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2006/10/13

『マリー・アントワネット』

『マリー・アントワネット』を観た。パンを食べる経済力もない国民に対し「だったらお菓子を食べればいいじゃないの」と言った悪名高き王妃・・・というのが一般的な知識ではあるものの、もちろんソフィア・コッポラが示すのはそれとは180度視点の違う映像世界。それでこそソフィアが作る意味があるというもの。

18世紀中葉、オーストリア大公マリア・テレジアの政略は、国の生き残りを賭けて娘たちを近隣大国に嫁がせることにあった。末娘マリーにあてがわれたのは、フランス。1770年、ついにマリーが祖国を離れることになったその年、彼女はまだ14歳で、一方、彼女を迎える側のルイ16世にしてもまだ15歳の青年だった。

アントニア・フレイザーによる著書「マリー・アントワネット」に多大なインスピレーションを受けたソフィアの試みは、マリー&ルイを「ティーンエージャー」と位置づけることから始まる。

つまり本作の主人公はちょうど『ヴァージン・スーサイズ』の少女と同じくらいの王と王妃ということになる。そもそも『ヴァージン・スーサイズ』で少女たちが自殺を図ってしまうことは何よりそのタイトルが声高に語っているわけだが、『マリー・アントワネット』の「最強の10代カップル」のデカダンスにまみれた悲劇的末路については誰もが一般知識として知るところ。そう、行き着く先はギロチン。しかしソフィアはその落としどころに関しても、心を尽くしてとてもリリカルな文末表現を用意している。

本作ではキルスティン・ダンスト演じるマリー・アントワネットの眼差しをひたすら映し続けることによって、観客に言葉以上の何かを感じさせようとする。政略結婚にもかかわらず「婚約」という一大イベントにドキドキ鼓動を高まらせていた少女。彼女が体験する宮中のしきたり。大勢の前での食事、入浴、着替え。女性どうしの牽制合戦。はっきり言ってオタクっぽくもある夫への不満。そしていつしか子供が生まれ、親となったときの想い。いつしかその表情は、恋するティーンエージャーから脱し、大人の女性へと変化していく。

それは歴史書のように第三者が眺めた宮廷生活や伝記といったものではなく、かといってドラマティックな歴史絵巻が巻き起こるというわけでもなく、激変する国家に運命を委ねた多感な少女が、究極のアウトサイダーから国家の女王として決断を迫られるまでのリリカルな叙事詩である。

そのマリーの忠実な側近として重要なのは、スティーブン・クーガン演じるメルシー伯爵、というよりも、ソフィア最大のパートナーとしての「音楽」の存在。時代劇にも関わらずギャング・オブ・フォー、ニューオーダー、バウワウ・フー、アダム・アントといった示唆的な既成曲が鳴り響く様には、オープニングこそ「やってくれたな!」とカウンターパンチを食らうが、その後は意外や意外、あたかも18世紀の終わりに1980年代が直結しているような絶妙なマッチング感覚が染み渡り、我々は見事なほどにソフィアの手腕に飲み込まれていくことになる。

あまりにも危なげで、ほろ苦い80’s。

振り返ると、ソフィア・コッポラはまさにこの頃ティーン時代を過ごし、偉大な父・コッポラの娘として、女優として、苦々しい思いを味わったりもしている。しかしマリー・アントワネットがスクリーンで二度と戻らぬティーン時代を自分なりに堪能していく姿に、これは本当に不思議なことだが、ああ、ソフィアもあの時、自分なりの感覚で楽しんでいたんだな、とふたりを同人物として想いを馳せてしまう瞬間があった。

『ヴァージン・スーサイズ』、『ロスト・イン・トランスレーション』で成功を手に入れたソフィアが、どうして次に『マリー・アントワネット』を選んだのか。この映画にはその選択理由が充分過ぎるほど詰め込まれている。それに、歴史上のアンチ・ヒロインとして縛られ続けていたマリーを今ここで自由に解き放ち、そして究極には自分の想いをもさっぱりと解き放つ、そんなフリーダムな達成感に満ちている。

スケールが大きいとか小さいとか、そういったことは全く関係ない。さらに言うと、歴史劇とか現代劇とか、そういう差異も全く関係がない。ソフィア・コッポラの『マリー・アントワネット』はそれほど、これまでのスタイルをそのままに貫いた、ソフィア印の作品なのである。

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この現代の視点を歴史に照射させた異色作『マリー・アントワネット』のDVDがいよいよ7月19日にリリース。

歴史的に「世間知らずの典型」として嘲笑されがちだったマリー・アントワネットの生涯が多くの誤解に満ちていることを実証した歴者学者、アントニア・フレイザーによる著作。2002年に出版されひとりの女性としてのマリーの描写に世界的な賞賛の声が上がると共に、『ロスト・イン・トランスレーション』に続く新作を模索していたソフィアに多大なインスピレーションを与えた。

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