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2008/02/27

アカデミー賞受賞作

今年も無事にアカデミー賞授賞式が閉幕しました。これまで細々と書きためてきた当ブログのレビューにもオスカー受賞作が多数ありましたので、ここはひとつ、見やすく一覧にしておきたいと思います。主要部門を獲得した作品の多くについてはこれから公開時期にあわせて長文レビューも掲載していく所存ですので、よろしくご期待ください。

ノーカントリー (作品賞/監督賞/助演男優賞/脚色賞)

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド (主演男優賞/撮影賞)

エディット・ピアフ 愛の讃歌 (主演女優賞/メーキャップ賞)

フィクサー (助演女優賞)

つぐない (作曲賞)

ボーン・アルティメイタム (音響編集賞/録音賞/編集賞)

ライラの冒険 黄金の羅針盤 (視覚効果賞)

エリザベス ゴールデン・エイジ (衣装デザイン賞)

ONCE ダブリンの街角で (歌曲賞)

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2008/02/25

『エディット・ピアフ 愛の讃歌』

300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお手軽な文系スポーツ。というわけで、今回のお題は『エディット・ピアフ 愛の讃歌』です。

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2008/02/24

『ライラの冒険 黄金の羅針盤』

アカデミー賞 視覚効果賞、獲得!

300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお手軽な文系スポーツ。というわけで、今回のお題は『ライラの冒険 黄金の羅針盤』です。

まだまだ“序章”でしかないけれど

モラトリアム中年とファンシー少年の交流を描いた『アバウト・ア・ボーイ』をご存知だろうか?この傑作を世に出したワイツ兄弟の片割れ(弟)が、大人気ファンタジーを担いで戻ってきた。舞台は地球に似たパラレル・ワールド。その存亡の鍵となる謎をめぐって、ひとりの少女が冒険の旅に出る。注目なのは監督自身『スターウォーズ』と『バリー・リンドン』を参考にしたと語る壮大なビジュアルだ。中でもクラシックな実景に精緻なCGを織り込んだ全く新しいファンタジー色に観客の胸は高鳴りっぱなし。またすべての人間に守護動物が寄り添うという独特な世界観にも深読みの楽しさが尽きない。序章としてはなかなかの滑り出し。真価は第2弾で決まると見た。

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ライラの冒険 黄金の羅針盤
監督:クリス・ワイツ
出演:二コール・キッドマン、サム・エリオット、エヴァ・グリーン、
ダコタ・ブルーリチャーズ、ダニエル・クレイグ
(2007年/アメリカ)ギャガ・コミュニケーション×松竹
3月1日、全国拡大ロードショー

「ライラの冒険」シリーズは、「黄金の羅針盤」に続いて「神秘の探検」、「琥珀の望遠鏡」と3部作となっています。実際に会って話を訊いたクリス・ワイツ監督によると、映画版の続編製作はあくまで一作目のヒットいかんにかかっているらしく、彼の表情にも緊張の色が伺えました。ちなみに、彼の兄であり『アバウト・ア・ボーイ』の共同監督でもあるポール・ワイツはただいま大ヒット・ファンタジー「ダレン・シャン」シリーズの映画化を進めている模様です。

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2008/02/21

『いつか眠りにつく前に』

300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお手軽な文系スポーツ。というわけで、今回のお題は『いつか眠りにつく前に』です。

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2008/02/20

『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』

アカデミー賞 主演男優賞、撮影賞、獲得!

300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお手軽な文系スポーツ。というわけで、今回のお題は『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』です。

野心と愛憎とオイルにまみれた、怒涛の2時間36分!

まさに大胆不敵。『マグノリア』で現代の最重要映画作家のひとりとなったPTA(*)が挑むのは、一人の石油採掘師の不気味なまでに破天荒な人生だ。黙々とカットを繋ぐ序盤では確かな優しさを垣間見せていたデイ=ルイスが、やがて石油に黒くまみれ、愛憎の表裏一体化した怪物のように変わっていく。忍び寄る父と子の確執、そして兄と弟の猜疑心。物語が暗黒色を強める中、時折フラリと現れる牧師役ポール・ダノには要注意だ。穏やかな表情の裏側にとんでもない狂信を秘め、観客を仰け反らせること間違いなし。人はアメリカン・ドリームの前でかくも豹変する生き物なのか。これは石油をめぐる現代風刺でもあり、またそれを超えた壮大な人間ドラマでもある。

(*)もちろんポール・トーマス・アンダーソンの略

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長文レビューはこちら

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス、ポール・ダノ、ケヴィン・J・オコーナー、
キアラン・ハインズ、ディロン・フレイジャー
(2007年/アメリカ)ウォルトディズニースタジオモーションピクチャーズジャパン
4月26日よりシャンテシネほか全国順次ロードショー

本作の原作であり、長らく絶版となっていたアプトン・シンクレアの「石油!」(1927年発刊)が復活!。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』よりも更に長い大河ドラマを繰り広げています。なお、本作のサントラを手がけたのは、なんとレディオヘッドのギタリスト、ジョニー・グリーンウッド!不協和音と現代音楽をかき混ぜたような不気味な音色が圧倒的な映像世界を見事に盛り上げています。

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2008/02/18

『ノーカントリー』

アカデミー賞 作品賞、監督賞、助演男優賞(ハビエル・バルデム)、脚色賞、獲得!

