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2007/09/17

『ボーン・アルティメイタム』

 前作に引き続き、ポール・グリーングラスの演出が冴え渡る。2作目のラストシーン(ボーンがジョアン・アレン演じるパメラ・ランディに電話をかけるシーン)が本作のクライマックス導入部へと繋がっていく時間軸にも「そうきたか!」と新鮮な驚きがあった。

 いくつにも国を横断し、どこにでもあるような雑踏においてその地面に染み付いた匂いまでもが伝わってきそうな臨場感。そこで繰り広げられるプロVSプロの胃にキリキリくるようなチェイス。しかも息が長い。短距離走じゃなくて、まるでマラソンのように手を代え、品を代え、次々に新たな変化球を投入しながら一本の動線を作り上げていく。これはもう“執念”というしかない。まるで70年代にでも放り込まれたかのような骨太なアクションに悶絶しそうになってしまう。

 とりわけ序盤のロンドン、ウオータールー(ワーテルロー)駅を舞台とする新聞記者、ジェイソン・ボーン、CIA、スナイパー、そしておびただしい通行人が入り乱れての追跡劇はシリーズ全体のハイライトというべき驚愕のクオリティを成しており、観ているだけで息が乱れる。

 これほどまでにめまぐるしい作りの中で、それぞれのキャラクターにもしっかり命を吹き込まれているのも驚きだ。今回初登場となるデヴィッド・ストラザーン(『グッドナイト&グッドラック』)の魅せる冷静沈着な振る舞いにも(悪役ながら)グッとくる。CIAの上司たちの動きに不信感を募らせ、独自にボーンと接触を図ろうとするジョアン・アレンの凛々しい存在感も前作同様にこの物語を貫く数少ない希望の線をつないでいく。もちろん画面はどんどん展開していく。どのキャラクターもアップで分かりやすくその人物像を物語ることは不可能だ。彼らは与えられたほんのわずかな動作によって、そこに付随する感情の流れも観客に伝えなければならない。

 そしてシリーズ通して何かと関わりあってくる若き女性支局員(ジュリア・スタイルズ)が、やはりここでも登場する。彼女のふと見せる表情が“ボーンの大切な誰か”を彷彿とさせたりもするくだりは、この映画が示す唯一のしめやかなシークエンスであり、これから突入するニューヨークにおけるクライマックス直前の、まさに“嵐の前の静けさ”的な緩急を提示して無性に心に沁みてくる。

 思い返せば、そもそもこのプロジェクトの始動時はダグ・リーマン監督によって軽妙なアクションを志向して作られたはずだった。それが2作目、3作目と移行することで原作(ロバート・ラドラム著)のストイックな作風へと極限までにじり寄り、いつしか2000年代を代表する新感覚アクション大作にまで昇り詰めてしまった事実がなんとも快い。

 やはりすべての要はポール・グリーングラスだ。

 彼の生み出す映像においては主演のマット・デイモンですら部品と化す。グリーングラスの息づかい、リズム、そしてとことんまで作りこまれた映像の質感、そしてこれまでのハリウッド映画の常識には存在しなかったカメラの動き。これらを内部と外部の視点とで巧みに織り成しながら、観客が知るべき“情報”としての映像が、そこで巻き起こる状況の総体をリアルに物語っていく。だから僕らはこの映画に接するとき、「怖い!」とか「危ない!」とか「ドキドキした!」とかそういう単純な感情経路を大きく飛び越え、自らが突き落とされた状況の嵐の中で目前に繰り広げられる出来事をただただ目撃しつづける。そのグリーングラスの方法論は『ユナイテッド93』を経由してますますブラッシュアップされている。これはアクションというジャンルにおけるひとつの“発明”といっても過言ではない。

 『ボーン・アルティメイタム』を見せられたなら、もうそんじょそこらのアクション映画で満足できるはずがない。ハリウッドにおけるアクションのハードルは大きく上げられた。いずれ映画史は“『ボーン』以降”という決定的なターニングポイントをその年表に刻むことだろう。ボーンシリーズと比べれば、『ミッション・インポッシブル』シリーズなんて足元にも及ばないし、そこそこ面白くできていた『ダイハード4』でさえ茶番のように思えてくる。これと双璧をなせるのは今のところマイケル・マンくらいなんじゃないだろうか。

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