« 『いのちの食べかた』 | トップページ | 映画祭が始まりました »

2007/10/08

『ディスタービア』

原題のカタカナ表記がそのまま邦題に納まってしまう潮流に目くじらを立てる人も多いが、辞書に載ってない英単語の意味をダイレクトに教えてくれるという意味において、この「Disturbia」の邦題は『ディスタービア』でしかありえなかった。「覗き」という意味らしい。

教師を殴り裁判沙汰を起こした青年が、罰則として30日間の自宅謹慎を食らう。といってもその実際の内容といったら日本人には計り知れないもので、なんと自宅から30メートル離れるとアラームが作動しすぐにパトカーが駆けつける発信機を足に装着させられるのだ。担当官からは「自宅謹慎は精神を破綻させるから気をつけて」との忠告。もちろん自宅内でできることといえば限られている。テレビや雑誌、ゲームもすぐに飽き、フラストレーションは溜まる一方。そんな身動き取れぬ状況下で不健全な青少年が取る行動はだいたい決まってるようなもので…ヒッチコックの『裏窓』を現代に翻案したかのような青春ミステリーがここに幕を開ける。

自宅から双眼鏡で覗き見る隣家では、セクシーな同級生が引っ越して水着でウロウロ悩ましい姿を披露し、また反対側の隣家ではなにやら傷のついたマスタングを車庫にしまう中年男性の姿。時を同じくしてテレビでは、とある女性がマスタングに乗り込んだのを最後に消息を絶ったとのニュースが繰り返し伝えられている。「おかしい!何か事件の匂いがする!」。自宅から一歩も出れない主人公は、セクシー同級生&親友とチームを組み、携帯、デジカメを駆使しながら怪しい中年男の尻尾を掴もうと追跡を開始するのだが…。男は本当に怪しいのか?はたまた、かの担当官が口にしたように、自宅謹慎が彼の精神を破綻させてるだけなのか?

たとえば『パーフェクト・ストレンジャー』がそのタイトルからして犯人の名を告げたようなものであることからも明らかなように、そもそも世にある物語のストーリーラインなんてもうとっくに飽和状態を迎えている。とすれば、少なくともハリウッドのように新製品を絶え間なく量産し続けなければならない産業では、既存のストーリーラインにアレンジを加えて、新たなリミックスを行う必要性が生まれてくる。その方法論の一翼を担っているのが「ハイテク化」というファクターだろう。ヒッチコックの『裏窓』に「ハイテク化」の波を注いだならばこういった画期的なリミックスが出来上がりました!という作例がこの映画である。

なので、最新鋭の発信機や覗き道具だとかミステリーだとか、そういったフェイクは数多く存在すれど、基本的なストーリーラインはクラシック回帰したかのようにシンプル。

このシンプルさにひねりを加えた、というアイディアだけでも充分面白く、もしかするとこの映画は「リミックスの好例」として歴史にその名を残したかもしれない。しかしこの監督は、おそらく散々な悩みぬいた末に、この映画を“フェザー級の軽さ”とガンガン鳴り響く“音楽”とで彩って、いかにもティーン層に向け目をギラギラ輝かせたマーケティング至上主義を発揮。結果的に「面白いミステリー」というよりは「ティーン・ムービーにしては面白くできたミステリー」というアプローチで臨んだ方がむしろハズレは少ないシロモノへとシフトチェンジしてしまったかもしれない。

ただ俳優に関していえば話は別だ。主演は『トランスフォーマー』での鮮烈なデビューも記憶に新しいシャイア・ラブーフ。『トランスフォーマー』と『ディスタービア』は同じドリームワークス作品で、撮影場所も近かったらしく、どこか2作が繋がっていても不思議はない映像のオンパレード。ヒロイン役でブロンドのセクシー美女が登場するところとかも、2作ともまるっきりおなじじゃん!と突っ込みたくもなるが、ラブーフの危なっかしい眼光とイノセントかつダークな心理表現の巧みさにはティーンの粋に収まりきらないくらい凄みを感じた。ちなみに彼の母親役には『マトリックス』のキャリー・アン=モス。出産後ようやく女優として出演作を増してきたとはいえ、『マトリックス』で跳んだり蹴ったりしてたのがずいぶん昔の日のことのよう…そんなことを感じさせる母親ぶりだった。

ディスタービア』 は11月、スバル座ほか全国ロードショー

■この記事が参考になったら押してください→人気blogランキング

ヒッチコックの『裏窓』から『ディスタービア』へ。映画のプロットは時代を超えて、再生産を繰り返していくもの。それはそれで、正しい進化のカタチなのかもしれません。

|

« 『いのちの食べかた』 | トップページ | 映画祭が始まりました »

映画・テレビ」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/137483/16702484

この記事へのトラックバック一覧です: 『ディスタービア』:

« 『いのちの食べかた』 | トップページ | 映画祭が始まりました »