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2006/09/02

天使のような子供たち

ようやっと会場を出てレディング駅への道のりに乗ると、目の下に涙模様のメイクを施した黒ドレス姿の女性がいて、誰構わず罵っている現場に出くわす。彼氏のような人が懸命にたしなめているが、彼女はその行為が天命だと勘違いしているのか、一向にやめる様子はない。

そんな光景に気をとられていると、10人くらいの子供達に「もう帰んの?」と声をかけられた。

「うん、そうだよ」と答えると、「じゃあ、リスト・バンドをちょうだい!ちょうだい!」とねだられる。予想でしかないが、多分、彼らは地元の子たちで、毎年こうやって無料でライブを見るためにあの手この手で策を練っているのだろう。

いくつかのイギリス映画で見た子供達のように凄く健気に思えてきて、「ああ、いいよ。でも、このバンド、取れる?」と手を差し出すと、みんな「サンキュー!」と大はしゃぎ。どうすんのかと思って見ていたら、これがまたなんとも万全の役割分担で、「おい!お前の出番だ!」とガキ大将っぽい奴が声をかけると、「ほらきた!」とばかりにいちばん歯の強そうなちっちゃい子が飛び出してきて、周りに「がんばれ!がんばれ!」と祝福を受けながらリストバンドの接着部分に懸命に歯を立てる。そうやって始まったリストバンド解除作業。「うーん!うーん!」と少年は必死になって歯を駆使。まるでこの日のために1年間、歯磨きを欠かさなかったかのようだ。

数分後、見事にバンドは少しヨレヨレな形で解除された。その代償として、私の手首は少年のヨダレでダラダラに。何度か狙いが反れて突き刺さった歯の感触も深く浅く残っている。そんな彼らといえば、獲物が手に入るとその態度も実にあっさりしたもので、次の獲物を探すために「わーっ!」っとすぐに消えていなくなった。

彼らは無事、パールジャムのステージを見れただろうか、と帰りの列車の中で幾度となく思い出す。あの歯の強そうな子。あんな頑張り屋さんが、結局、いちばん貧乏くじ引いてライブ見れなかったりするんだよね。まあ、そういう奴がいずれガキ大将になって、また下っ端の子に同じことさせるんだろうけど。

列車の中で何度かまどろむ。あまり意識はしなかったが、ずっと徐行運転が続いていた。到着間際になって「ちょっとしたトラブルがあって徐行運転を続けて参りました。でもだいじょうぶ。すぐに到着です」とアナウンス。

パディントンのホテルに帰宅すると、24時ごろからBBC2で「レディング・フェスティバル・ダイジェスト」がオンエア。見逃したパールジャムやMAXIMO PARKをブラウン管越しに体験。番組進行の部分はどうも会場からの生放送らしく、マイクが数々の雄叫びを拾っている。

さっきまで、あのテレビの中の風景にいたのに、いまはテレビを眺める側の人間になっている。このたったブラウン管一枚の仕切りを移動するのに、結構な体力を消耗したものだ。

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