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2007/06/25

『ボルベール<帰郷>』

「300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお手軽な文系スポーツ。というわけで、今回のお題は『ボルベール<帰郷>』です。

アルモドバルのいちばんコアな部分、ギュッと濃縮

男たちなどお呼びではない。そう高らかに宣言するかのように、アルモドバルは女性ばかりでキャストを構成し、母娘三世代に渡る試練と葛藤と驚きの果てに根源的な“母の強さ”を浮き彫りにしていく。手法によっては恐ろしくシリアスにさえ成りえただろう。だが本作は、笑って、怒って、悩んで、泣いて、そしてそのすべてを飛び越えて、珠玉の人間賛歌を志向し続ける。その象徴となるのが「ボルベール」という歌曲。ペネロペが娘に「見ててごらん」と告げ即席バンドと共に颯爽とこの歌を披露するくだりは、本作が最も美しく輝く瞬間だ。周囲を彩る共演女優陣も子供から老女まで誰もが芸達者ばかり。全員揃ってカンヌ女優賞を獲得したのも充分頷ける。

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ボルベール<帰郷>
監督:ペドロ・アルモドバル
出演:ペネロペ・クルス、カルメン・マウラ、ロラ・ドゥエニャス
(2006年/スペイン)ギャガ・コミュニケーションズ
6月30日(土)TOHOシネマズ六本木ヒルズ他 全国東宝洋画系にてロードショー

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2007/06/22

『アヒルと鴨のコインロッカー』

「300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお手軽な文系スポーツ。というわけで、今回のお題は『アヒルと鴨のコインロッカー』です。

人生は、レコードのA面、B面のように

伊坂幸太郎による原作を繊細な手つきで映像化…だけじゃない、僕にはその変換の過程でなにか神がかり的な力がこの映画に宿ったとしか思えないのだ。もともと映画向きな物語だったというべきか、あるいは映画化されることで完成した物語というべきか。濱田岳の力の抜けた演技(それはむしろ役者としての筋肉を使う仕事だったと思う)を起点として登場人物のA面、B面が静かに交錯していく様に、それほど大きな物語ではないにしろ、そこが世界の中心であるかのような強い引力を感じた。また、その手柄をすべてキャストへ向かわせ、自らはその背後に漂っていようとする作り手の美意識が、作品を貫く一本の線となってこの透き通った世界を支えている。

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アヒルと鴨のコインロッカー
監督:中村義洋
出演:濱田岳、瑛太、関めぐみ
(2006年/日本)ザナドゥー
仙台・宮城にて絶賛(先行)上映中
6月23日(土)恵比寿ガーデンシネマにてロードショー。全国順次拡大公開。

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2007/06/21

『図鑑に載ってない虫』

「300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお手軽な文系スポーツ。というわけで、今回のお題は『図鑑に載ってない虫』です。

映画の三木ワールドは、ちょっとダークでアナーキー

映画の冒頭とは、作り手と観客との食うか食われるかの緊張関係がいちばん生じやすい場面ではあるが、三木聡は“あの女優”を駆使していとも簡単に観客を突き崩し、成すがままに独自ワールドへ引き込んでいく。これが「時効警察」前ならば観客も幾分警戒しただろう。でも今は誰もがその妙味を知っている。タイトルにある「虫」の存在をめぐってナンセンスでアナーキーな三木節が映画仕様で容赦なく沁み渡り、まったく関連性の見えないディテールが強引に絡まりあってくる知的ダイナミズムも健在。とりわけ日本にいながらにしてあの名作映画が引用されようとは、まさに圧巻の一言に尽きる。おなじみ、岩松了&ふせえりによる絶妙な脇役仕事も見逃せない。

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図鑑に載ってない虫
監督:三木聡
出演:伊勢谷友介、松尾スズキ、菊地凛子
(2007年/日本)日活

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2007/06/20

『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』

「300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお手軽な文系スポーツ。というわけで、今回のお題は『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』です。

