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2006/11/19

『鉄コン筋クリート』

かつてスピリッツで連載されていた原作漫画を毎週のようにコンビニで立ち読みしていた。だが、当時の僕にはシロの言う「あんしん、あんしん」という言葉の響きが一向に分からずにいた。あれから十数年が経ったが、あの頃学生だった僕が実感した「あんしん」と、そして大人になったいま実感する「あんしん」とは色調がかなり異なるだろうし、それはあらゆる原作ファンにとっても同様のことだったろう。

しかし、3年半にわたる難産を経て生み落とされたこの映画版『鉄コン筋クリート』において、ひとたび蒼井優が「あんしん、あんしん」と発するや、すべてが瞬間的に一本の線で繋がったような衝撃を覚えた。

もちろん原作をどれだけ紐解いてみたところで、「シロの喋りはこんな感じ」などと詳述されてなどいない。その曖昧さこそが漫画の旨味であると同時に、それを映画化するとなるとあらゆるディテールをリクリエイトしなければならない必要性に見舞われる。それが映画の旨味であると同時に危険性ですらある。

そして多くの場合、原作者による「好きに作ってください」という言葉や、「映画には映画なりのアプローチが」などといった“逃げ道”が観客の期待を奈落の底に突き落としてしまう。

しかしマイケル・アリアスとSTUDIO4℃(『マインド・ゲーム』)の共同作業は初めからその落とし穴を埋める作業でもあったかのように思える。先の蒼井優の発した「あんしん」のひとことが巧みな演出によるものなのか、それとも蒼井の感性によって発露されたものなのかはっきりとは分からないが、この映画化の正当性はこのたった一言の訴えかける力に始まり、キャラクターの動きに受け継がれ、俯瞰から鳥の目線でその全貌を明らかにしていく宝町の街並み、喧騒、匂い、温度といったあらゆる細かい部分において原作ファンに信頼に足る“解釈”を提示するのである。

そして原作の1コマ1コマを絶対原則のカット割りと捉えるのでなく、その精神性を伝える上で時には大胆なアプローチをも取り入れつつ(とくに後半、クロとイタチが対峙するあたりの創造性の爆発は4℃の『マインドゲーム』を彷彿とさせるほどに圧巻)、人が始めて「鉄コン筋クリート」という原作漫画に出逢ったときに感じた想いの延長戦上にあるものをひたすらに目指し続ける。この挑戦に頭の下がる思いがした。

僕がこの映画を観た完成披露試写の際、監督のマイケル・アリアスはその名前からは想像もできないくらいの流暢な日本語でこう語った。

映画はひとりだけで作るものじゃなく、脚本を書く人がいて、絵コンテを描く人がいて、作画する人がいて、お金を集める人がいて…とにかく大勢の人が関わって生まれます。そんな中で、常に個々が100%以上の力を出してないと本領が発揮できないんですね。今回、長きに渡り本当に愛を込めて作りました。正直言って、何度見てもこの映画が良いか悪いか客観的には分からない状態なんですが、一緒に作ったスタッフのおかげでとにかく“面白い作品”になったと思ってます

威勢を張るわけでもなく、ひとりのクリエイターとして謙虚になりすぎるでもなく、彼はただ正直にそう口にし、実際に観客がこの作品に触れた後には、彼の正直さと“面白い作品”という言葉の意味を深く受け止めるかのような空気が流れていた。

そしてすべての象徴として、蒼井優(シロ)の発する「あんしん、あんしん」がある。この「鉄コン筋クリート」という青春時代のみならず人生の全過程において影響を及ぼす奥深い世界観を、まさにひとつの安心感で包み込むかのようなその声のトーンに、本作の映画化を危惧していたひとりとしては、なんだかとっても安心した。

『鉄コン筋クリート』は12月23日より全国ロードショー

鉄コンのDVDがいよいよ6月27日にリリース!

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