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2006/11/16

『トゥモロー・ワールド』

Childrenofmena

『トゥモロー・ワールド』・・・。この大風呂敷を広げたような(あるいはちょっとディズニーランドっぽくもある)タイトルを目にして、「ああ、やばいなあ、いかにもB級の失敗作っぽいなあ」などと考える人もいるかもしれない。打ち明けるならば僕もまさしくその類の人間だった。映画を観る前から気合を入れずにはいられないこの心理状況。まあ、負け戦に挑むのも悪くはない。どんなにヒドイ映画だったか、後で友人に笑って話してやろうか。はっはっは。

しかしながら、これは上映開始たった5分で分かることだが、本作は紛れもない傑作である。

『天国の口、終わりの楽園』で若者の馬鹿騒ぎの奥に寂寥感をにじませ、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』で前2作の教科書どおりの退屈な世界観を覆す極上のビジュアル感覚を導入したアルフォンソ・キュアロンは、2027年という現代から換算してみても“近からず遠からず”の未来世界を絶妙な距離感で視覚化してみせる。これほどの最新VFXを施された映像なのにも関わらず、この映画が観客に対して切り出すのは、「物語」ではなく「状況」だ。突如、能書きもなく幕が上がれば、そこはひたすら「状況」が横たわっている。ニュース映像、カフェ、淹れたてのコーヒーを受け取る、ふと立ち止まってカップにちょっとだけウイスキーを垂らす、そして…。

リアリティ・バイツ』『ニュー・ワールド』の撮影監督エマニュエル・ルベッキがヴェネツィア国際映画祭で技術貢献賞といった形で賞賛されたことでも明らかである)

壮絶さだけではない。この映画のラストには、この世で最も愛され、また憎まれもした書物のエピソードが形を変えて出現する。戦場で垣間見られるそのあまりにも神聖なワン・シーンが、まさに奇跡の定義を塗り替える瞬間として刻印されている。

これだけの「状況」を描きながら、上映時間は1時間49分。それもまた、ある種の奇跡といえるのかもしれない。

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なんのことはなく1ショットで撮られるこのシークエンス。それも、これ見よがしな長回しではなく、後から気が付けばそうだった、というだけのことだ。さも、それが当たり前のように1ショット撮影=状況が展開する。この冒頭5分、我々は突如として何の説明書きもなく「状況」の中に放り込まれ、それは加速度的に展開していくのだ。

その精巧さを物語るために、僕はピエロ役を担うことにする。つまり、少しだけ本作の「状況」を紹介しておこう。

舞台は2027年の英国。人類が子供に恵まれなくなって久しい未来。最後に生まれた子供はもうすぐ成人、というくらいなので、もう20年近くもご無沙汰しているという状況だ。テロや暴動、それに移民問題なども手伝って、社会状況がカオスを呈している中で、主人公(クライヴ・オーウェン)はとある反政府組織の守護下にある移民少女の存在に触れる。彼女はひとつの秘密を抱いていた。このことが持つ政治的意味は大きい。だからこそ、反政府組織は来るべき時に備えて彼女の存在を隠し通そうとしている。その動向に気付き、主人公は彼女を連れ立って、一路、港を目指す。そこから出航する船に乗って、外の世界へと旅立つために。

と、これだけの内容が、本作では映像のみで伝わってくる。今ここで、これだけの能書きを垂れてしまった自分が何と気恥ずかしく感じられることか。

この「状況」を推し進めるべく、キュアロンは編集による効果を最小限度にとどめ、カメラを人間の目線に据えて映像を紡いでいく。よって普段の映像作品に観られるフィルム上を“縦一列”に縦断していく感覚はなりをひそめ、常に横に向けて滑らかに延長していくかのように自然な連なり見せる。その滑らかさが圧巻なのである。

Childrenofmen_2   
そして回しっぱなしのカメラの前で、開きっぱなしのマブタの前で、次々にとんでもないことが起こっていく。暴徒に襲われ、車で逃走し、無限に広がる移民収容所でとめどなく歩き回る…そして激しい暴動、戦闘。とくにラストの8分間は壮絶過ぎて思わず息が乱れる。そして完全にカメラの存在を忘れてしまう。なるほど、カメラマンというものは、その存在を誇示する形で手腕を発揮することもあれば、その存在を完全に消す、といった主張もありうるのである。(その真価のほどは、『

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