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2006/10/30

『オーロラ』

『オーロラ』を観た。

監督は前に『エトワール』という喫茶店のようなタイトルのドキュメンタリー映画を撮ったニルス・タヴェルニエ。パリ・オペラ座の全面協力を得たバレエ映画ということで、どうせ出演者がピョンピョン飛び跳ねる映画だろうと高を括っていた。そんな程度でこちらが驚かされるわけがない。それくらい俺だってできるさ、ピョンピョン(飛び跳ねながら)。ところが、ここから僕の想像の範疇とは360度裏返って、何やら得体の知れない世界が僕を迎え入れることとなる。

最初の設定からして凄い。「その王国では“踊ること”が禁止されている」という。そして次のシーンに登場するのは、なんと、踊る王女。なんだよお嬢さん、我慢できなかったのか・・・。身内ですら守れないその法令が効力を発揮するわけがない。その様子を苦虫を噛み潰したような表情で見つめる王様。しかし何かを躊躇して、なかなか厳しいことを言い出せずにいる。

そもそも何で踊ってはいけないのか。それは“贅沢すること”の象徴なのか、それとも“何らかの自己表現”の象徴か。いろんなことを考えてはみたものの、僕にはさっぱり答えは出ない。つまり、“踊る才能に恵まれた者”をキャストに据えるにあたり、彼らの最も優れた技能を(物語上)封じることで、その行為をはかなげに表現しようとする狙いなのか。本作では結局、何も語られることがない。

事態は急展開を見せる。財源に乏しいこの王国が存続するためには、もはや美しい王女を政略結婚させるしか手はない、という。そうすれば国民も救われる。国王の申し出を受けて、様々な国の王子が来訪し、ご当地の求婚舞踏を披露する。インド風の国からやってきた王子はベリーダンスを思わせる集団舞踏、フランス風の国からやってきた王子は正統派のバレエダンス、そして僕がこの日もっとも驚かされたのは、ジャポング国(?)からやってきた着物姿の王子が「さあ、ご覧あれ」と披露した珠玉のお家芸舞踏だった。

・・・それがなぜに暗黒舞踏であったのか。

白塗りの男たちが這い回り、その中心には石膏で固められた半裸の女性がいる。彼女は小刻みにブルブル振るえ始め、その振動で石膏がボロボロとはがれ落ちていく。バックには奇天烈な音が鳴り響き、中心部の女性も含めて舞台は得体の知れない雰囲気に包まれていく。これはまさしく「声のない“叫び”」だ。もちろん観てる方にも言い分はある。

披露が終わり、王子は自信たっぷりに王女に尋ねる。

「どうでしたか?」

「どうでしたか?」という話ではない。王女はすぐに「中座します」とばかりに逃げ出し、母親の胸で泣く。そのときの彼女の言葉を僕は忘れない。

「あの王子さまったら、ひどいのよ・・・」

自分のバレエについての素養のなさは知っている。しかしここで見た“バレエらしき世界”は僕の想像の範疇をはるかに超えており、うっかり間違えると、僕はみんなに「これは絶対に見るべきだ!」などと絶賛してしまうのではないか、と今ではそれがいちばん怖い。

『オーロラ』は、12月16日よりBunkamuraル・シネマ、シャンテシネほか全国順次ロードショー。

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