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2006/03/20

タイムマシンに乗って

サマータイムマシン・ブルース』を観た後で頭に浮かんだのは、「さて、自分ならどこに行こうか?」という素朴な疑問だった。

たとえばひょんなことから有名企業の新作発表会に招かれる。

そこでのハイライトとして披露されるのが、なんと「タイムマシン」。「それではいよいよ…」とアナウンサーの段取りに従って、怪しげなヒゲの社長は「では、あなた!」と最前列に座っていた僕を指差す。会場内に歓声が沸き起こる。遂に我々人間がタイムトラベルの歴史に一歩踏み出す瞬間がやってきたのだ。

ゴーグル、抗菌用の手袋、長靴、サスペンダー

用意されたアイテムはどれも独特だった。暑がりの僕が困惑して「どうしてもですか?」と尋ねると、博士っぽい白衣の男が「どうしてもです」と答えた。

いよいよショータイムが始まる。僕は先ほどのヒゲ面の社長から「どこでも、好きな時代にどうぞ!」と促され、うーん、どれにしようか、とまるでスイーツ・バイキングで10分間くらい悩み続けるオジサンのような表情になる。

緊張の瞬間。そこに立ち会った誰もが、その歴史的重要性を噛み締めていた。いまから人類の新しい1ページが切り開かれる。僕はその栄えある、史上初めてのタイムトラベラーというわけだ。

しかし、後から考えてみれば分かることだが、僕のような謙虚な人間がこういう場に立たされると、かえって最悪の選択肢を引き寄せてしまいかねない。それは大舞台には決してふさわしからぬ選択だった。僕は緊張で手が震え、思考回路が麻痺し、おびただしいほどある地球の歴史の中から、あろうことか「現代」のボタンをセレクトしてしまう。

一瞬、光が膨れ上がったように見え、マシンとゴーグル姿の僕がその中へボワンと姿を消す。会場中が割れんばかりの歓声に包まれる。そしてその直後、またボワンと音を立てて、そこにはまったく同じタイムマシンが現われる。あたりに蒸気が充満する。駆けつけた作業員が手際よくコックピットを外す。いっせいに多くのマイクとカメラが向けられ、僕は勢い余ってこう答える。

「現代のみなさん、はじめまして」

人類の第一歩とは、いつもこのように、どこかスケール感に欠ける。よって2回目以降が正史とされることが実に多く、この点の配慮に関しては、僕も全く同感なのだった。

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