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2006/02/25

『プライドと偏見』

300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお手軽な文系スポーツ。というわけで、今回のお題は『プライドと偏見』です。

この古典ラブストーリーは、男性が観てもドキドキする。

かつて英国女性たちが熱狂し、幾度もドラマ化されてきたジェーン・オースティンの恋愛小説「高慢と偏見」を新鋭ジョー・ライトが映画化。18世紀末のイギリスを舞台に、プライドと偏見とに邪魔され口論の絶えないお年頃の男女が、互いを想い合う素直な気持ちに気づいていく。当時の時代性を丁寧に描きながらも、さすが製作会社が『ラブ・アクチュアリー』や『ブリジット・ジョーンズ』のワーキング・タイトル社なだけあり、若い観客への訴求力も万全。なによりジョー・ライトのカメラワークが極上の躍動感を醸成し、そこに息づくすべてのキャラを生き生きと蘇らせている。05年度アカデミー賞では主演女優賞など4部門ノミネートを果たした。

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プライドと偏見
監督:ジョー・ライト
出演:キーラ・ナイトレイ、マシュー・マクファディン、ドナルド・サザーランド、
ブレンダ・ブレッシン、ジュディ・デンチ、ロザムンド・パイク
(2005年/イギリス)パラマウント

<ジョー・ライト作品>
『つぐない』レビュー
『路上のソリスト』レビュー

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2006/02/19

さよならホームラン

僕にとっての第二の故郷、川越。

ここでは周囲のシネコンの波に押されながらも2つの映画館が存立していた。僕自身、学生時代にどれだけこれらの劇場に足を運んだか知れない。音響も悪ければ、上映中に外の騒音さえ聞こえてくる。隣に座ったおばあさんはずっと包みをガサガサさせてうるさくて、僕が「ちょっと、静かにしてもらえませんか?」と言いたくて言いたくて(しかしながら小心者ゆえに言い出せず)ウズウズしていると、相手もこちらの様子を察したようでハッとした表情を浮かべ、ああよかった、これで事なきを得たと思いきや、当のおばあちゃんは「食べる?」と醤油味のおせんべを差し出してくるという、まさにスペシャルQの技を繰り出してくる。もちろんそのときに観た映画のストーリーは“おせんべの時間”だけが巧妙に抜け落ちているのだが、別にそれでもいいのだと思わせる幸福なノイズがここにはあり、普段は拒絶しがちなそれらをあえて許容してみることは、思いがけなくも僕の心を充実へと導いてくれるものであったような気がする。

その貴重な映画館の片方、「川越シアターホームラン」が閉館するとの第一報が届いたのは、皮肉なことに『ホテル・ルワンダ』公開初日だった。

homerun01 地元密着の演芸劇場として誕生してから55年あまり、多くの芸人らがステージに立ち、また多くの名作(もちろん駄作だって数多く含まれていたのは映画会社からの安定供給の特性上で仕方のないことだ)が映し出されてきた。1983年には演芸部門を切り捨て「シアターホームラン」とリニューアルした。記念すべき上映作品は「ドラえもん」「東映マンガまつり」「機動戦士ガンダム」。当時の大人たちがいかに「見るものがねえ」と地団駄を踏んでいたか、あるいは子供にどうしてもとせがまれて仕方なく同伴の役目を仰せつかっていたかが目に浮かぶようだ。

閉館日は19日。

僕はひと足速く18日に最後の別れを告げることにした。ラスト・プログラムは『七人の侍』。気合を入れて30分前に劇場入りすると、ロビーには5人くらいの常連客が感慨深げにたたずんでいるだけだった。これが都内での上映であればとんでもない行列ができていたことだろう。これでは閉館に追い込まれるわけだ。

その時点で想起させられることは多いが、しかしこれでよかったのではないか、という気持ちも湧き上がってくる。この記念すべき上映に“いちげんさん”ばかりが集まってもしょうがないのだ。これまで地元でホームラン劇場と共に歳を重ねてきたオッサンやオバサン、また普段はダサいシロクロ映画なんて興味ねえけどたまたま時間あっからただ何となく…という高校生らがフラリと立ち寄れる、そんなまさに生活に密着したあり方こそが「ホームラン」らしい。地元の映画館は観客の余暇の隙間を埋めてこそナンボ。決してそれらが生活の中心(目的)に躍り出ることはない。

homerun03結局、50人程度の観客を擁して『七人の侍』はスタートすることになった。係員が後ろのドアを仰々しく閉める。僕はいつもこの瞬間、港から船が出航するかのような高揚感を感じるのだが、もうこの船に乗るのは最後かと思うと無性に悲しくなった。

