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2006/12/27

『不都合な真実』

かつてジョージ・ブッシュと大統領戦を争ったアル・ゴア元副大統領による「地球温暖化」についてのありがたい講義?いやいや、それだけではこの映画を説明したことにはならない。この映画の魔力はまず彼が自身の主催するスライド講演の壇上に現われ、聴衆にひとこと自己紹介するところで思い切り炸裂するのだ。

「こんばんは。かつて一瞬だけ大統領だった男です」

穏やかな笑顔、分かりやすい語り口、そして過去のトラウマをさり気なくネタに変えてしまう潔さ。我々はこの瞬間、ひとつの「IF」の世界へと引き込まれる。つまり、「もしもこの人が大統領になっていれば、世界は大きく変わったかもしれない」というひとつの輝かしい可能性(アナザー・ワールド)が、我々の頭の中に希望の種を撒き始めるのだ。

本作は、ゴアがアメリカ、ヨーロッパ、アジアを中心に1000回以上もドサ回りして続けてきた環境問題についてのスライド講演をそのまま主軸に据え、その合間に「何が彼を突き動かしたのか」について独白を交えたごくシンプルな構成になっている。というのも、このゴアのスライド講演自体があまりに見事なのだ。ユーモアあり、愛あり、アクション(とも取れるくらいに鋭く的を得た言及)もあり。そうか、これはゴアのショーを映画化したもの、というよりは、そもそもスライドショー自体が充分に映画的なつくりを成していたわけである。

しかし、ゴアは決して声を荒げたり、誰かを糾弾したり、また政治家のように「AとBのどちらを選択するのか!」といった二者択一の議論にすり替えたりもしない。そこには常に温厚で、分かりやすいゴアがいるだけだ。彼のその安定した口調がひとつの穏やかなバイオリズムを織り成していく。観客は知らず知らずのうちに、まるで昔からの友人の話に耳を傾けるかのように、地球環境の話題に聞き入ってしまう。

かつて『リバティ・バランスを撃った男』(ジョン・フォード監督)で、ジェイムズ・スチュアートは銃でなく法律本を手にして西部の無法地帯に乗り込んでいったが、その姿がゴアに重なって見えてくる。現代においてこの無法地帯(資本主義の暴走がもたらした環境問題)に乗り込んでいく男は、銃でも法律本でもなく、紛れもない“スライドショー”を手にしているわけである。

講演でのゴアは、資本主義の本質、そして一般国民の心理を知りぬいた上で、あえて我々の「知的好奇心」を試すかのように話を進めていく。そして私達が「知りたくもなかった事実」に直面する時、彼は人知の秘法たる“ユーモア”を使って聴衆を軽やかに乗り越えさせる。そもそもユーモアも好奇心も、人間が危機を乗り越えるための資質としてもともと兼ね備えたものなのかもしれない。時は満ちた。ゴアの口から飛び出す名言の数々が、満を持して、我々の“資質”を起動させていく。

特に「なるほど」と納得させられるのは、ゴアが「すぐに絶望してしまう病気」について言及するシーンだ。彼が言うには、恵まれた人間ほど何か障壁にぶつかると「ああ、もう駄目だあ」と過剰に絶望してしまう。環境問題に直面する人間しかり、自社が環境悪化の元凶であると認めたくない大企業の幹部しかり。そこを資金源にした政治家しかり。

「でも、実際、そんなこたぁない」

ゴアは絶望病に侵された患者達にやさしくそう諭す。いま目の前に提示されたいくつもの事実を受け止めた時点で、我々の前途にはいくつもの打開策が立ち現われる。断崖絶壁から踵を返し、そこから一歩一歩を前進していくことは決して絶望などではなく、とてつもない希望なのだ。

加えて、“環境問題”と“資本主義”とは相反する関係なんかじゃない。ちょっとしたアイディアが相互の両立を生み出していくこともいまや自明のこと。現に、この数年の間にどれだけの企業がこの問題の克服に努め、自社のイメージ・アップを遂げてきたか知れないし、エコに配慮した多くの製品が多額の利益を上げるようになってきた。障壁となるのはいつもこの思考力の限界、つまり“絶望病”なのだ。それはアメリカの抱えた最大の問題であり、ゴアが政治家ではなくひとりの人間としていまこうやって壇上に立ち続けているのは、その処方箋を提示するためなのではないかとすら思えてくる。

決して絶望はすまい。そして周囲の絶望を許すまい。

それは日本に住む私達の暮らしにだってあてはまる。環境だけじゃない。我々の抱えるどんな問題にだってあてはまる。私達がそれぞれに“不都合な真実”をしっかりと受け止めたならば、その時点で既にそれは大いなる一歩となる。もう決して絶望も、後退もすることはない。現にあなたはもうそうやって前に歩き始めているじゃないか。

『不都合な真実』は、2007年1月20日(土)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー

アカデミー賞2部門に輝いたこの画期的なドキュメンタリー作品が、7月6日、遂にDVDリリース。得点映像にはメイキングやコメンタリーのほかに「アップデート版・不都合な真実」なるものも収録されるとか。この映画で明かされる“真実”は、いたずらに観客を衝撃の渦に陥れるものではなく、観る者を新たなビジョンへと導いてくれるところが素晴らしいところ。これは何かしら勇気を持って踏み出そうとしている人すべての心に響く、とびきりの応援歌だと思います。

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