試練の時、そしてグダグダの青春

このシリーズはまず原作を読んで、映画版には挿絵でも見るような感覚で臨むに尽きる。何しろ今作も上下巻が2時間18分に納められているのだから、省略は多いし、ストーリーはギュウギュウ詰めだ。でもその分、俳優陣には英国の代表格が揃い踏みだし、ゲイリー・オールドマンの衣装&闘いぶりもなかなか愉快。さらに注目のデヴィッド・イェーツ演出は、暗闇と光のコントラスト、英国的な荒涼感に映える赤など、ビジュアル面で鮮烈な印象を残す。不死鳥騎士団の始動やダンブルドア軍団の創設などで高揚感の増す中、ハリーには青春期らしく初キス場面もあり。この後日談が恐ろしくグダグダなのも、まあ、青年期特有のホロ苦い思い出ってことで。

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ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団
監督:デイビッド・イェーツ
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン
(2007年/アメリカ)ワーナーブラザーズ映画

シリーズ最終作「ハリー・ポッターと死の秘宝」の和訳版が、ついに明日、2008年7月23日に発売!今回も早朝から物凄い騒ぎになるのでしょうか。原作者からはすでに多くの登場人物の死が予告されていますが、果たしてハリーの運命は!?ロンとハーマイオニーの関係は!?そしてあのマルフォイは!?

映画版の方はまだ2作残っているので(「謎のプリンス」&「死の秘宝」)、くれぐれもお忘れなく!

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2007/06/19

『怪談』

「300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお手軽な文系スポーツ。というわけで、今回のお題は『怪談』です。

このホラー体験、古いと見る?新しいと見る?

ハリウッド帰りの中田秀夫が新たに飛び込んだのは日本の古典世界。仄かな光度と色彩美あふれる映像の中、ひとたびホラー描写に踏み込むやここまで慎重に築き上げてきた時代性を飛び越えて、突如「リング』的なものが膨張する。板と板の間から見つめる目、障子に浮かび上がる人影、そしてなぜか水浸しになってしまう中田節が随所にてんこ盛り。呪いと愛とは紙一重なのだというテーマのもと、それらを一心に背負って旅を続ける主人公の道程はある意味“呪い”のロードムービーといっても過言でなく、そこで死に逝くおびただしい人の数に古典特有の奔放さを感じた。せっかくなのでCG描写は極力ご勘弁願いたかったが、それもまた笑えたので、良し。

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怪談
監督:中田秀夫
出演:尾上菊之助、黒木瞳、井上真央、麻生久美子
(2007年/日本)松竹
八月四日全国一斉封切り

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2007/06/18

16ミリ映写機を攻略せよ②

16mm 「16ミリ映写機技術講習会」2日目。

今日は朝の10時から夕方5時まで、みっちりとスケジュールが組まれていました。昨日の復習からはじまり、スクリーンの設置、ワイドレンズの装着、そしてフィルムが破損した時の修復のやり方などのトラブルシューティングをいくつか。

そして午後からはいよいよテストです。

ペーパーテストと実技テスト。ビビってた割には参加者全員がめでたく通過しました。まあ、落とすためのテストってわけじゃなくて、確認の要素が強い内容だったわけですが。

テスト終了後、参加者の若いお母さん方は、さっそく上映会の企画を相談しはじめてました。なるほど、近頃は子供を自由気ままに外で遊ばせることが困難ですから、だからこうやってサークル単位での室内イベントが求められているんですね。子供のために知恵を絞りあうお母さん達、ご苦労様です。

さあ、これで僕も晴れて「16ミリ映写機取り扱い証」を手にすることができます。車の運転免許証さえ持たないこの僕が、これから映写機の取り扱い証だけは常に財布の中にちゃっかり携帯していたりするわけです。なんと強い味方を得たことでしょう。(※身分証にはなりません)

そして、今回のいちばんの目的、「映画を映す」という行為を体験することで「映画の見方」がどれだけ変化を帯びてくるのかについても、いまは「これだ!」という器用な回答は持ち合わせていないにせよ、頭の中に何かモヤモヤとした余韻が渦を巻いている状態ですので、これがいつの日か何かのタイミングで具象化され、鮮烈なインスピレーションを引き起こしてくれるのを気長に待ちたいと思います。

というわけで、土日の全日程、無事終了です。

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2007/06/17

16ミリ映写機を攻略せよ①

今週末の土日は、近所の図書館にて「16ミリ映写機技術講習会」に通っています。

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参加者は10名ほど。大学生っぽい若者、保育士さん、福祉関係のお仕事の方、子ども会で上映会を企画しているお母さん方、そして明らかに興味本位で参加しているとしか思えない人間、弱冠1名(僕)。

