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2006/10/30

『ハヴァ、ナイスデー』

28日よりスタートした『ハヴァ、ナイスデー SIDE B』ユーロスペースにて鑑賞した。

実はユーロが円山町に移動してから初めとなる来館。夜21時からの上映ということで、劇場付近はホテルのネオンが眩しい。劇場まで全力ダッシュで走るさなか、ふと前方のカップルが喫茶店にでも寄るかのようにさりげなくホテルに消えた。その様子は、まるで胡散臭いマジックでも見ているように僕をすこぶる落ち着かなくさせたものだった。

さて、肝心なのは映画の方だ。本作『ハヴァ、ナイスデー』はもともと「短篇.jp」というネット配信ショートムービーが劇場版となって公開されるに至ったもの。『美女缶』の筧昌也監督が『35度の彼女』という作品でこのプロジェクトに参加されていることもあり、ネット版の頃から新作がアップされるたびに視聴していた。そこで18本製作されたショートムービーが、結果的に「SIDE A」と「SIDE B」とに別れてめでたく劇場公開されることになった。

それらは、すべての作品が“たった一日で撮影する”という「ドグマ95」も真っ青の基本ルールにのっとって製作されているという。監督には若手からベテランまで、プロデューサーに組んでみたいと思わせた18人が選ばれた。ネット配信時には僕の全く存じ上げない監督さんもいた。しかしその後、新作映画の製作ニュースを目にするたびに「短篇.jp」の参加者が名を連ねていることが続いたので驚いた。この業界には、僕ら観客が「おっ、この監督いいじゃん!」とか思ってツバをつけるレベルを超えて、本当に素人には判別つかないような段階で「これはいける!」と青田買いのゴーサインを出すプロデューサーの存在があることをまざまざと見せ付けられた。これは実に当たり前のことにも思えるが、当たり前のことが自分の興味の対象内で起こることほど心動かされることはない。

加えて、前々からネットで視聴していた僕としては、アウトプットの違いでこんなにも印象が変わるのか、とも驚かされた。たとえば劇場のスクリーンで見た映画でボロボロ泣いた自分が、次のタイミングでレンタルDVDを家庭のAV機器でその作品と合間見えると「なんぼのもんじゃい」とあっけにとられることがある。それと逆のことが劇場版『ハヴァ、ナイスデー』では起こっていた。パソコンの画面で“小さ目のテレビ感覚”で視聴していた時には面白さがよく分からなかった作品が、ユーロスペースのスクリーンで見ると「おっ!」と軽い手ごたえと共にキャッチできたりする。

もちろん9つも作品が並べば(この日に劇場で見たのは「SIDE B」だったので)そこに自ずと好き嫌いが別れるのは当然のこと。しかしアウトプットの違いによる印象の変化はすべての作品について起こった。デカイ被写体はやはりスクリーンで見るに限る。すばやい動き、ダイナミックな動きもやはりスクリーンで見たい。あとPC画面ではうまく伝わらなかったセリフがスクリーンでは至極すんなりと入ってくる。時間軸における繊細な感情の起伏が手に取るように理解できる。小さい画面を目で見ることと、スクリーンで全身で浴びることとは受け手にこんな差異をもたらすのか。これからは「劇場作品」の定義を改めよう。これすなわち、「五感を使って見る映画」ということなのだ。

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『35度の彼女』 …『美女缶』の筧監督による最新作。バスで見かけたあの娘は同級生?人違い?ほんの些細な日常の取っ掛かりが、ミシェル・ゴンドリーを思わせる創造的文体で淀みなく展開する。たった10分間に200カットも用いた映像世界はその手作り感覚を逆手に取っているところで魅力が倍増している。『美女缶』の主役だった藤川俊生のブリーフ姿には脱帽。

『WAITER』 …バレンタイン・デーのひとコマ。喫茶店を訪ねてくるふたりの客。かつて男からラブレターを受け取ったことがあるというウェイター。最初から最後までフォトジェニックな松尾敏伸の横顔を喫茶店の薄明かりが仄暗く照らす。そこに飛び込んでくる小山田サユリの存在感はこの作品でもやはり健在。

『プリーズ、ウェイクアップ』 …CM界の奇才、山内監督がやってくれた。最近ひそかに大注目と謳われる怪優、古館寛治のひとり舞台を阻止しようと、深浦加奈子、初音映莉子が負けじと演技合戦を挑む!という物語ではないのだが、そういう舞台裏の心理を感じさせるほどに俳優の魅力&奇妙なシチュエーションにゾクゾクする作品。観客にぜったい尾をつかまれない山内テイストに最後まで見事に持っていかれる。

『初恋のてんまつ』 …先日、新作『LITTLE DJ ~小さな恋の物語~』製作が発表されたばかりの永田琴監督。恐らく少女にしか分からんであろう、すごくガーリーなストーリーにきちんと男の子目線も入れながら、「やっぱり男はダメなんだから」を少年少女レベルで描いている。余談だが、上映中に隣の席の女性がずっとクスクスと笑っていた。何か彼女の大事な記憶にでも触れたのだろうか?

『バリガー』 …僕の中で9本中いちばん印象が変わった作品。やっぱり東京タワーの陰影はスクリーンで見るに限る。ザラついた映像へのこだわりや、洞窟内の窮屈感から生まれる面白い縮尺変化など、柿本ケンサク作品はやっぱりスクリーン向きのスケール感を持っているんだなあ、と実感。

『世田谷リンダちゃん』 …『タカダワタル的』(監督)や『さくらん』(脚本)や『怪奇!幽霊スナック殴りこみ!』(杉作J太郎による男の墓場プロダクション作品に出演)という輝かしい経歴を持つ女性クリエイター・タナダユキが手がける、ゆるくてミニマルな“ウェスト・ミーツ・イースト”。ムーンライダースの鈴木慶一と『松ヶ根乱射事件』の山下監督とが役者として共演だなんて奇跡に近い。

『世界でいちばん身体にいいこと』 …いぶし銀の職人作品だと思う。本当に小さな作品ながら、その世界を完全に制御してリズムを刻み、最後にポンと次の段階へと昇華させる。上手いなあ、と溜息。

『ピンポンッ』 …自宅に92歳の祖母と住む身としては、いつかその日が来るのかもと不覚にも泣いてしまった。そんな重大事が携帯メールでごくシンプルに知らされるという仕掛け。文面の淡白さが、実は人間の感情の深いところに繋がっていることに、映画が終わってから気づかされる。

『全速力海岸』 …最近さっぱり劇場映画のない中野裕之監督だが、短篇作品『アイロン』がカンヌで受賞するなど映像にかけてはやっぱり最高の仕事をする。ファーストカットから見事に中野印。ネット配信で元気をくれた本作は、劇場でもやっぱり元気をくれた。

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