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2006/10/13

『世界最速のインディアン』

主演はアンソニー・ホプキンス。

といっても彼が人肉を食らったり、人を皮肉ってニヒルに笑ってみせたりするような映画ではなく、その正反対。本当にいますぐギュッと抱きしめたくなるような“ジイさまロードムービー”なのだ。同じジイ様でも、デヴィッド・リンチの『ストレイト・ストーリー』のようにトラクターで目的地へ向かうスロー・ライフじいさんではなく、こっちのアントニーじいさんはなんとバイク乗り。外見は小太りで、頭の中身も相当ガンコ。けれど、ひとたびそのゴッドハンズがエンジンに触れると、それはまるで新車のようにブロンブロンと息を吹き返し、いざバイクに跨れば最初はヨロヨロでもラストは根性でブンブンぶっちぎる。

実はバイクのことはよく分からないので、タイトルを見た途端「差別用語じゃねえか!」と飛び上がってしまったのだが、後でそういうバイクの車種(インディアン・スカウト)だと知って納得した。ニュージーランドで320キロという自己記録の更新を夢見て暮らすこのジイ様は、やがて人生のラストチャンスとばかりにアメリカへ渡航し、多くの人々との出会いに支えられながら、ユタ州のソルトフラッツで行われるスピード記録測定会“スピードウィーク”を目指す。

ロードムービーというジャンルは“出会い”がキーになる。そもそも乗り物といえば馬車からスペースシャトルに至るまで、とにかく人と人とを繋ぐために進化してきたといっても過言ではなく、それは同時に数多くの“出会い”をもたらすものである。ホプキンス演じる主人公は、それこそレクター博士ならば血を一滴も流さずひと刺しであの世に送還させてしまうかもしれないほど小馬鹿にされながらも、それを意にも介さず、自分なりのペースでバイクへの熱い想いを相手に語り続ける。そして別れの時には堅い握手。結果的に握手の数ほど笑顔が生まれ、そこで出逢った人々はみんな彼のことを好きにならずにはいられない。こんなに可愛らしいホプキンスは初めて見たし、そこで出会う素敵な人々それぞれの背景に1962年という時代が息づいているのが素晴らしい。

特にこれといったヒネリもなく、あまりに実直過ぎるといえばそうなのだが、こんなにも気長で、微笑ましい感情を抱ける映画も久しぶりだった。アメリカがベトナム戦争に明け暮れている時代に、まったく別の次元でガハハハと朗らかに声をあげて笑っている奴がいる。ソイツは今日も愛車に跨って、顔の皺をブルンブルン揺らしながらスピードの限界に挑戦する。それはどこか『紅の豚』のポルコ・ロッソのようでもある。そういえばホプキンスもどう弁解させたところで明らかな“太め”であることには変わりなく、彼が乗るインディアンは“真っ赤”だ。

やっぱり『紅の豚』の精神が、この映画のどこかに潜んでいるとしか思えない。

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