内容は、映写技師さんによる「映画の基礎知識」講義から始まり、映写機の構造、映写実習まで2日間スケジュールみっちり。「フィルムは1秒間に24コマ」とか「テレビは1秒間に30フレーム」とか随分前に本で学んだ知識を改めて実戦篇として学んだり、フィルムのパーフォレーションやサウンドトラックがどのように映写機を通過していくかをじかに確認できたり、普段「観ること」ばっかりに時間を費やしている身としては新鮮な体験ばっかしです。

そして、「明日はテストがあります」との言葉に凍りつく受講者たち。

僕も少なからず凍りつきました。どうやら大人をビビらすには日常の中に「テスト」をチラつかせるのがちょうど良いようです。

はたして僕は、無事「16ミリ映写技師」の資格を得ることができるのでしょうか。不安な気持ちを抱えながら、日程は2日目を迎えます。

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2007/06/15

『明るい瞳』

「300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお手軽な文系スポーツ。というわけで、今回のお題は『明るい瞳』です。

この新人監督の名は必ず覚えておこう

突拍子の無い言動が周囲に煙たがられる主人公の女性。そんな彼女の「歩く」という行為が、いつしか「運転する」行為へと受け継がれ、中盤に「タイヤ交換」を迎え、それからまた「走り出す」。この連続性の中に遊び心が幾つも吹き込まれ、奇想天外な動作のもたらすハプニングの数々が不思議なリズムを生む。そして驚くべきことに、本作ではやがて言葉がほぼ消滅し、異国の森で会話がままならずとも心触れ合う男女の姿が浮き彫りになっていく。その光景は何か幸福なサイレント映画を観ているようでもあり、知らぬ間に僕らは、この生きにくい世の中でたったひとつのオアシスにでも辿り着いたかのような、とてつもない安心感に包まれているのである。

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明るい瞳
監督:ジェローム・ボネル
出演:ナタリー・ブトゥフ、マルク・チッティ、ジュディット・レミー
(2005年/フランス)アステア
9月1日より、渋谷シアター・イメージフォーラム他、全国順次ロードショー

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『ハリウッドランド』

「300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお手軽な文系スポーツ。というわけで、今回のお題は『ハリウッドランド』です。

冷静に観れるのは10年くらい先かも

スーパーマン俳優の怪死の謎をめぐって私立探偵が彼の半生を紐解いていくハードボイルド。関係者の証言が軽い羅生門方式でいくつもの可能性を示唆していく。映画からテレビへの転換期、スーパーヒーローの裏の顔という興味深いテーマを描きながらも、ヴェネツィア映画祭で主演男優賞まで受賞したベン・アフレックの堕ちっぷりがどうにも現実と重なり、彼がそれほど上手くもない弾き語りを披露する場面で思いっきり「死んでよし!」と冷徹な判決を下しかねない自分が怖かった。タイツにマント姿のベンもなかなかどうして間抜けで、自分が陰湿なイジメに加わっているように心が痛む。作品の方向性は間違っていないのに、いったい何が?それが謎だ。

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ハリウッドランド
監督:アレン・コールター
出演:エイドリアン・ブロディ、ダイアン・レイン、ベン・アフレック
(2006年/アメリカ)ブエナ・ビスタ
6月16日よりシャンテシネほか全国順次公開

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2007/06/14

『ラッキー・ユー』

「300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお手軽な文系スポーツ。というわけで、今回のお題は『ラッキー・ユー』です。

神様(ディラン)が歌う書き下ろしナンバーも必聴

『イン・ハー・シューズ』よりは詰めが甘い。でもその“甘さ”にこそ大人のドラマを感じてしまうのは、カーティス・ハンソンのゆったりとした語り口が驚くほどの深みを帯びて心に届くからだろう。ここでは冒頭の質屋での値踏みを皮切りに、男女の出逢い、親子の確執に至るまであらゆる瞬間に駆け引きが満載。そして映画の要となる“ポーカー”が、決して騙し騙されだけでなく、登場人物の感情をストレートに投影するための装置として機能しているのが面白い。演技とポーカー・フェイスの狭間で二重に表情を変えるキャストの面々には、演技の難しさを超えたリラックスムードさえ伺え、特に些細な仕草の中に人生を滲ませるロバート・デュバルの存在感はさすが。

