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2006/10/18

『サンキュー・スモーキング』

 なにもこんなタイトルで愛煙家を皮肉ろうというわけではないし、狙いはむしろその逆にある。弱冠28歳の新鋭監督にして『ゴースト・バスターズ』のアイヴァン・ライトマンの息子、ジェイソン・ライトマンによる初メジャー作『サンキュー・スモーキング』は、「タバコは悪」とする社会常識をいったんニュートラルに戻すことで、そこにうごめく業界・政界のキーパーソンたちの怒りに歪んだ表情を格段に見えやすくしたスマートな社会派コメディだ。

 その中心に立つのがこの人、タバコ会社の敏腕スポークスマン。テレビの討論番組などにも率先して参加し、論客からの一斉砲撃も何のその。常に爽やかな笑顔と明快なトークで世論を巧みに操作する。嘘はつかない。でも聞かれてないことは明かさない。法的には何の問題点も発生しない。必要ならばハリウッドの大物プロデューサーに喫煙シーンを盛り込んでくれるよう直談判だってする。タバコのイメージ向上のためならば何だってやる。それが彼の使命だ。

 そんな彼にも心休まるときはある。夕食時には馴染みの店でいつものメンバーが集結。銃製造、アルコール、タバコといった三大“極悪”企業のスポークスマンたちが世間話に花を咲かせながら情報交換する。ついポロリと飛び出す本音にみんな「わかる、わかる」と妙に納得。彼らは互いにかけがえのない理解者なのだ。

 また彼も家庭に帰ればひとりの親だ。父の仕事のせいで肩身の狭い思いをしている息子に対して得意の「議論のすり替え」で接するわけにもいかない。息子は論敵ではないのだ。じゃあ、家庭と仕事とで表情を使い分ける俺の主張って一体何なの?っつうか、タバコって本当に世間で言われるように悪なの?

やがて天の啓示を受けた彼がひとりの人間としてゆっくり思考をめぐらすとき、役職を超えた新たなビジョンが対立の向こうを明るく照らし出す。

時として人は必要以上に目くじらを立て、その先にある大きな問題を見えなくしてしまうが、本作が目指すのはその「思考停止」からの大いなる脱却だ。これは愛煙家と禁煙家の魂をそろって健康にする映画であり、現代に生きるあらゆる人たちへ贈る最良の処方箋といえるだろう。

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サンキュー・スモーキング
監督:ジェイソン・ライトマン
出演:アーロン・エッカート、マリア・ベロ、キャメロン・ブライト
(2006年/アメリカ)20世紀フォックス映画

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