両隣は70歳くらいのオジイサン。左側は物語の進展に乗せて鼻息をズーズーと荒らげ、それに対して右は静かですこぶる行儀のよろしいことですなと思ってチラリと目をやると、スヤスヤとお休み中だった。もしも僕らがオセロの駒だったならば、その真ん中の僕はパチリとひっくり返されるのが定められた運命であり、できれば僕も何らかの特徴的な行為に身を浸すべきだったのだろうが、ここは“ただ映画を観る”というごく簡素な単純作業のみでご了承願うと同時に、特筆すべき芸風を持ち合わせぬ不器用な性分をこのときばかりは少しだけ恥じた。

『七人の侍』の上映時間は207分。
途中には5分間の休憩が入る。

観客の半分がトイレに駆け込む。しかし僕の左右はその場を動かず。さっきまで寝ていた右側のオジイサンは銀紙に包んだおにぎり(自分でこしらえたのだろうか)を美味そうにほうばり、左はコンビニの袋をガサガサとさせてサンドイッチを取り出した。その様子に安心し、僕もバッグから菓子パンの類を取り出してムシャムシャと食してみる。映画の中の“握り飯”を見ていたら妙に腹が減ったのだ。3人はやはりオセロな関係にあったようだ。

「まもなく休憩が終了です!」

ロビーで係員が告げる。僕ら3人は各々の食文化を口内いっぱいに全うし、トイレからは大勢の観客が舞い戻ってくる様子を和やかに見守る。こうしてみるといろんな観客がいるもんだなあ。あの人はカウボーイハットをかぶり、首には真っ赤なスカーフを巻いている。あのオジサンのジャンパーにはどういうわけか「ISHIHARA PRO」と書いてある(いったい何者なんだろう?)。そんな光景の向こう側に、ふとあのときのおばあさんが見えたような気がした。隣の席の若者におせんべを差し出しているような、後ろ姿しか見えないのに、どういうわけかそのときのシワクチャな笑顔さえもが視界に入った気がしたのだ。

照明が暗くなる。もう一度おばあさんの笑顔を探すが、もう手遅れで見つからない。最後の蝋燭が掻き消えてしまうような寂しさがこみ上げてきて、ああ、消えないでくれ、と思った。

「オジャジャジェジネヤ!」

相変わらず三船敏郎がなんて言ってんだかちっとも聞き取れない。

それに呼応するかのように、外では車のクラクションが「パプー」と鳴った。

*********

川越シアターホームランについては、こちらのサイトでも詳しく取り上げられています。

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2006/02/17

『君とボクの虹色の世界』

Me_and_you_and_everyone_we_know_3 

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2006/02/15

『ナルニア国物語 第1章 ライオンと魔女』 

ディズニーがこの春すべてのファンタジー大好きっ子たちに真心を込めて贈る超大作『ナルニア国物語』をようやく試写。

僕の周りはみんな目のキラキラした人ばかりで、多分「サンタ信じる?」とか聞いたら「うん!うん!」と首が取れるんじゃないかってくらいにブンブン頷き返してくる方々の宝庫だったことだろう。もう大盛況。30分前に試写場を訪れた僕でさえ補助席だった。どうやら先頭の人は1時間以上前から並んでいたらしく、もはやその方については魔法の力によって突き動かされていたとしか解釈しようがない。

で、明らかに面構えの邪悪な自分がいまこの場に座っていることに果たして正当性があるのかないのか悶々としていたものの、そんな僕でもいよいよ上映開始となると少なからずドキドキしてしまう。きゃっほう!おめえら、冒険の旅へ出発ざんすよ!

(しーん)

まあ、いい。実はちょっと内容に触れない程度でぜひ聞いてほしい場面があるのだ。

戦時下のロンドンから郊外へ疎開した4人の兄弟姉妹。「教授」と呼ばれる初老の男性の邸宅で厄介になる中で、末っ子のルーシーは大きな衣装箪笥を発見。膨大な衣装をかき分けて中へ入っていくと、彼女はあれよあれよと言う間に真っ白な雪景色へと放り出される。そう、箪笥の奥はナルニア国へと繋がっていたのだ。

ガス灯がぼうっとあたりを照らす。

そこに「タッタッタッ」と誰かの足音がこだまする。「誰っ!?」と振り返るルーシー。すると目の前に、ナルニア国で最初のキャラクターがおびえた表情で顔を出す。彼の名はタムナスといった。

