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2006/06/11

ザ・ライブカメラ・ショウ~それはアートになり得るかどうか?~

午前3時50分。カーテンの向こうから「チチチ…」と鳥たちの囀りが聞こえてくる。まさに罠にはめられたドラキュラの気分で「まさか…」とばかりカーテンを開くと、東側の空がほんのりと黒から藍色へ門出のときを迎えていた。まだ真夜中だと思っていた世間は、もう朝を迎えていたのだ。

このやるせなさ、誰かと共感したい。この時間帯に起きている人物を頭の中で何度かリスト検索してみたところ、その結果は身近な友人を一人指し示した。隣町の川越に住むS君だ。僕はさっそく彼に連絡することにした。

「あ、もしもし、S君?あのさあ、外を見なよ。もう世間は朝だよ」

さすがにその検索結果は信憑性の高いもので、彼はさきほどコンビニまで出かけ、今しがた自宅に帰る途中だったという。「そうそう、この時間帯って夜なのか朝なのか、微妙っすよねー」。気だるい声でS君が答える。

こんなやり取りを重ねるうちに時刻は4時を越えた。ふと、「この時間、全国はどうなっているんだろう?」と興味が湧いた。さっそくネットで全国のライブカメラを検索してみる。それでは皆さん、もしお手すきならば一緒にご唱和願いたい。

「ズームイン、午前4時!」

高知城
前に従兄弟に教えてもらったライブカメラを思い出し、トップバッターとしてご登場願うことにした。暗闇のなかにしきり点滅する存在あり。モールス信号かと思い「ツーツーツツ」などと解読を試みるが、能力が及ばず。 もちろん城はまだ見えない。

長崎 水辺の森公園
ああ、故郷よ。まだ真っ暗なのだが、さすが長崎。高台に向けて無数の住居が明かりを灯している。100万ドルの夜景(時価/4:00a.m.現在)の片鱗がうかがえる、などと書くと、身内びいきが過ぎるのでやめておく。事実、それほどの価値はない。

福岡・天神 渡辺通り
まだ真っ暗。そこが渡辺通りのどこに当たるのかが分からない。日中は交通量の多いこの場所も、今はしんみり寂しいものだ。時折、道路をタクシーが走り去っていく。

広島 原爆ドーム
照明の賜物か、おぼろげながらその輪郭を確認。それにしてもカメラの前を邪魔する2本のラインが気になってしょうがない。しかもカーテンがなびいてるし。カメラの前は出来るだけクリアにしておいてください。

富士北麓から臨む富士山
早起き富士山。僅かな光源のもと、霧に包まれたその姿を指差し確認。もちろん動きは全くなく、それがライブである必要性は午前4時においてまったく感じられない(もちろんそれは僕個人の事情によるものだが)。

東京 御茶ノ水駅
学生時代はこの橋の上から神田川を眺めていたものだ。いくら眺めてもちっとも飽きない風景だった。それがいまやこんなにライブカメラで24時間見られるなんて。このアングルからは一瞬地上に顔を出す丸の内線が見えるはず、といっても朝4時なので確認しようがない。また出直そう。

東京タワー
バックはすっかりピンク色の朝模様。東京タワーの赤が微妙に鈍く輝いている。 これだけ存在感の主張が激しいと、それが建築物ではなく、ひとりのキャラクターのように思えてくる。朝早くからご苦労さま、といった感じ。

青森 大間崎
もちろん実際には一度も足を運んだことはない。「本州のてっぺん」という表現が素晴らしい。まさにその地点なのだなあ。もうすっかり明るくなっているが、不穏な静けさを見せる水面を無数のカモメがひっきりなしに舞っている。そして散歩中だろうか、ひとりの老人がフラフラとモニュメントへと近づいていく。何かが起こりそうな予感がするが、老人がその末端へとたどり着くにはあと3分くらいかかりそうだ。

札幌 時計台
札幌の朝も意外に早かった。しかしこんな角度で見下ろすと時計台も印象がまるで違って見える。「意外と小さいんだぜ」という話はよく聞くが…。お前、本当に時計台か?

【ボーナス・トラック】

エッフェル塔

…デカすぎるよ!

なるほど、日本全国津々浦々、それぞれの朝を迎えているわけだ。あ、そういえば、前にS君から「川越にもライブカメラがあるんすよ」と教えてもらったんだっけ。

川越クレアモール ライブカメラ

S君はもう自宅に戻っただろうか?すかさず携帯からリダイヤルしてみる。

「あー、S君?まだ外?あのさあ、申し訳ないんだけど、この前に教えてもらったライブカメラまで行ってさあ、ちょっと手を振ってみてよ。あ、いま近くなの?ラッキー。じゃ、よろしく!」

そこは川越の繁華街。現住所とそれほど距離が離れていないだけに、その明度はほぼ同じだ。まだヒンヤリとした質感の映像の中、あちら側から見覚えのあるむさくるしい男がズンズン近づいてくる。わざとらしくカメラを通り過ぎてからひょっこり戻ってきた彼は、まず一度サッと手を振って、続いて味をしめたように何度もアピールを繰り返した。映像の中の彼は幾度も携帯を操作し、そのたびに僕の携帯がブルブル振動を繰り返したが、僕はその電話には出ず、気が付くとベッドに横たわって朝まで寝息を立てていた。

彼がどれくらい手を振り続けていたのか僕は知らない。ただ着信履歴からは、約20件ぶんのS君が必死に手を振り続けていた様子がつぶさに伺えるのだった。

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