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2007/04/14

『恋愛睡眠のすすめ』

言うまでもないことだが、そもそも「夢」を作品化するということはごく限られたクリエイターにのみ許された特権であって、たとえばあなたが、見ず知らずの僕の夢になんぞ何の興味関心をも抱かないように、僕だってあなたが昨晩見た「宝くじに当たった」だの「合コンに行ったら案外モテた」だのという夢には一切興味はない。

『恋愛睡眠のすすめ』はそんなゴンドリーの4本目となる映画作品。

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注目したいのは、いまやハリウッドで最も注目される脚本家となったチャーリー・カウフマンとのコラボレーション(『ヒューマン・ネイチャー』&『エターナル・サンシャイン』)をいったん離れ、ドキュメンタリー作品『ブロック・パーティー』でワン・クッション置いたあとに、今回はホームグラウンドのフランスに舞い戻り、満を持して監督と脚本を彼自身が買って出てることだ。タイトルからも分かるとおり(そして冒頭から僕がグダグダと書き汚しているように)、今回のエッセンスもズバリそのまま「夢」。着想のきっかけになったのは、もう10年も前に発表されたFoo Fightersの「everlong」のPVだったという。この楽曲のような激しさはないが、夢と現実、そして夢のさらに向こう側の夢とが絡まりあって多重構造を成す感覚は、どうやらゴンドリー特有のテイストのようだ。もっとも今回の映画はカウフマン特有のシニカルなヒネリが抜けている分だけ、ミシェル・ゴンドリーの世界を純度100%にて堪能できる濃密な作品となっているわけだけれど。

物語は、長年メキシコに住んでいたステファン(ガエル・ガルシア・ベルナル)が、父の死をきっかけに母の住むフランスへと戻ってくるところからはじまる。彼は自分が幼少期に暮らした子ども部屋で新生活を踏み出し、子供の頃の記憶のいっぱいに詰まったその空間は、もともと夢見がちだった彼をさらにファンシーに変えていく。そんな折に、隣の部屋には新しい住人ステファニー(シャルロット・ゲンズブール)が越してくる。ひょんなことから知り合った彼女に惹かれ始めるステファンだが、シャイな性格が邪魔してなかなか想いを打ち明けられない。そしてその鬱屈した想いは夢の中で奇想天外に暴走をはじめ、やがて彼の頭の中では夢と現実の境目がどんどん曖昧になっていく…。

と、これらのストーリーを概観して仮に主人公の印象がちょっとでもスプーキーな感じだったなら、いっそのことそこにデヴィッド・リンチ的な世界観を構築することも可能だったのかもしれないが、何度も言うがこれはゴンドリー100%なのだ。彼が「ステファンはまさに僕自身なんだ」と語っているように、彼の頭の中で展開する夢の世界はこれまでゴンドリーがクリエイトしてきた珠玉の映像作品のエッセンスを余さず鍋に放り込んでグツグツ煮込んだように絶妙に旨味が混ざり合い、僕らがファンタジーの枠に飛び込むのではなく、むしろマッチを擦って日常の中にほんのささやかなファンタジーの炎が浮かび上がったかのように、センシティブで、メルヘンチックで、かわいらしいアイディアの数々が観客の目を心ゆくまで楽しませてくれる。とりわけ、トイレットペーパーの芯だけを使って彼の住む街の模型が見事に造形されるシーンのように、相変わらずのアナログ感覚&クラフト感覚を駆使したイマジネーションの醸成が嬉しい。特にたびたび顔を出すチェコやロシアのアニメーション手法には、先駆者に対する彼なりの“リスペクト”さえ感じる。

だが心配なのは、もしかすると映画に“ストーリー”を追い求める無骨な観客にとっては、このあまりに繊細過ぎる映像をむずがゆく感じてしまう場合もあるかもしれないことだ。しかし、そんなときはいっそのことこの映画の提示するビジョンを極度に客観視してしまうのも手の一つだ。夢と現実が入り乱れていく不思議な感覚は、むしろ実生活における彼のクリエイティブ・ライフそのままなのかもしれず、それは撮影に使った部屋が実際に彼が数年前まで家族と暮らしていた思い入れのある場所だったことからも少なからず伝わってくる。つまりこの映画にはファンシーさだけではなく、クリエイターとしてのミシェル・ゴンドリーのドキュメンタリー的要素も多分に含まれているってことなのだ。

たとえばスパイク・ジョーンズの『マルコビッチの穴』にて僕らは不本意にもジョン・マルコビッチの頭の中に入り込むことに成功してしまったわけだが、こうやって映画という名の“乗り物”でいろんな人の頭の中に搭乗することができるのだとしたら、この『恋愛睡眠のすすめ』はその丸っきりのゴンドリー篇ということになる。僕らはこれ一本で、ミシェル・ゴンドリーの作り出す映像のみならず、「大人になりきれない子ども」としての彼の頭の中を充分に堪能することができるわけである。こんな貴重な体験、そうそうお目にかかれるもんじゃない。少なくともいまだ夢の魔法を信じている大人たちにとっては、ね。

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