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2007/03/14

『サンシャイン2057』

 ダニー・ボイルといえば、ドラッグ満載のブチ切れ青春群像を奇抜なイマジネーションを駆使して描いた『トレインスポッティング』で映画監督としての英国代表選手に躍り出た人物。ただ『トレスポ』の時には全ての歯車が巧く噛み合い絶好調の回転をみせていたのに比べ、以降の作品では表面的な技巧に走っているようにも思え、それが観客の感性にピタリとはまる場合もあれば、「NO THANK YOU」となる場合も往々にしてある。それがダニー・ボイルの弱点でもあり、強みでもあるのかもしれない

 そのボイル作品にアレックス・ガーランドという才能が絡みはじめるのは『ザ・ビーチ』からだ。そのディカプリオ主演作でガーランドは原作を担い、その後『28日後』では脚本を、そして本作『サンシャイン2057』にて再び脚本を担当することになった。

 彼の描く終末観あふれる世界では、人間本能の暴走が特殊なコミュニティに破滅をもたらしていくシチュエーションが多用される。そして極限まで張り詰めた緊張感がついに弾け飛ぶクライマックスにて、ダニー・ボイル特有の叙情的な映像と音楽が一気にスクリーンを席巻する。まあそんなパターンも既に大多数の人たちがお馴染みのことだろう。

 そして彼らのコラボレーションが最新作では宇宙にまで及んだ。加えて、『28日後』でその中性的な魅力を世界に知らしめたキリアン・マーフィも再登板を果たしている。

 時は今から50年後、太陽の威力が衰え太陽系全体が滅亡の死に瀕しているその時代。人類生き残りを賭けて最新鋭の宇宙船が地球から太陽に向けて飛行している。搭乗している8名の宇宙飛行士たちに課せられた使命は核爆発の力でもう一度太陽を再生させること。1号目が消息を絶ち、2号目となる彼らには決して失敗が許されない。近まる太陽。それぞれに冷静を保ち続けるクルーたち。しかしとある信号をキャッチしたその瞬間から、彼らの関係性が微妙に崩れ始める…。

 たとえばこれがハリウッド映画であれば、『アルマゲドン』や『ディープ・インパクト』のように、愛する者との別れ、人類の期待、歓声、自己犠牲、英雄凱旋といったツボを押さえた演出が確たる高揚感を与えただろう。しかし本作はあえてオルターナティブの方向性を歩んでいく。ミッション間近の宇宙船内では、真田弘之(彼の落ち着いた存在感がたまらなくいい)演じるキャプテンをはじめ、肌の色も様々な各分野の優秀な専門家8名たちの冷静な日常が静かに展開するのだが、そこはやはりガーランド作品。いつしかその使命&機能性を突き詰めた結果、その冷静過ぎる思考と行動とが、通常のSFとは違った特殊な心理劇を生み出していく。

 そして太陽に接近するごとに船体には想定外の異変が発生。クルーはミッション途中で一瞬にして宇宙の塵と化したり、さらに船内では残り僅かの酸素をめぐってクルー同士が殺し合いをも辞さない状況に陥っていく。しかもダニー・ボイルときたら、途中で「映写ミスか?」「残像か?」と思わせるほどのサブリミナルを交えて心理攻撃を仕掛けてくるものだから、観客は目の前で起こっているストーリー以上の精神的な切迫感を体験することになる。

 はっきり言って、英国映画がこれほどの技術力を用いてあえてハリウッドとは違ったスタンスのSF映画を製作したことはそれだけで評価に値する。だが、クライマックスにかけてやはりいつものダニー・ボイル節も炸裂するので、先に述べたように、その映像センスに酔える人はガッチリと心を握られるのだろうし、そうでない人にとっては「NO THANK YOU」となる場合もあるだろうことは、ここでハッキリと言っておく。

 でもたとえあなたがダニー・ボイルのことを好きになれなかったとしても、せっかくお金を払って観ている映画なのだから、「“ジャンルもの”はその国の文化を色濃く反映する」ということを充分意識して観てほしい。本作に英国人的な終末観、そしてSFに関する彼ら特有の温度を感じ取れたならば、製作者にとってもハリウッドお得意のテーマをあえて英国産として産み落とした甲斐があったというものだ。

 そして言うまでもなく、キリアン・マーフィ、真田弘之、ミシェル・ヨーらが同じショットで顔を並べ、普通に英語で会話している様子が非常に新鮮な映像体験として目に映ることは間違いない。

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