『守護神』
世間的に「アンドリュー・デイヴィス」といえば、「ちょっと旬を過ぎた監督」といった位置づけではないだろうか。かつては『逃亡者』(93)などの手堅い演出で一世を風靡しながらも、近年では9.11後に公開延期を余儀なくされた『コラテラル・ダメージ』(爆弾テロで妻子を失った消防士がテロ殲滅を決意しその中枢まで乗り込んでいく、シュワルツェネッガー主演のどえらいアクション)がその後のアメリカの行く末とあまりに酷似していたために、その余りある先見性に周りの反応は“賞賛”を通り越して、ただひたすら“引いた”という経歴の持ち主である。
フィクションとはいえ、9.11を予見した男、デイヴィス。彼ほどのベテランであっても、この現実に先んじた創造過程は、後になって痛みすら呼び起こすものだったに違いない。
そんなデイヴィスが久々にアクションを撮った。原題は“ The Guardian”。邦題は『守護神』という胃もたれしそうな濃厚さながらも、そこにはかつての大風呂敷を広げたような荒唐無稽さは存在しない。
そして主演は、すっかり旬を過ぎた俳優、ケヴィン・コスナー。そして彼だけではキャスティング不足と製作陣が言ったかどうかは知らないが、もう一方の若手軸に据えられるのは、アシュトン・カッチャー。どうせならこっちを主演にしたほうが良かったくらいだ。
そんな崖っぷちのふたり(デイヴィス&コスナー)が手を組んだ本作は、コスナーの主演作としては久々の快作であり、そして同時に、彼にとって酷な映画にも仕上がった。
物語は二段構えで展開する。かつて英雄と崇められ、多くの人命を救ったアメリカ沿岸警備隊のレスキュー隊員の物語、そして彼の指導の下で育っていく新人隊員の物語である。海洋アクションは序盤と終盤にしか存在しない。中盤はひたすら『G.I.ジェーン』ばりの新人訓練がフィルムを埋める(ちなみに『G.I.ジェーン』の主演はアシュトン・カッチャーの妻、デミ・ムーア)。
“かつての英雄”としてまさに等身大のキャラクターを演じるケヴィン・コスナーがスパルタ教育で臨めば、アシュトン・カッチャーもそれに負けじとメキメキと頭角を現していく。アクションを封じて、ひたすら演技合戦に臨む中盤のコスナー&カッチャー。定型に陥りがちなこの種の展開だが、アンドリュー・デイヴィスは老熟した手堅い演出でじっくりと気を吐き続ける。彼が些細な描写にも職人技を注入しているのが分かるから、観客も逐一手ごたえを噛み締めながら、2時間20分の長尺に飽きを感じることもない。
だが、コスナーも別の意味で観客を惹きつける。彼のキャラクターがあまりにリアルなのだ。これを現実に投影するならば、本作はつまり、「ケヴィン・コスナーに引導を突きつける映画」ということになる。落ち目ながら細々と冴えない主演を続けるコスナーに、よりにもよってアシュトン・カッチャーが「あんたの時代は終わったんだぜ」と否応なしにフェイドアウトを迫る映画に見えてくるのである。
これは正直、あまりに酷だ。終盤にかけてその思いは加速する。かつてあれだけの全盛を誇ったコスナーとも、これでもうお別れかもしれない。いつになく力まず自然体で好演する彼が目に映り込むたびに、頭の中で本作は「サヨナラの映画」として色を帯び始める。そして、デイヴィスの演出も、あたかもコスナーに最高の花道を用意しようとしているかのように、いつになく骨太に念入りに織り成されていく。
そんな観客の確信にも近い予測に対し、はたして本作はどのようなクライマックスを用意するのか。レスキュー教官としてのコスナー、そして俳優としてのコスナー双方に、いかなる運命が用意されているのか。これらは最も重要な見所となるだろう。どうか目を見開いて見届けて欲しい。
もっとも、コスナー自身が高望みしなければ、たとえば『ママが泣いた日』のようにいくらでもハマリ役は回ってくるだろう。『守護神』のラストシーンが、のちに脇役俳優としてこれまでとは違った妙味を発揮するコスナーの未来像に繋がってくれればと願わずにいられない。そうすれば本作は、ある意味、伝説的な「別れの映画」として次世代にまで伝えられることだろう。
もう一度言う。これはコスナーの主演作としては久々の快作であり、そして同時に、彼にとって酷な映画だ。
だから、いまはただ、優しくこう呼びかけたい。
「おつかれ、ケヴィン・コスナー」
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