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2007年8月20日 (月)

『遠くの空に消えた』

この歳になって時々気付くのだが、こどもの頃に「この感動は一生忘れない」とか「この友情は永遠に続くに決まってる」と思い込んでいたことが、実際にふたを開けてみるとすっかり色褪せてしまっていたりする。それでも無感動の自分をいまさら嘆くわけにもいかないから、結局のところ、すべては「大人になったからだ」という理由のもとに淡白に処理してしまう自分がいる。

『遠い空の向こうに』・・・じゃなかった、『遠くの空に消えた』を見ながらふと湧き上がってきたのは、そんな自分を開き直って肯定する気持ちと、「まだ取り返しが効くんじゃねえか?」と足元で踏ん張ってその場に立ち上がろうとする気持ちとの複雑なせめぎあいだった。

本作は、神木隆之介、大後寿々花、ささの友間(あの名優、笹野高史の息子なのだが、この子が驚くほど上手い!)といった子役俳優たちが“子供”から“青年”へと変わり行く輝きを映し撮った冒険物語である。彼らが奏でる幼少期のハーモニーは、どの時代の、どの場所の、といった限定的な世界観を超えて、まるで日本ではないどこかの、そして行定勲が敬愛するガルシア・マルケスの著作を髣髴とさせるような世界を築き上げている。

この「ここではないどこか」の村を舞台に、やがて転校生とガキ大将とUFOの存在を信じる不思議な少女とが固い絆で結ばれていく。そうして紡がれていく友情、子供にとってみれば途方もない大冒険、意味も分からず抱いていた圧迫感、まだ恋にも満たない淡い想い・・・。かと思えば、本作には中盤からもうひとつの側面が出現する。

というのは、本作は彼らの親たちの映画でもあるのだ。三浦友和、大竹しのぶ、小日向文世らが演じる固い絆で結ばれた仲間たちの胸にも、“彼らだけの冒険物語”が秘められている。あのとき、この場所で、心にしっかりと刻まれた大切な思い出。しかしその回想が何かを声だかに主張するわけではなく、彼らはもはや少年少女ではないし、今となっては“大切なもの”の定義もすっかり変わり果てている。再会して「ひさしぶりだね」と声をかけはしても、その胸中は、あの頃と変わらぬままの気持ちと、すっかり変わってしまった気持ちとが、相反してせめぎあっている。

子供たちの想いと、大人たちの想い。

両者は通常ならばまったく相容れないアンビバレントな感情である。しかしこの映画が立脚するのは、あくまでその両者が混濁し、ボーダーレスになった部分なのだ。僕らは、子供達の冒険に息を弾ませ、大人たちの煮え切らない立ち位置にニヤリと微笑みながらも、やがてはその両者が交錯したところに、冒険映画でもニヒルな大人の映画でもない、ある種の“はかなさ”のようなものを感じずにはいられない。それはかつての輝かしい思い出を、遠く遠くの空に眺めるかのような、そんな“はかなさ”である。

この映画について「いろんなことを詰め込みすぎる」だとか「登場人物が描かれていない」だとか、いろんな粗探しをする人もいるかと思うし、逆を言えばこれはあまりにセンシティブであるがゆえに“粗探ししやすい映画”でもある。

『GO』や『世界の中心で、愛をさけぶ』で有名な行定勲監督は、ややもすると先の批判が起こりうることも充分見越した上で、あえてこの作品に挑んだのではないか。挑まざるを得なかったのではないか。

映画作家が人生のある地点において、どうしようもなく個人的な感情の爆発を余儀なくされるものだとすれば、本作は、行定勲という“かつての子供”であり、いまでは“ひとりの親”でもある者にとって、まさにそうやって創り上げられた作品と言えるのではないだろうか。こういうクリエイターにとっての通過儀礼的な作品は、観客としても長い年月をかけてじっくりと味わってみたいものである。

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遠くの空に消えた
監督:行定勲
出演:神木隆之介、大後寿々花、ささの友間、三浦友和
(2007年/日本)ギャガ・コミュニケーションズ
8月18日 渋谷東急ほか全国松竹・東急系にてロードショー

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