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ラッキー・ユー
監督:カーティス・ハンソン
出演:エリック・バナ、ドリュー・バリモア、ロバート・デュバル
(2007年/アメリカ)ワーナー・ブラザーズ映画
6月23日全国公開

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『ダイ・ハード4.0』

「300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお手軽な文系スポーツ。というわけで、今回のお題は『ダイ・ハード4.0』です。

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2007/06/11

『インランド・エンパイア』

 デイヴィッド・リンチの最新作『インランド・エンパイア』を観た。「じゃあ、どうだったの?」と聞かれたところで、それを言葉にしようにも映像と文脈がスルスルと脳内から逃げ出していく。世にいう娯楽映画が“人間の顔”で分かりやすく微笑むシロモノだとするならば、このリンチ作品はおおよそアメーバー状にウネウネしているだけで、僕が観客として笑いかけたり、時には挨拶程度の言葉を投げかけてみたところで、当の相手はうんともすんとも言ってくれやしないのだ。

 では、この言語による意思疎通が叶わない映画に対し、僕らは一体どのような態度で臨むことができるのだろうか。間違っても「寅さんシリーズ」を観る態度で接してはならないし、かといって『硫黄島からの手紙』を観るような神妙な態度を決め込んでも一向に道は開けない。やはり肝心なのはコミュニケーション能力なのか。そして常識では決して割り切ることの出来ない相手への許容力も少なからず必要だ。それらを総動員してかからねば、ひとつ間違うと、こっちが映画に食われてしまいかねない。それはある意味、映画と僕らとの壮絶な格闘技であり、観客に何ら隙を見せないリンチ作品がこれだけファンの心を掴んで離さないのは、人間がむしろ“理解不能の闇”を生理的に欲しているからなのだろう。

 なにしろ『インランド・エンパイア』にはストーリーめいたものを語ることすら半ば放棄された、混濁した夢と現実がとめどなく横たわっている。暗闇にスポットライトが照らされ、巨大な「INLAND EMPAIRE」のタイトルが浮き上がる冒頭にしたってどこか霊感商法のような胡散臭さを感じるし、突然モザイクのかかった人物が現れたり、不可思議なウサギ人間たちのソープドラマ(しかも全然面白くないセリフに対して観客の大爆笑の声がインサートされる!)が観客の知覚細胞にいちいち不条理なノイズを注入していき、ふと気がつくと、本作の主人公らしい女性(どうやら職業は女優のようだ)が「主役が決定したわ!」と全身で歓びを表現している。

 そこから始まる彼女の撮影過程と、彼女が演じる映画の中の出来事とが脈絡もなくスイッチし、どこかで見た人物、演じたシーン、耳にしたセリフがまたどこかで繰り返され、そしていつしか主人公のドッペルゲンガーらしき“もうひとりの自分”が目の前で打ち合わせに臨んでいることに愕然としたりする。昨日と明日、そして劇中にて撮影される“とあるリメイク映画”と恐らく数十年前に作られたらしい“いわく付きのオリジナル映画”との狭間でまたパラレルな世界を織り成し、この状況が3時間に渡って続く(ジャスト3時間というところに、リンチの悪意的な部分を感じずにはいられない)。

 どうですか?もうわけが分からなくなったでしょ?
 
 けれど、デイヴィッド・リンチがこれらを映像で語りかけるとなると話は全く別。最初は「こんちきしょう」と身構えてスクリーンに食らい付いているものの、中盤からその根性も見事に溶け落ち、なんだか諦念にも近い感覚が身体を支配し始める。そう、デイヴィッド・リンチが全く理解できなかったからといって何ら卑屈になる必要はなかったのだ。混濁した意識の中で誰もが何となく理解できるのは、これが“読み解く”ことに主眼を置いた映画ではないってこと。僕らは誰もフロイトである必要はないのだし、昨夜の自分の夢さえも分析できない僕らが優先的にリンチ作品を読み解くなど、全くもって順番が逆だ。むしろ「この映画のことが分かった」と高らかに宣言する人がいたとしたら、その当人が裸の王様であることの何よりの証明にもなるし、当のデイヴィッド・リンチだってそんなことは露ほども望んでいないに違いなく、いや、むしろそうやって評論家気取り、精神分析屋気取りで「うんぬん」言っている人間を見て影で大爆笑しているに決まっているのだ。(…などと、昔は解読に躍起になったり逆に解読する側を嘲笑してみたりいろんな態度を決め込んでいた私ですが、今ではそのどちらの反応をも愛します。だってリンチの映画には答えがないのですから、反応だっていろんなものがあっていいはずです。)

