« あれ、知らなかったの、俺だけ? | トップページ | おお、METALの使者よ! »

2006/04/13

『インサイド・マン』の低温ヤケドに注意!

スパイク・リー監督作『インサイドマン』を試写。

Inside_2 オープニングのクレジットでは、まず「SPIKE LEE joint」と映し出され、次に「DENZEL WASHINGTON」「CLIVE OWEN」、そして最後に「and JODIE FOSTER」と締めくくられる。あたかも“4人が企てた大コラボレーション!”って感じ。この高揚感、そしてヒヤッとするほどに透明色に統一された映像に、本筋が始まる前からドキドキしてしまう。

「アフリカン・アメリカンの立場から撮られたアメリカ」などと言うビジョンは、もうスパイク・リーの映画の作風にはあてはまらないのかもしれない。だが、それは平均的なアメリカ人監督(あるいは平均的ハリウッド映画)と同質化してしまったというわけではなく、その遥か頭上を跳び行く感覚。

たとえば『25時』は、9.11テロを彷彿とさせる未だ生々しいニューヨークの爪あとを描写しながらも、そこからイマジネーションを爆発させながら再起動しようとする人間の生理的な再生願望のようなものを活写していて、落ち着いた佇まいながらも胸にズシンと迫り来る裏テーマに押し潰されそうにもなった。

それに比べ『インサイドマン』は実にエンターテインメントな作品だ。マンハッタンにある銀行が強盗団に襲われ、多くの人質が取られる。すぐに捜査官が急行し犯人との接触を試みるが、事態は膠着するどころか、相手側が一枚上手なこともありまったく進展を見せない。それと同時刻、ターゲットとなった銀行の会長は敏腕の女性弁護士を呼び出し、彼女にひとつの使命を託して現場に送り込む。果たして犯人側の狙いは何なのか。そしてこの銀行には、いったい何が隠されているのか。

『25時』と同じニューヨークを舞台にはしているが、そこはもはや9.11の爪あとなどもはや覗かせない。しかしながら、豪華キャスト3者が揃い踏みしているせいか、あるいは「極太」と「超軽」のテイストを器用に往復してみせる神業的な演出設計のせいか、それが単なるエンタテインメントに留まらないような、やはりどこか胸にズシンと来るような重みが立ち上がっている。

たとえばここ。強盗団は人質に彼らとまったく同じジャンプスーツを着せて、もはや誰にとっても誰が人質で誰が強盗なのか判別が付かない状態を作り出す。もちろんそこには肌の色、職業、年代がまったく違う人ばかりが大勢いるわけだが、そんな彼らが同じ衣装を身にまとうことによって、そこには何の差異も存在しない、不思議な世界が生れてくる。この緊張状態を逆手に取った地点で起きる“妙な手ごたえ”は何なのだろう。

冒頭、クライブ・オーウェンが観客に語りかける。

「私の名前はダルトン・ラッセル。一度しか言わないからようく覚えておけ。」

そう語られたとき、我々はここから彼の仕掛けたゲームが始まっていたのだと知らされる以上に、彼の言葉が何か根源的な真意を含ませながら我々の魂に向けて発せられたものであるかのように響いてくる(そう思わせるのが、オーウェンの巧さなのだろう)。

謎の銀行強盗団、事件を担当する敏腕捜査官、それに途中介入して取引を持ちかける女性弁護士。

まったく別の現場で自分の役目を淡々とこなす3人。それぞれにとても頭が切れ、しかしながら彼らの行動は「完璧」として描かれるというよりは、そこかクスクスと「ファニー」な挙動なども随所に差込みながら、そこに3人への愛着と人間性を沸き立たせる仕組みがとられている。観客は次第にニヤニヤが止まらなくなり、そして映画が終わってからは逆に何か熱いものがこみ上げてくる。それはシーン的にはあまり絡むことのない主演3人のキャラクターが、後に観客の脳内でガッチリと手を組んで見せているイメージが浮かんでくるからなのかもしれない。彼らはそれほど、状況や役柄を越えて、作品にとっての『インサイド・マン』、つまり映画の中の純然たる機能と化していたことに気が付くのだ。

クライブ・オーウェンに敬意を表して、僕も“もうあと一度しか言わない”。これはまったくのエンターテインメント作品である。にもかかわらず、見終わった後にはそれを裏返して、実は深いテーマが隠されていたかのような“有り余る手ごたえ”を感じる。ピッチャーの剛速球を受けて、気が付くとキャッチャーの手が赤く腫れ上がっている感覚とちょうど似ているかもしれない。

まったく、舐めてかかるととんでもない返り討ちを食らいかねない。

|

« あれ、知らなかったの、俺だけ? | トップページ | おお、METALの使者よ! »

映画・テレビ」カテゴリの記事

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『インサイド・マン』の低温ヤケドに注意!:

« あれ、知らなかったの、俺だけ? | トップページ | おお、METALの使者よ! »