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2006/06/30

『M:i:Ⅲ』の裏切りが小気味よかったり微妙だったりすること。

あのテーマ曲から予想される、ハラハラドキドキの胸の高まりは見事に裏切られる。なにしろ今回のミッションは、冒頭から大上段に振り下ろされるニードルのような鋭さが炸裂。もちろんその理由には『カポーティ』でオスカー俳優に輝いたばかりのフィリップ・シーモア・ホフマンの得体の知れない存在感が挙げられる。当初より話題となっていたこのキャスティングだが、紳士的かと思えば次の瞬間には冷酷な言葉を淡々と吐き続けるホフマンの演技は他の出演者に比べて圧倒的であり、それに抗して「俺も負けるか!」とばかりに演技合戦へ乗り出してくるトムの姿も勇ましくはあるが、はっきり言ってホフマンは成功法で勝てる相手ではない。というわけで、もはやこのスパイ(本来、肉弾戦を避ける存在だからこその“スパイ”なのだが)シリーズは、あらゆる意味を込めて前人未到の異様なテイストを醸成しはじめる。

そもそもⅠではデ・パルマの軽妙さとギミックとが正統派のスターターとなり、Ⅱではジョン・ウーの遊び心が映像の「格闘ゲーム化」を促進させた。今回の登板となった映画初進出J.J.エイブラハム(「エイリアス」「LOST」)は、シリーズの“縦ライン(伝統)”を踏襲しつつも、ストーリーにおいて主人公のパーソナルな部分にグイと踏み込み、さらには同僚、そして部下といった人間関係にまで描くという“横ライン(状況)”の拡大によって独自色を注入している。

この試みを、世界中で長年親しまれる「スパイ大作戦」の延長と捉えるか、あるいはそれを口実としたトム流アクションヒーロー列伝と捉えるかは、あなたのメンタリティ次第だ。もちろんこれまで新作ごとにアクションの定義を更新し続けてきた大人気シリーズらしく、矢継ぎ早に繰り出されるタイトなアクションはまさにお釣りが出るほどのクオリティと断言できる。とりわけ予告編でも登場する、爆破の衝撃でトムの身体が吹き飛ばされたあげく車体にぶち当たるというシークエンスをはじめ、これまでのアクション描写にはない意表を突く見事なフェイントの数々が観客の目を極限まで楽しませてくれる。

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『インサイド・マン』は“頭のいい映画”であり、同時に列記とした“エンターテインメント”でもあるのが素晴らしい。

ハリウッドにおける主役級3人が名称スパイク・リーの下に集結したクライム・エンタテインメント『インサイドマン』。とにかく冒頭に映し出される「スパイク・リー joint デンゼル・ワシントン、クライブ・オーウェン and ジョディ・フォスター」というクレジットだけで何やら歴史的な1ページに立ち会っているかのような臨場感が味わえる。

ニューヨークを拠点に、人種問題を扱った数々の骨太なドラマを生み出してきたスパイク・リーにとって、舞台は同じでも本作はいささか方向性の異なるゴージャスな純エンタテインメントとして映る。少なくとも脚本の段階ではそうだったろう。しかし、パリを描いた映画にエッフェル塔が欠かせないように、そこがニューヨークであると言うことは同時に「人種のるつぼ」を描くことでもある。だからこそリーは、ほんの些細な描写のなかに独自の視点を盛り込むことを忘れない。たとえば、様々な人種からなる人質全員が一様に黒のジャンプスーツの着用を命じられ、彼らが肌の色を越えて「何者でもない」状態にまで突き動かされるシーンに、何か深いメッセージを感じ取ってしまう敏感な観客は少なくないだろう。そのような「スパイク・リー印」とも言うべきテイストが、作品全体を引き締める紋章として実に生き生きと機能しているのである。

そして白眉なのは、全く別々のテリトリーでうごめく主役3人が、肌の色、性別、バックグラウンドを越えて、ふいに一本の線で繋がっているように思える瞬間である。緊迫した状況の中にえてしてコミカルで飄々とした雰囲気を充満させながらも、実は観客にオフサイド・トラップを仕掛けようと淡々と狙い続けていつような姿勢が、この映画のステイタスを根源的に高め、同時に豪華俳優陣それぞれの顔を平等に立てる結果にも繋がっている。

「完全犯罪」+「思いがけない顛末」としての醍醐味を兼ね備えながらも、ただそれだけでなく、作り手としての崇高な意識を感じさせてくれるあたり、恐らく今年、10本の指には数えられる傑作エンタテインメントである。

公式サイトはこちら

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2006/06/11

ザ・ライブカメラ・ショウ~それはアートになり得るかどうか?~

午前3時50分。カーテンの向こうから「チチチ…」と鳥たちの囀りが聞こえてくる。まさに罠にはめられたドラキュラの気分で「まさか…」とばかりカーテンを開くと、東側の空がほんのりと黒から藍色へ門出のときを迎えていた。まだ真夜中だと思っていた世間は、もう朝を迎えていたのだ。