僕は彼の佇まいに仰天した。

タムナスの下半身は馬。そして上半身はかろうじて人間でありながら、しかし裸に赤いマフラーのみを首に巻いているといった状態だった。

「変態じゃないか!」

半裸にマフラーのみ、といった格好が変態性に拍車をかけている。仮にふたりの立場が逆だったとしたらどうだったろう。衣装箪笥をたどってタムナスが人間の世界にやってくる。都会であればあるほど効果的だ。渋谷とかどうだろう。109の前あたりだ。時空を超えたタムナスはもうドキドキを抑えられない。衣装をかき分け、かき分け、そしていま、109の前に降り立った…

「即逮捕」

ナルニア国で通用することがこの人間界でも通用すると思ったならそれは大間違いだ。もしも彼が取りうる最善の策を講じるとすれば、それは「ドンキホーテで待機」くらいが妥当なところだろう。ドンキならばそういう類の珍客に事欠かなさそうだからだ。ちなみにこのときルーシーはというと、携帯の画面に夢中で、連行されていくタムナスになど気が付きさえしない。

そんな超大作。
しかもディズニー。

見逃せるわけがない。

***************

ちなみに『ナルニア国物語』は全7章、全史2555年にも及ぶ壮大なクロニクルである。もちろん各章の主人公は違い、『ロード・オブ・ザ・リング』の連続性とは一味違うものとなっている(『ロード~』の作者J.K.ローリングと『ナルニア』の作者C.S.ルイスは互いにファンタジー好きの研究者として旧知の間柄だった)。本作はドイツ軍によるロンドン大空襲を経て、4人の兄妹たちが田舎に住む「教授」と呼ばれる人の屋敷へ疎開させられる場面から物語をスタートさせる。奇しくもC.S.ルイスはオックスフォード大学の教授でもあり、戦時中は自らの屋敷で疎開してきた子供らの面倒を見ていた。この超大作は暇を持て余す彼らに語り聞かせる物語、という形で徐々に練り上げられてきたものらしい。そして、物語に登場する“教授”その人はおそらくC.S.ルイスの分身と考えてほぼ間違いなく、演じるジム・ブロードベントの優しいまなざしが物語を包み込むあたたかさを象徴しているかのようだ。

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2006/02/11

『クラッシュ』

●うちの会社の営業Yさんは今年明けてからの成績がどうも芳しくなく、本人はそれを「厄年のせいだ」って言い張ってるんだけど、周りはそれが明らかに本人の性格の問題だと気付いている。それに電話を受けながら腰をさする癖のこと、本人はあまり自覚していない風だけど、あれはもしかすると腰に爆弾を抱えてる兆候なんじゃないかと社内で心配する向きがあるのも事実だ。

●人事のTさんは最近待望の赤ちゃんが生まれ、家族3人の写真をさっそく机に飾るご執心ぶり。だが一家に幸せを運んでくれた愛しきエンジェルは、反面、夜泣きもすごいらしく、毎朝のごとく目の下にクマをこしらえて茫然とする彼をみているとたいへん忍びないのだけれど、会社の先輩Nに言わせれば「そんなの俺だって経験したことだ」ということらしく、これが愛の鞭だとばかりにどんどんと仕事を振っている。

●マーケのSさんは親会社から出向してきてちょうど2か月目。おそらく仕事にも慣れ始めた頃で、部長も「彼の投入でうちの部も変わる!」なんて気合充分なのだけれど、本人的には「出向を食らった」って失望感を引きずったままでなかなか気持ちが切り替わらない。隣の席のHさんはそんな彼のことを歯痒く思っているのだと、この前こっそり僕に話してくれた。

そんな身分も年齢もまったく違う3人が、会社のマジで狭い食堂でたまたま一緒になった。それぞれ仕事が押していて、ちょっと遅めの昼食だった。同じテーブルで特に会話も交わさないが、付けっぱなしのテレビからは女性の中継リポーターが元気に自分の役目をアピールしていた。

「今日からオリンピックが開幕します!」

その瞬間、3人は僅かに身体を乗り出し、それぞれの境遇も忘れて「おっ」っと揃って声を上げた。それは多分、この世で一度きりの共同作業。たまたまその場を通りかかったこの僕は、世界でいちばんシミったれたこの会社にも、まだ何かしら魔法のようなものが働いているのだろうかと、思わず宙を見上げて怪訝な顔をしてしまった。

あれから4年。映画『クラッシュ』を見ながらふと思い出したのはそんな他愛もない記憶の切れ端だった。ちょうどトリノの4年前。ソルトレークの開催日だった。

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