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2007/09/17

『タロットカード殺人事件』

タロットカード殺人事件』は、まるでオペラの「ストーリーラインを歌で彩る」という趣向を踏襲したかのように、「ストーリーラインを会話で彩る」ことによって、いつも変わらぬウディ節が炸裂。一筋縄ではいかないアガサ・クリスティ風の探偵コメディに仕上がっている。

冒頭、チャイコフスキーの「白鳥の湖」が意味ありげに鳴り響く。

狙った獲物は決して逃がさぬひとりのジャーナリストが死んだ。「あの世」への航海の途中で、彼は同乗者の口から特ダネ(この映画の原題は“SCOOP”)を耳にする。どうやら現在ロンドンを騒がしているタロットカード連続殺人事件の犯人は英国貴族の男らしいのだ。生前ならば必ずモノにしていたであろうこの特ダネ。これを抱えてみすみす死ねるか!彼の執念は次元を飛び越え、マジックショーのステージへ。そしてなんの因果か、彼の意思を受け継いでしまった手品師ウッディ&大学生スカーレット(・ヨハンソン)は、珍妙なコンビネーションで事件解決に乗り出すことになるのだが…。

先に僕はこの映画を苦しめ紛れに「探偵コメディ」と表現したが、もちろんその額面どおりに受け取ってしまっては違和感が生じかねない。つまり、上の説明を施した上でこの作風をもっと正確に表すならば、「ウェルメイドなスーパーナチュラル・ディテクティブ・コメディ」ということになるのだろう。

とにかく、葬式シーンから始まるといったある種の文学的な常套手段から始まって、幽霊は出るわ、死神はでるわ、手品師のウディ、なんだか抜けててかわいらしいスカーレット・ヨハンソン、どこから見ても完璧オトコマエなヒュー・ジャックマン、そして「殺人事件」なのにいちども登場しない殺人現場、そして死体、すべての旨味が絶妙にマッチング。これらの狭間をウディ特有のウィットと皮肉、そして自虐に満ちたジョークが飛び交う。そのあらゆる瞬間に笑いが介在する。とくに印象的なのは手品中のウディが放つ次の口上だった。

「ユーモアは大切ですよ。ユーモアさえあれば、世界はこんなにまで悲惨にはならなかった」

なかなか意味深い一言。ウディ・アレンの映画はあまり世相などとは関わりを持たない作風が多いのだが、このどうしようもなく時代を反映した台詞になかなかどうしてはっとさせられる。もちろん、はっと心奪われた次の瞬間には、もう次の台詞が上から覆いかぶさり、僕らはまた違う爆笑に包まれているわけなのだが。

『タロットカード殺人事件』はその邦題に「?」と首をかしげる以外ならば、かくも素敵な作品である。『マッチポイント』の予想不能の展開にも驚愕したが、オーソドックスな手法の中に遊び心とハプニングを散りばめた本作は、心身ともに大満足な上に、またしてもウディの手のひらで踊らされてしまったかのような、その物語の支配力にもはや神の領域さえも感じさせる。いくら70歳越えのご老体とはいえ、僕らは“小さな巨人”ウディ・アレンの創造力に追いつくことなど、生涯に渡ってできやしないのである。

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タロットカード殺人事件』は、10月27日より日比谷シャンテシネ、Bunkamuraル・シネマほかにて全国順次公開。

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