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2007/01/30

『パリ、ジュテーム』

『セプテンバー11』『10ミニッツ・オールダー』『それでも生きる子供たちへ』などなど、長編一本分の時間を幾人もの有名監督で分割し、劇場を瞬く間に競作スタジアムに変貌させてしまうプロジェクトはこれまでにもいくつか見受けられてきた。これらの企画で重要なのは紛れもない「テーマ」であり、たとえば本作のように「パリ」というテーマで多くの有名監督が大集結している現状を考えると、これが「東京」であった場合や「ニューヨーク」であった場合にこれだけ賛同が得られたものだろうかと、その地の特権性にジェラシーを抱かずにはいられない。

ことの経緯にこそストーリーが詰まっている。この企画を思いついたプロデューサーらはまず初めにトム・テイクヴァに企画を持ち込み、2002年に彼がまず自身の製作会社で一本撮り上げた。『ラン・ローラ・ラン』を思わせる疾走感に満ちたこの作品を具体例として世界各国の有名監督へのプレゼンテーションが続けられ、次に快諾の意を示したのはコーエン兄弟。彼らのミューズ(?)、スティーブ・ブシェミを主演とした作品が2005年に撮られ、これでようやく2本。しかしこれはお釣りが出るほど豪華な2本だ。これらを並べられてこの企画に乗らない映画監督の気が知れない。案の定、次々に手が上がる。

結果的に『パリ、ジュテーム』には18人の監督が集まった。

上映時間を18分割して、ひとりあたりの持ち時間はだいたい5分。パリを舞台にたった5分の持ち時間で描く18本のラブストーリー集が、この『パリ、ジュテーム』なのである。

Q)以下のリストであなたの知ってる監督は?

・ブリュノ・ポダリデス
・グリンダ・チャーダ
・ガス・ヴァン・サント
・コーエン兄弟
・ウォルター・サレス
・クリストファー・ドイル
・イサベル・コイシェ
・諏訪敦彦
・シルヴァン・ショメ
・アルフォンソ・キュアロン
・オリヴィエ・アサヤス
・オリヴァー・シュミッツ
・リチャード・ラグラヴェネーズ
・ヴィンチェンゾ・ナタリ
・ウェス・クレイヴン
・トム・テイクヴァ
・ジェラール・ドパルデュー
・アレクサンダー・ペイン

(筆者は「14/18」でした。けれど面白いもので、全く知らない監督に限って予測しえないヒット作を提供してくれたりするんですよね)

もちろん、ここに挙げた監督にはそれぞれの得意な“時間の刻み方”がある。小刻みの演出が得意な者もいれば、気の長い演出が得意な者だっている。それに本人のあずかり知らない次元でプロデューサーが決定する“並びの問題”もあるので、観客にとってみれば安易に優劣付け難いものがある。

それを承知で個人的な“お気に入り”を挙げると、それは『ベルヴィル・ランデブー』のシルヴァン・ショメ監督が描くファンタジックな実写、「エッフェル塔」だった。まさにアニメーション経由の発想力だからこそ到達しえたキャラクターのディフォルメぶり&リアルから遠く離れた奇想天外さがとても心地いい。

他にも、アルフォンソ・キュアロンは『トゥモロー・ワールド』の映像作家ぶりを踏襲してワンカット撮影で挑んでくるし、ガス・ヴァン・サントになるとフッと時間が止まったようになり、映像の質感も灰褐色に見えてくる。ウォルター・サレスは世界の裏側からパリを見つめたような、まさに盲点を突いたテーマを持ってくるし、ウェス・クレイヴンが歴史的偉人の“墓場”でドラマを繰り広げたのには思わず笑った。そして、『サイドウェイ』のアレクサンダー・ペインがこの短尺の内にあってもマイペースの“ゆったりムービー”のスタンスを崩さなかったのにも感心した。

こうなるともう、「5分=短い」という常識はとっくに無効となり、時には5分の中に「永遠」さえもが見え隠れする。なるほど、それが映画の基本中の基本。たった5分といえども、いったん監督の座を担ったなら、その人間は神にさえなれるのだ。

いまパリの街に18人の神様たちが降り立った。そのとびきり優しい視点を、どうか心から堪能していただきたい。

パリ、ジュテーム』は2007年3月、シャンテシネ、恵比寿ガーデンシネマ、新宿武蔵野館ほか、全国ロードショー

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