 少なくとも、いったんそれらの理解願望から解き放たれ、思考回路をニュートラルに切り替えれば、僕らは瞬時に束縛から自由になり、目の前に入り乱れるあらゆるイメージの連鎖を笑顔で受け止めることができる。この一見、意味不明な連なりが、デイヴィッド・リンチ作品の聖域<それこそが“インランド・エンパイア(内なる帝国)”なのだと思うのだが>においてだけは何らかの整合性を生み、観客の誰もが「いんちきだ!」とか「意味が分からない!」とかブーイングを飛ばすわけでもなく、この特殊で不可思議な空気を共有するできることは、このどんどん排他的になっていっている世界の現状において「奇跡」とも言えるものなのかもしれない。

 ちなみに『マルホランドドライブ』が女性達のパッション・ダンスで幕を開けるが、この『インランド・エンパイア』でも女性達がやたらと踊る、踊る。この映画で僕が読み解けたことと言えば、「リンチって踊る女の人が好きなんだな~」くらいのことでしかなかった。あ、あと、終盤であの裕木奈江が凄い長セリフを喋っていて、その舌っ足らずさとリンチ・ワールドとの融合ぶりが非常に興味深い結果を生み出していた。日本を離れた彼女がまさかリンチと手を組もうとは、いったい誰が予想できただろうか。まったく、人生なんて予期せぬことばかりである。

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2007/06/10

『ゾディアック』

「300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお手軽な文系スポーツ。というわけで、今回のお題は『ゾディアック』です。

いつもより、ちょい上級者向けのフィンチャー・マジック

連続殺人犯ゾディアックに翻弄された人々をめぐるこの物語は、未解決事件の宿命として犯人逮捕のカタルシスは皆無だが、この「カタルシスの無さ」が逆にカタルシスなのではないかと思うほど、研ぎ澄まされた映像センスで観る者を蝕んでいく。とりわけILM出身のフィンチャーらしい目や耳に訴える特殊効果の数々は表層的な部分ではなく、観客の深層心理にて効果を発揮。数十年に渡る事件の進捗は、時代の熱気、人々の焦燥、そして思いがけず事件に飛び込んでしまう原作者の心理状況をも、まるで夜空を泳ぐようなカメラワークで捉えていく。難度は高いが、人間の狂騒を魅惑的に描き出すフィンチャー・マジックは、今回もやはり健在なのだ。

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ゾディアック
監督:デビッド・フィンチャー(『セブン』『ファイト・クラブ』)
出演:ジェイク・ギレンホール、マーク・ラファロ、ロバート・ダウニーJr
(2007年/アメリカ)ワーナー・ブラザーズ.
6月16日、丸の内プラゼール他全国ロードショー

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『天然コケッコー』

「300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお手軽な文系スポーツ。というわけで、今回のお題は『天然コケッコー』です。

あまりに透明すぎて、泣いちゃいました。

奇才・山下敦弘がまたやってくれた。舞台はとんでもない田舎町。生徒たった6人の分校に東京から転校生がやってくることで、青春ちょっと手前のささやかな恋物語が生まれていく。山下作品ならではの弛緩と浮遊の味付けに加え、子供たちの宝石箱のような表情、煌めくような大自然の息吹とが相俟って、透明感は倍増。注目のレイ・ハラカミ(音楽)とのコラボレーションには、あれっと思う違和感を抱きながらも、それでも終盤のある一点において奇跡的な陶酔感を織り成し、気がつくと過ぎ去ったすべての描写がいとおしく、それが永遠ではないからこそ胸がキュッと締め付けられる。またその切なさを絶妙に包み込む“くるり”のエンディングが沁みる。