このやるせなさ、誰かと共感したい。この時間帯に起きている人物を頭の中で何度かリスト検索してみたところ、その結果は身近な友人を一人指し示した。隣町の川越に住むS君だ。僕はさっそく彼に連絡することにした。

「あ、もしもし、S君?あのさあ、外を見なよ。もう世間は朝だよ」

さすがにその検索結果は信憑性の高いもので、彼はさきほどコンビニまで出かけ、今しがた自宅に帰る途中だったという。「そうそう、この時間帯って夜なのか朝なのか、微妙っすよねー」。気だるい声でS君が答える。

こんなやり取りを重ねるうちに時刻は4時を越えた。ふと、「この時間、全国はどうなっているんだろう?」と興味が湧いた。さっそくネットで全国のライブカメラを検索してみる。それでは皆さん、もしお手すきならば一緒にご唱和願いたい。

「ズームイン、午前4時!」

高知城
前に従兄弟に教えてもらったライブカメラを思い出し、トップバッターとしてご登場願うことにした。暗闇のなかにしきり点滅する存在あり。モールス信号かと思い「ツーツーツツ」などと解読を試みるが、能力が及ばず。 もちろん城はまだ見えない。

長崎 水辺の森公園
ああ、故郷よ。まだ真っ暗なのだが、さすが長崎。高台に向けて無数の住居が明かりを灯している。100万ドルの夜景(時価/4:00a.m.現在)の片鱗がうかがえる、などと書くと、身内びいきが過ぎるのでやめておく。事実、それほどの価値はない。

福岡・天神 渡辺通り
まだ真っ暗。そこが渡辺通りのどこに当たるのかが分からない。日中は交通量の多いこの場所も、今はしんみり寂しいものだ。時折、道路をタクシーが走り去っていく。

広島 原爆ドーム
照明の賜物か、おぼろげながらその輪郭を確認。それにしてもカメラの前を邪魔する2本のラインが気になってしょうがない。しかもカーテンがなびいてるし。カメラの前は出来るだけクリアにしておいてください。

富士北麓から臨む富士山
早起き富士山。僅かな光源のもと、霧に包まれたその姿を指差し確認。もちろん動きは全くなく、それがライブである必要性は午前4時においてまったく感じられない(もちろんそれは僕個人の事情によるものだが)。

東京 御茶ノ水駅
学生時代はこの橋の上から神田川を眺めていたものだ。いくら眺めてもちっとも飽きない風景だった。それがいまやこんなにライブカメラで24時間見られるなんて。このアングルからは一瞬地上に顔を出す丸の内線が見えるはず、といっても朝4時なので確認しようがない。また出直そう。

東京タワー
バックはすっかりピンク色の朝模様。東京タワーの赤が微妙に鈍く輝いている。 これだけ存在感の主張が激しいと、それが建築物ではなく、ひとりのキャラクターのように思えてくる。朝早くからご苦労さま、といった感じ。

青森 大間崎
もちろん実際には一度も足を運んだことはない。「本州のてっぺん」という表現が素晴らしい。まさにその地点なのだなあ。もうすっかり明るくなっているが、不穏な静けさを見せる水面を無数のカモメがひっきりなしに舞っている。そして散歩中だろうか、ひとりの老人がフラフラとモニュメントへと近づいていく。何かが起こりそうな予感がするが、老人がその末端へとたどり着くにはあと3分くらいかかりそうだ。

札幌 時計台
札幌の朝も意外に早かった。しかしこんな角度で見下ろすと時計台も印象がまるで違って見える。「意外と小さいんだぜ」という話はよく聞くが…。お前、本当に時計台か?

【ボーナス・トラック】

エッフェル塔

…デカすぎるよ!

なるほど、日本全国津々浦々、それぞれの朝を迎えているわけだ。あ、そういえば、前にS君から「川越にもライブカメラがあるんすよ」と教えてもらったんだっけ。

川越クレアモール ライブカメラ

S君はもう自宅に戻っただろうか?すかさず携帯からリダイヤルしてみる。

「あー、S君?まだ外?あのさあ、申し訳ないんだけど、この前に教えてもらったライブカメラまで行ってさあ、ちょっと手を振ってみてよ。あ、いま近くなの?ラッキー。じゃ、よろしく!」

そこは川越の繁華街。現住所とそれほど距離が離れていないだけに、その明度はほぼ同じだ。まだヒンヤリとした質感の映像の中、あちら側から見覚えのあるむさくるしい男がズンズン近づいてくる。わざとらしくカメラを通り過ぎてからひょっこり戻ってきた彼は、まず一度サッと手を振って、続いて味をしめたように何度もアピールを繰り返した。映像の中の彼は幾度も携帯を操作し、そのたびに僕の携帯がブルブル振動を繰り返したが、僕はその電話には出ず、気が付くとベッドに横たわって朝まで寝息を立てていた。

彼がどれくらい手を振り続けていたのか僕は知らない。ただ着信履歴からは、約20件ぶんのS君が必死に手を振り続けていた様子がつぶさに伺えるのだった。

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