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2007年3月29日 (木)

『ブラッド・ダイヤモンド』

 レオナルド・ディカプリオはいまやハリウッドのレジェンドとなることを約束された俳優といっても過言ではないが、『ブラッド・ダイヤモンド』での彼の表情はこれまでのキャリアのどこででも見せたことのない不思議な魅力に満ちていた。それは彼が映画一本分を全て象徴する気負いを捨て、むしろ歯車に徹することによって生まれた結果だったようにも思える。

 この映画の主人公をあえてひとり挙げるならば、それはディカプリオではない。タイトルの示す“ブラッド・ダイヤモンド”そのものである。ディカプリオを始めキャスト陣は、その周りを漂う衛星のような役割と言うべきか。では“紛争ダイヤ”とも呼ばれるそのアイテムの正体は、いったい何なのか。

 国連の親善大使として世界を飛び回るアンジェリーナ・ジョリーの著書によると「アフリカでは資源が豊富なほど血が流れる」のだという(本作とアンジーとは何の関係もないが)。つまりそこで得られる富をめぐって国内に争いごとが絶えないというわけだ。ここでは秘密裏に反政府軍さえもが人力を総動員してダイヤの発掘作業を行い、そこで得たダイヤモンドを世界の闇ルートで売却することによって武装拡充のための資金を得る。このような泥沼の関係性の成り立つ国内では、結果的に政府軍と反乱軍の軍事力が拮抗して内戦が永続することとなり、さらに悲劇的なことには、反乱軍は近隣の村々を次々と襲撃しては略奪と残虐行為を繰り返し、男たちは殺されるか復讐を企てぬように両手を切断されたり、強制連行されてダイヤ発掘のために駆り出され、子供たちは連れさられて少年兵として教育される。まさに悪夢の連続。いや、これはただの物語のあらすじというわけではなく、本当に起こっていることなのだ。

 そんなシエラレオネで3人の人間が運命的な出逢いを果たす。ダイヤの密輸業者のディカプリオ、反乱軍に村を襲われ家族と引き裂かれるジャイモン・フンスー、そしてジャーナリストのジェニファー・コネリー。そしてすべてはフンスーが幻のピンク・ダイヤを発掘することから動き出す。ひとりはそのダイヤで利益をあげようと血眼になり、ひとりは引き裂かれた家族を取り戻そうとし、ひとりはこの紛争を記事にすべく情報提供者を探している。本作は実際にはありえないこのトライアングルを用いて“紛争ダイヤ”について世界に知らしめようとする責務を担ったエンタテインメントであり、登場人物が偶然にも悪夢の連鎖を断ち切るための勇気と使命をあわせ持つというドラマ性に富んだ映画でもある。

 中でもいちばん劇的にその人間性を変えていくのがディカプリオ演じる密売人だ。この紛争の元凶でもある彼の存在は、映画の開始から観客にとって感情移入の隙間すら垣間見えず、僕らは彼がディカプリオであることすら忘却してしまう。そして僕らが“紛争ダイヤ”について理解を深めていく過程とシンクロするかのように彼の人間性は少しずつ変化の兆しを見せ始める。それはまさに化学変化のようなものだ。本来ならば全く違った領域に生きているはずの3つの視点が、内戦の激化するシエラレオネにて奇妙な具合に1点に重なり、互いの利益のために本性をむき出しにして相手を利用しあいながら、いつしかその集積が運命の扉を押し開くためのきっかけとなっていく。

 『ラストサムライ』から3年、エドワード・ズウィック監督の描くこのストーリーは、少年兵が笑いながら銃を乱射したり、相手に撃ち殺されたりするといった目をそむけたくなるような混沌風景を我々に投げかけながらも、そのギリギリの境界ラインで人間の本質を刻み込んでいくことを忘れない。特に反乱軍の兵士が口にする「本来、おれは悪魔なんかじゃない。だがこの地に生まれたことが俺にそうさせるんだ」というセリフがこの状況を包み込む根本的な命題として響いてくる。しかしそれに対抗するかのように、ズウィックは3人のフィクション上の登場人物の織り成す偶然のトライアングルを機能させ、ほんの僅かな事態の前進を試みるのだ。我々がラストで目撃するのは、混沌の中に針で穴を空けたほどの希望に過ぎないかもしれないが、むしろ3人がここアフリカで体験した心の移動、泥沼から抜け出そうとする衝動、そしてこの大地の原初的な美しさこそが、僕らの魂を激しく揺さぶる成果となる。

 僕らがこの映画を観たとしても、そこで感じたことを何か行動で示すことは決して容易ではないが、少なくともこの世界に広がるおびただしい数の悲劇の中のひとつとして、今後は「シエラレオネ」という国名が他人事ではなく耳に届きそうな気がする。この映画が増殖させた世界中からのシエラレオネへの視線が、『ブラッド・ダイヤモンド』のリアルな(現実世界の)続編となって常に過去を更新し続けていくことを信じたい。それが映画というメディアの影響力というものだ。「“知る”ということは知る前の自分と、後の自分とが違うってこと」なのだと、養老さんもそう言っている。

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