監督を女性とばかり思っていて、ポン・ジュノという名前を見ても「ああ、やっぱり女性か」と間違った納得を繰り返していたのだが、その実際は歴然たる男性監督だった。そして彼は、この後の長編2作目で『メモリー・オブ・マーダー/殺人の記憶』という韓国映画史に残る傑作を生み出してしまった。

ちなみにポン・ジュノは日本通の監督としても知られている。世界中で絶賛された『オールド・ボーイ』の原作漫画をパク・チャヌク監督に紹介したのも彼だったし、日本の映画祭で『リンダリンダリンダ』の山下敦弘監督と出会い、後にぺ・ドゥナを紹介したのも彼だった。いろんな意味で日韓映画界の橋渡し役を果たしている重要な人材でもある。そうそう、極秘裏に新作『怪物』も準備中だ。公開は2006年の夏。ぺ・ドゥナもソン・ガンホも揃い踏みするモンスター・ムービーとなるらしい・・・。

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