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2007/10/27

映画祭いちばんの収穫はこの作品!

とうとう明日で東京国際映画祭も最終日。

コンペ、アジアの風、ワールドシネマを中心にいろいろと作品を見てきましたが、僕の心にもろ直球に突き刺さったのはこの作品でした。

思い出の西幹道(仮題)』(その後、『1978年、冬。』という邦題に決定しました)

実は、事前の試写であまりに素晴らしかったので、本日の一般上映でも再見。試写ではそれほど反応が濃かったわけではなかったので、一方のお客さんたちがどういう反応をするのか凄く興味があったのです。

Westerntrunkline

舞台となるのは、1978年、中国の北部に位置する田舎町。いまだ文化大革命の影響が色濃く残る中、ふたりの歳の離れた兄弟(ひとりは青年、ひとりは小学生)と北京からやってきた儚げな少女が出会い、それぞれの胸に生涯忘れられない深い記憶を刻んでいく。特にこの兄貴がほんとうにダメダメな奴で、工場はサボるわ、常にナイフとフォークを持ち歩くわ、気になり始めた少女の周辺に付きまとうわ、線路の鉄くずを集めて勝手に金にするわ・・・。しかし自分の過ちをきっかけに彼女への本当の愛に気がついたとき、彼は純粋無垢な守護天使へと姿を変える。少女の心もしだいに彼の心に惹かれていく。

またふたりの恋人を傍から見つめるちっちゃな弟は、まだ幼いなりに恋にも嫉妬にも満たない複雑な感情をめぐらせる。そして、閉鎖的な町の住民たちが彼ら恋人たちに悲しい運命を下すとき、弟までもがそのとばっちりをも見事に食らってしまう・・・。この“飛び火”とも言うべき弟の境遇が思わず笑ってしまうくらいに悲惨なのだが、それでもいつしか痛みは微笑みに変わり、スクリーンからあふれる優しい時間の流れがゆっくりと観客の心を癒していく。切ない。切な過ぎる。そしてなぜかドキドキする。遠い中国の話なのに、なぜかとても懐かしい、身近な話のような気がしてしまう。

いったいこの映画の何が僕の心をひきつけたんだろう。ひとつの理由として、このダメダメな兄貴が同じ青年時代の自分と激しくシンクロしたことは間違いない。いやきっと、地方都市でモッサリした青春時代を送ってきた多くの男どもにとって、ただボンヤリと都会を夢見る彼のキャラクターは情けなくも非常に共感できるものだったと断言できる。このモッサリ兄を演じたリー・チエは、なんと演技初挑戦なのだと言う。初めてにしてこの見事なモッサリぶり!天性の才能!・・・っていうか、彼が実際にも役作りの要らないモッサリした性格であろうことは想像に難くない。

また、少女役のシェン・チアニーの儚げな存在感と言ったら・・・。この映画の彼女を観ていると、思わず『初恋の来た道』で初めてチャン・ツィイーを目にしたときのことを思い出した。彼女が舞台で踊る姿に歳の離れた兄弟が意味も分からずドキドキしてしまったように、きっと男女問わず、この映画に触れた多くの人が彼女の儚さに恋をするだろう。

そして忘れてはいけない、この物語をじっと見つめ続ける幼い弟。2000人の子役の中から選ばれたというこの子の“目の演技”には圧倒される。少女に絵を褒められ「展覧会が開けるわよ」と声をかけられたときの天にも昇らんばかりの感情を、ほんの僅かの表情で表現してしまえる見事さ。おねしょ布団を彼女に見られたときの本当に哀しそうな表情も見逃せない。

“西幹道”とは架空の街の名前なのだという。その脇を一本の線路が貫いている。すべての思い出はこの線路から見える風景の中で色を帯びていった。帰り道、トボトボ歩く少女を、チビな弟が遠くからこっそり眺めるシーンがある。なんという長回し。なんという引きのカメラ。彼らが細かな仕草を演じたとしても、引きのカメラはクローズアップなどせず、一切動じない(その後のティーチインで監督はこのことを「過去を振り返るときの距離感を表現したかった」と語っていた)。この西幹道の線路を往復するたびに彼らの人生は更新され、明日が始まって、また終わる。その線路から旅立っていった兄には悲運が待っていた。残された幼い弟と、恋人。彼らはあの日から30年後のいま、どこで何をしているのだろうか。たかが映画、人が創作した物語。なのに、そんなことが気になって仕方がなくなるのは、誰の胸にも「西幹道」に代わるリアルな思い出が存在するからなのだと思う。

同じようなテーマの作品では『小さな中国のお針子』などもっと入り込みやすい作品もあるが、本作は常に寒風が吹きすさび、枯れた大地に曇天の空、そして工場からモクモクと排出される煙が観客に“地の果て”のイメージを植え付ける。でもだからこそ、そのモヤの向こう側に崇高な光が隠されているような希望をどうしようもなく抱いてしまう自分がいる。

でも正直、「一般のお客さんにはやや地味過ぎたかな・・・」と思っていたら、映画祭での反応は上場!エンドクレジットへ暗転した瞬間に客席が一斉に「ほぅっ」と溜息をついたような、そんな余韻さえ感じました。ここに集まってるお客さんたちにはきちんと見るべきものが見えていた。その一員として会場の雰囲気を体感できてとても幸せでした。本当にあの空気は試写室などでは味わえるはずもなく、こういう機会でないと得がたいものだった。素晴らしいものが生まれ出でる瞬間を、大勢で共有することの喜びを改めて噛み締めました。

『思い出の西幹道(仮題)』は日本でも2008年の公開も決定しています。このなんとも言いようのない切なさと温かさをぜひ多くの方々に体感してもらいたいです。

ちなみに写真は、左から主演女優のシェン・チアニーさん、監督のリー・チーシアンさん、脚本家であり監督の奥様でもあるリー・ウェイさん。ちなみにティーチインのときに監督がこの作品を着想した経緯を語ってくれたのですが・・・これがまた思わずホロッとなってしまうようなエピソードでした(おそらく明日くらいにはその模様が更新されるでしょうから映画祭のHPをチェックしてみてください)。

さて、『思い出の西幹道』はグランプリを受賞するでしょうか?

そんなこと、もはやどうでもいいのです。こんな素晴らしい作品に出会えただけで僕はもう満足だし、この素敵な出会いを演出してくれた映画祭にも、心から「ありがとう」と伝えたい。

追記1:28日の授賞式で、『思い出の西幹道』は審査員特別賞を受賞しました。

追記2:この東京国際映画祭が終わって中国に戻った3人は、なんと思いもかけない事態に飲み込まれてしまうのですが・・・。これを知った時にはショックでした。ここでは述べたくないので、気になる方はネット上で記事を探してみてください(タイトルで検索すればすぐにたどり着けると思います)。

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