『ヘアスプレー』
冒頭、ボルチモアの町並み紹介と共に、主役のおデブちゃんが歌い踊る。その傍らでなんとあのジョン・ウォーターズが一瞬だけカメオ出演していて小ビックリ(しかも“露出狂”役!)。実はこの作品、オリジナルはブロードウェイ・ミュージカルだと思われがちだが、そもそもの起源はジョン・ウオーターズが87年に作ったコメディにあるのだ。自分の映画がまさか20年後にこんな形で帰ってくるなんて、いくら変人ウォーターズといえども予想すらしなかったことだろう。
いやあ、それにしても踊る、踊る、踊る。時代背景の60年代といえば公民権運動が拡大してきたご時世で、ここでは底抜けに明るくハッピーな雰囲気の中に差別意識への爽やかなアンチテーゼが注ぎ込まれている。そして時代に立ち向かおうとする当時の熱気を可愛らしく体現するのが、主役となるおデブちゃん、トレーシー(ニッキー・ブロンスキー)だ。その体型のコンプレックスをものともせず、「TV番組に出演して、スターになりたい!」という自分の夢を追い続ける。彼女の大らかさがとびきり気持ちよく、彼女が何度も興奮して語る「世の中これからどんどん変わっていくんだから!」というセリフには今の時代からみても胸が熱くなるようなパワーに満ちている。現にこの後、アメリカは轟音を立てながら変わっていく。黒人と白人との距離は近まり、それによって文化の混合が増大し、60年代前後ではその差異が歴然たるものとなった。観客にはそのことがようく分かっているものだから、何があっても笑顔を絶やさないトレーシーがいつしか変革のイコンのように見えてきてしまう。
おっと忘れてはいけない、トレーシーのこれまたファットなママ役には、あのジョン・トラヴォルタがなんと女装で登場。『サタデーナイト・フィーバー』とはまた別風味のダンス&歌で魅了してくれる。それから怪しい大人のおもちゃ屋さんを経営する優しいパパ役にはクリストファー・ウォーケン。もともとそのキャリアをダンサーとしてスタートさせた彼らしい軽やかなステップを披露してくれる(ただしファンとしてはスパイク・ジョーンズがPVを手がけたファットボーイスリムの“Weapon of Choice”のように彼のダンスをとことん堪能してみたかったが)。
とにかくこの映画はミュージカル版の旨みをそのままに、すべての差別(身近なものから大きなものまで)に対し「NO!」を突きつけ、でもぜんぜん説教臭いわけでもなく、すべてのメッセージを歌とダンスに昇華させながら、117分、あっという間のパフォーマンスで盛り上げてくれる。
また、今のアメリカ、そして世界にとって、60年代にも増してこういった融和が必要とされていることはいうまでもなく、そのマジックを巻き起こすのはいつの時代でも政治や経済などではなく紛れもないアート&カルチャーなのだと、この映画の作り手たちが渾身の力を込めてリスペクトをささげている気持ちが充分伝わってくる。冒頭のジョン・ウォーターズも、きっとその意味でのカメオ出演なのだ。彼をよりにもよって“露出狂”として起用するなんて、作り手としてまさに最上級のもてなし方と受け取って間違いあるまい。
ちなみに、この映画のアダム・シャンクマン監督にインタビューする機会に恵まれました。当然のごとくジョン・ウォーターズがらみの質問をぶつけてみたところ、「ガッデム!なんでまたこの国の人たちは彼のことをそんなに知ってるんだ!?」と驚きと戸惑いの表情を浮かべ、「あなたが表現者としてウォーターズ精神に学んだことは?」との質問には「映画を撮る上では、お金や、キャスト、スタッフとの兼ね合いやらいろいろなしがらみが持ち上がるけれど、最終的に自分のやりたいことを貫けるかどうか、その重要性を彼は教えてくれた」と答えてくれました。
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『ヘアスプレー』は、10月20日より丸の内プラゼールほか全国松竹・東急系にて公開。
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