« ヒースローにて | トップページ | 『夕凪の街 桜の国』クランクアップ会見 »

2006/09/16

靴を脱いで、お邪魔します。

トム・ヨークによく似た係員は、鏡の前で何度も練習した風な好感度の高い笑顔を浮かべ、自信たっぷりに「窓側の席をご用意いたします」と言う。それでは機内で立ち回る際に何かと都合が悪いと思い、「あいるさいど、ぷりーず」と僕がリクエストすると、彼は「ノーノーノー」と人指し指を左右に振った。そんな些細なジェスチャーが精神的にこたえる。僕は魔法でもかけられるのかと身体を反射的に翻したりもしたが、係員はそれを意にも介さずに改めてこう告げた。

「つまり、あなたはラッキーなんです。まあ、機内に乗り込めば分かりますから」

**********

空港内は閑散としているのに、手荷物チェックには長蛇の列。ちょうど僕の前には韓国人の老夫婦が並んでおり、見送りの友人を何度も振り返っては「カムサムニダ!カムサムニダ!」と手を振っていた。列にはターバンを巻いた人や、チャドルを着込んだ人や、意味もなく「サンコンさん」と名づけたくなってしまうような人などが盛りだくさん。いろんな肌の色の人が並んでるもんだ。ここでは自分も例外なくマイノリティであり、空港職員の目からすれば、きっと僕とこの老夫婦は一括りにされてしまうだろう。あわよくば親子として一瞥されてしまうこともあるかもしれない。

それはそれで取るに足らないことだろうが、いずれにしても、こういう人種のるつぼにまみれていると、自分がここにいてはいけないような気がし、途端に走り出したい気持ちに囚われてしまう。また、係員に手荷物カバンを指差されて「ラップトップ?」と尋ねられているのになんのことやらさっぱり分からず途方に暮れた表情をしている先の韓国人男性を目にすると、こちとら束の間の即席家族を(一方的に)築かせてもらったせいか、「父さん・・・」などと遠い目で見つめてしまう。

そうしているうちに持ち物検査の順番が回ってくる。2、3人前になって各人が靴を脱いでトレイに乗せていることに気がつき、慌ててシューズの紐を解く。ソックスに穴が空いていないことを切に願いながら、慎重に靴を脱ぐ。よかった、穴は無かった。

たかが靴を脱いだだけ。それだけで全裸にされたかのような敗北感が身を支配する。床が冷たい。その上、金属探知機をくぐるとき無性に「ごめんください」と言いたくなる。日本の古きよき文化を多少に捻じ曲げた感じで放出しようとするそんな危険な衝動に対し「否!」と唱え、なんとか思いとどまる。

探知機は鳴らなかった。「ごめんください」とも言わなかった。けれど、警備員には止められた。前にいた韓国人のパパ(期間限定)は何もなしにスルーしたのに、なんで俺はこうしてボディチェック受けねばならんのか。「手を上げて」と言われて、言われたとおりに万歳をする。上半身のチェックが終わってからもういいだろうと思っておもむろに手を下げると、「ダメダメ、上げたままで」と言われて精神的にかなりヘコんだ。

ほとんどの男性はこのチェックを受けていたのだけれど、これは単なるボディ・タッチのゲームでもなんでもなく、警備員の態度は紳士的ながらも、その表情は真剣そのものだった。自分はいまマジで「危険か、否か」を判別されているのだ。そんなことを考えると、なんか「こそばゆい」を通り越して、今にも泣きそうな半笑いを浮かべてしまう自分がいた。

このブログの筆者の日記はこちら

|

« ヒースローにて | トップページ | 『夕凪の街 桜の国』クランクアップ会見 »

旅の記録」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/137483/11913052

この記事へのトラックバック一覧です: 靴を脱いで、お邪魔します。:

« ヒースローにて | トップページ | 『夕凪の街 桜の国』クランクアップ会見 »