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2006/02/11

『クラッシュ』

●うちの会社の営業Yさんは今年明けてからの成績がどうも芳しくなく、本人はそれを「厄年のせいだ」って言い張ってるんだけど、周りはそれが明らかに本人の性格の問題だと気付いている。それに電話を受けながら腰をさする癖のこと、本人はあまり自覚していない風だけど、あれはもしかすると腰に爆弾を抱えてる兆候なんじゃないかと社内で心配する向きがあるのも事実だ。

●人事のTさんは最近待望の赤ちゃんが生まれ、家族3人の写真をさっそく机に飾るご執心ぶり。だが一家に幸せを運んでくれた愛しきエンジェルは、反面、夜泣きもすごいらしく、毎朝のごとく目の下にクマをこしらえて茫然とする彼をみているとたいへん忍びないのだけれど、会社の先輩Nに言わせれば「そんなの俺だって経験したことだ」ということらしく、これが愛の鞭だとばかりにどんどんと仕事を振っている。

●マーケのSさんは親会社から出向してきてちょうど2か月目。おそらく仕事にも慣れ始めた頃で、部長も「彼の投入でうちの部も変わる!」なんて気合充分なのだけれど、本人的には「出向を食らった」って失望感を引きずったままでなかなか気持ちが切り替わらない。隣の席のHさんはそんな彼のことを歯痒く思っているのだと、この前こっそり僕に話してくれた。

そんな身分も年齢もまったく違う3人が、会社のマジで狭い食堂でたまたま一緒になった。それぞれ仕事が押していて、ちょっと遅めの昼食だった。同じテーブルで特に会話も交わさないが、付けっぱなしのテレビからは女性の中継リポーターが元気に自分の役目をアピールしていた。

「今日からオリンピックが開幕します!」

その瞬間、3人は僅かに身体を乗り出し、それぞれの境遇も忘れて「おっ」っと揃って声を上げた。それは多分、この世で一度きりの共同作業。たまたまその場を通りかかったこの僕は、世界でいちばんシミったれたこの会社にも、まだ何かしら魔法のようなものが働いているのだろうかと、思わず宙を見上げて怪訝な顔をしてしまった。

あれから4年。映画『クラッシュ』を見ながらふと思い出したのはそんな他愛もない記憶の切れ端だった。ちょうどトリノの4年前。ソルトレークの開催日だった。

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