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2007/09/09

『アフター・ウェディング』

冒頭、インドの孤児院にて人道支援に携わる男の姿が映し出される。子供たちに愛情を注ぐ彼の表情は確固たる信念に貫かれ、その精神性を祝福するかのようにシガーロスの楽曲がこの物語の始まりを静かに告げる。

あるいは本作は、歌詞の意味もわからぬこの曲の美しさ、すべての生きとし生けるものへの賛美、尊厳がそのまま映画へと昇華されているようでもあり、つまりこの映画は、冒頭とラストで一度ずつ流れるこの曲の精神性を追体験する巨大な装置のようにも思えてくる。

やがて男は母国デンマークを訪れ、ひとりの経営者と対峙を余儀なくされる。片や慈善活動がすべての男。片や資本主義を追求する地位の男。彼等に共通項が少ないことは誰の目にも明らかだ。しかしまったく別次元に住む彼等には、それぞれに守るべきものが確かに存在する。

タイトルが示す「婚礼のあと」に打ち明けられるひとつの秘密。

絡み合ういくつもの視線。

デンマークを代表する女性監督スサンネ・ビアは、慈善活動家と経営者とを同じ「箱庭」に同居させる。このシチュエーションだけで、その後に巻き起こる衝突は火を見るより明らかだ。いや、そもそも両者を同じ目線で比較するなどできるだろうか。互いに高い理念を掲げる人間をいたずらに配置するなど、これはある意味、作家のエゴとも受け取られかねない所業のようにも感じられる。

もちろん作り手によってはこれを目も背けたくなるような悲劇と成すことだっていくらでも可能だったろう(おなじデンマークのラース・フォン・トリアーだったら人間性の膿を出し切るような作品になったはずだ)。

しかしスサンネ・ビアの作品において、そのような懸念は必要なかったのだと気づかされる。彼女はきっと、人間の持つ力をとてつもなく信じているのだろう。その証しとして、冒頭のシガーロスのイメージは最後まで決して損なわれることはなく、いたずらに人間の悪意を掻き立てて観客のイライラを募らせることもない。この作品は、途方に暮れるほど隔たりあったふたりが、いつしかその人間性を深く掘り起こしていく中で、奇妙な因縁で結ばれていく物語なのだ。

そこに何か偶発的な事件が起こるというわけではない。そこで顔を合わせる人間たちが、交互に影響を与え合いながら自分達の物語を力強く展開させていくだけだ。我々はスクリーンごしに登場人物というよりも“人間そのもの”を見つめているのかもしれない。そこであたかも神が“性善説”を実証すべく課した試練に対し、人間が粛々と答えを提示し続けているかのような聖域を目の当たりにするのである。

そして、これら運命を前にした人間のあまりの小ささ、対立を乗り越えて高みに達したときの偉大さを僕らが素直に受け止めたとき、この映画はふたたびシガーロスの楽曲とともに静かに幕を下ろす。こんなに小さくとも、世界をぐるりと内包するかのような深く、力強い愛情を感じさせるこの物語。こんなにも心揺さぶられたのは久しぶりかもしれない。

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アフター・ウェディング』は、10月下旬よりシネカノン有楽町一丁目にて公開。

劇中で効果的に使われているシガーロスの楽曲は「(  )」というアルバムの1曲目に収録されています。(リンク先で試聴もできます)。また11月7日には「HVARF HEIM」をリリース。セルフリメイク&未発表曲を交えコンセプト別に2枚組となって発表される本作は、myspaceで試聴できます。この新譜にも『アフター・ウェディング』の使用曲が収録。

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