『BRICK ブリック』
brick【brick】・・・1.a 煉瓦; b 煉瓦上のかたまり/煉瓦一個の長さ; c 1kgのコカイン 2.いいやつ/頼もしい人 3.くたばれ!
(映画チラシ裏面より)
出た。1年にあるかないかの斬新なインディペンデント魂の結晶。そのアイディアだけでハリウッド大作のクオリティを軽く凌駕してしまう洗練ぶり。これまでにありそうでなかった作風を透明感あふれる青の色彩で包み、冒頭から観客の心をグッと掴んで放さない。それが『BRICK ブリック』である。
分かりやすくいうならば、これは探偵小説の高校生版だ。フィルムノワールが大ヒットした時代とは随分隔たりがあるものの、作品にまとわり着くような陰鬱さはそのまま現代風に踏襲され、そこに登場するのは高校生ばかり。もちろん主人公も高校生だ。メガネでヒョロいし、常に顔色も悪く、しょっぱなからこんなやつ使いものになるのかってくらい独特で、頼りなさそうな印象。だが、こいつが元恋人の死をきっかけに、高校の裏社会に巣食ったドラッグ供給ルートに向けて執念深い捜査を開始する。
もちろん彼の職業は“探偵”などではないし、この捜査に「誰のため」とか「何のため」とかそんな理由付けは存在しない。いや、あえて理由を探すならば、元の恋人を救えなかった主人公が自分自身を救済するため、とでも言うべきか。しかもそのやり方はボギーも真っ青のハードボイルド。弱っちいかと思っていた彼がケンカになるとどんな相手にでも捨て身でぶつかっていって絶対に負けない。しかも危険な奴とも真顔で取り引きする度胸の良さも持ち合わせているし、ラストに向かってはもう、ボロ雑巾のようにズダズダになりながらも走り続けることをやめやしない。
つまりこいつ、クールなようで実は高校生にしておいては勿体ないくらいに熱いハートを持ち主なのだ。このヒーローにありがちな表裏の温度差が気持ちいいくらいハマっている。もちろん一匹狼の彼にも協力者はいる。情報提供の秀才クンは自宅から、図書室から巧みにサポート。こういった痒いところに手が届くキャラクターの設置も忘れない。
『ブリック』はそうしたフィルム・ノワールのこだわりを公式にでも当てはめたように綺麗に「高校編」へと置き換えていく。ノワールで登場しがちな“ショービジネス”や“芝居小屋”といった要素は放課後の演劇部員らが担い、“目立ちたがりの権力者”はアメフトの選手が、そして肝心の“ファム・ファタール”は高嶺の花の美女学生がミステリアスに担当する。そして、ついつい油断していると、あろうことか教頭先生が悪徳警官ばりに汚い裏取引を持ちかけたりもする。他にも奇妙な裏ボスやらマッチョな用心棒やら、とにかく全てが既視感たっぷり。まさに高校というテリトリーには社会のあらゆる要素が詰まっている。かつてフィルムノワールで数多く描かれた“街の裏社会”も、そして本作で描かれる“高校”も、その存在としてのタイプが違うだけで構造的にはあまり変わりはないのである。
この「置換作業」はメジャーが手がけると“オマージュ”という言葉だけを先行させ、登場人物らと同世代の子供をターゲットにしたコメディ系の軟弱ドラマへと陥りがちなのだが、もちろん本作のライアン・ジョンソン監督はこれを大真面目に展開させることにこだわりを隠さない。このこだわりこそ、「ノワール好き」も「新しいモノ好き」をも魅了するまさにインディペンデントならではの視点といえる。僕ら観客は彼の思惑通り、この大人でも子供でもない(その意味で“青”という色彩がとても効いている)高校生達による未体験ノワール・ゾーンにどっぷり漬かり込んでいくこととなる。
本作で嬉しいのは、僕らが幾つになっても「探偵」という隠微な響きにドキドキして憧れてしまうってことだ。そしてなにより、ジャンパーのポケットに手を入れトボトボ歩く冴えない主人公が、いつしかたまらなく格好よく見えてくるのだからしょうがない。その影響力といったら、見終わった後にちょっとだけ彼のことを真似してヨタヨタと走り出したくなってしまうほどだ。映画の登場人物にこれほど触発されたのは実に久しぶりのことだった。
『BRICK ブリック』は、4月14日より渋谷シネ・アミューズ他にてロードショー
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