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天然コケッコー
監督:山下敦弘(『松ヶ根乱射事件』『リンダ リンダ リンダ』) 
出演:夏帆、岡田将生、柳英里沙
(2007年/日本)アスミック・エース
夏休み シネスイッチ銀座、渋谷シネ・アミューズ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

待望の『天然コケッコー』DVDは12月21日に発売。初回生産はDVD2枚組で、メイキング、インタビュー、舞台挨拶など特典映像も満載です。

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『リトル・チルドレン』

「300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお手軽な文系スポーツ。というわけで、今回のお題は『リトル・チルドレン』です。

卓越した手腕で描く、変則型ヒューマン・ドラマ

かつて怒れる神はノア以外のすべてを嵐で吹き飛ばしたというが、“大人になれない大人たち”がはびこるこの街でも、嵐は形を変え、確実に吹き荒れる。その前兆の窒息しそうな日常の中でふいに出逢い、激しい不倫に魅せられていく男女。そして事態が引き戻せない方向に進み始めたとき、ついにあの男が街にやってくる。瞬時に大パニックをもたらす彼の存在は、ワンアクションで嵐を巻き起こす神の域にも近いが、それ以上にフィクション上の大仕掛けを担っている点は見逃せない。彼を起点に物語がいかに興隆を帯びるのか。そして嵐の後、人々は何に気付くのか。ラスト10分、決して悲劇では終わらせまいとする作り手の強靭な意志に心底圧倒される。

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リトル・チルドレン
監督:トッド・フィールド
出演:ケイト・ウィンスレット、パトリック・ウィルソン、ジェニファー・コネリー
(2006年/アメリカ)ムービーアイ
7月28日よりBunkamuraル・シネマ、シャンテシネほか全国ロードショー

トッド・フィールド監督が本作で最も重要なキャストとして白羽の矢を立てたのが、長らく俳優業から遠ざかっていたジャッキー・アール・ヘイリー。子役時代には『がんばれベアーズ』でバイクにまたがって現われる不良少年役で注目されたものの、その後は不遇時代が続き、92年からはピザのデリバリーなど職を転々としていたが、やっぱり役者の道が捨てられず、『オール・ザ・キングスメン』(2006)で遂に念願のカムバック!続く本作では「心の襞(ひだ)までをも表現できる怪優」としてアカデミー助演男優賞にノミネートされるなどの高評価を獲得。現在45歳にして人生最高のスポットライトを浴びている。

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『フリーダム・ライターズ』

「300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお手軽な文系スポーツ。というわけで、今回のお題は『フリーダム・ライターズ』です。

よくあるマンネリ感動ドラマとはちょっと違う。

生まれながら人種間の激しい対立に命を削ってきた生徒たちに対し、新米教師はいかなるビジョンを提示できるのか?という、一見、あまたあるケース・スタディ映画のひとつ。だがこれが異才を放つのは、その着地点がダンスでもなければスポーツでもなく、一冊の日記帳だったことにある。問題児から溢れる慟哭にも近い言葉の数々はリズムを宿し、ライムとなる。それが生徒と先生のエモーショナルな交錯を生み、やがて授業が人種差別の極地たるホロコーストの歴史を紐解き始めると、彼らの視野はグッと奥行きを増して世界を捉えるようになる。息苦しかった冒頭の混沌が今はなんと清々しいことか。世にはびこる絶望の病から踏み出す勇気をくれる一作。

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フリーダム・ライターズ
監督:リチャード・ラグラヴェネーズ(『マディソン群の橋』&『モンタナの風に抱かれて』脚本)
出演:ヒラリー・スワンク、パトリック・デンプシー、スコット・グレン
(2006年/アメリカ)UIP映画 

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2007/06/04

EYESCREAM最新号、発売中

ただいま全国の本屋さんでEYESCREAM(アイスクリーム)最新号が発売中です。

0707 このブログの筆者は、『それでも生きる子供たちへ』のプロデューサー&監督のステファノ・ヴィネルッソへのインタビュー、最新映画レビュー、あと、『ドリームガールズ』DVDリリースにあたっての見所紹介などやっております。本屋さんでこの表紙(ピストルズのジョニー・ロットン)を見つけられた際には、ぜひ手にとってご覧ください!

それでは本屋さんで、お逢いしましょう。

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