300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお手軽な文系スポーツ。というわけで、今回のお題は『ノーカントリー』です。

この素晴らしき黙示録の世界で

80年代、テキサス。狩りの途中で無数の死体と大金を発見したモスは、衝動的に金を持ち去る。案の定、それを追って動き出す奇妙な殺し屋がひとり。彼の行く先で罪なき大勢が犠牲となり、また事件を追って老保安官までもが動き出すが…。コーエン兄弟の最新作は音楽や台詞をそぎ落とし、静寂の中でボシュッボシュッ(*)という音がこだまする。ヤツだ!ヤツが来た!このおかっぱ頭の殺し屋は、もはやハビエルにとって一世一代の当たり役。彼のもたらす緊張と弛緩が観客を極限まで翻弄する。モスは言う。「ヤツは悪の根源なのか?」いや違う、恐らく彼は悪でもあり、神でもある。そして、その得体の知れなさこそ、まさにこの映画。コーエン兄弟流の黙示録へようこそ。

(*)これがなんの音かは、口が裂けても言えません。

●より詳しい長文レビューはこちら

●『ノーカントリー』についての井戸端会議はこちら

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ノーカントリー
監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
出演:トミー・リー・ジョーンズ、ハビエル・バルデム、ジョシュ・ブローリン、
ウディ・ハレルソン、ケリー・マクドナルド
(2007年/アメリカ)パラマウント/ショウゲート
3月15日(土)シャンテシネほか全国ロードショー

コーマック・マッカーシーのSF小説「ザ・ロード」も現在映画化が進行中とのこと。

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『ジャンパー JUMPER』

300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお手軽な文系スポーツ。というわけで、今回のお題は『ジャンパー』です。

今回は簡単なイントロ篇ってことで

自分が“ジャンパー”であると知った若者、デヴィッド。彼が頭に景色を想い浮かべると瞬時にそこへひとっとび。そんな能力者を追って謎の組織“パラディン”が忍び寄る。それは両陣営をめぐる壮絶なバトルの幕開けだった…。次々と革新的な映像を生み出すダグ・リーマン監督が、今回は秒刻みで時空を飛び交う驚愕アクションに挑戦。ヘイデンがロンドン→エジプト→ローマ→東京を自在に駆け巡れば、対するサミュエル先生は問答無用の追跡ぶりで観るものを圧倒する。また『リトル・ダンサー』のジェイミー君が“先輩ジャンパー”としてなかなかの好演ぶり。多くの謎やバトルを残してあっという間に本編は終わるが、このスナック感覚の小気味よさはちょっとだけ癖になりそう。

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ジャンパー JUMPER
監督:ダグ・リーマン
出演:ヘイデン・クリステンセン、ジェイミー・ベル、レイチェル・ビルソン、
ダイアン・レイン、サミュエル・L・ジャクソン
(2008年/アメリカ)20世紀フォックス映画
3月7日(土)より日劇1ほか全国ロードショー

『ジャンパー』DVDは7月23日発売。

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2008/02/17

『バンテージ・ポイント』

 初期イメージとしてはパッとしない。そのポスターもDVDスルーを免れたB級アクションのような雰囲気が充満している。舞台は何かの政治サミット。「テロに対抗するための歴史的な第一歩です!」的な白々しい実況レポートが生中継される中、各国のお偉方の集まったセレモニーが幕を開ける。このご都合主義のビミョーな設定が典型的なハリウッドの常套手段のような気がして「ああもう、いいよ!」と萎える。上映時間はあと90分あまり。チラッと時計を見て、いくばくかの徒労感に襲われる…だが、その矢先、スクリーン上でとんでもないことが勃発する。

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2008/02/16

『エリザベス:ゴールデン・エイジ』

300文字レビュー」とは、映画への想いをたった300文字に凝縮させる、とてもお手軽な文系スポーツ。というわけで、今回のお題は『エリザベス:ゴールデン・エイジ』です。

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2008/02/10

「ロス:タイム:ライフ」第2節

テレビドラマの歴史を変えるかもしれない「ロス:タイム:ライフ」。同世代(同年齢)の筧昌也が繰り出す世界観を観ているとなんだか居ても立ってもいられなくなり、氏に直接メールを送るよりも、いっそ思い切って各話ごとにレビューしていくことにします。

ロス:タイム:ライフ 第2節~刑事編~

 この変則的なドラマをまったくの白紙状態で享受する視聴者に対し、「第1節」はその概略を教科書的な丁寧さでまとめて提示するものだった。それに比べ「第2節」は早くも前回で培った土壌を“崩し”にかかっている点に驚かされる。全体的には失敗を恐れがちなテレビドラマとしてあまりに実験的で不恰好な外見ながら、それでは割り切れない可能性というか、魅力を感じさせるものがあった。

 ご存知の通り、今回は「刑事ドラマ」という下敷きの上に「ロスタイム」が覆いかぶさってくるわけで、それに伴う状況説明も必要となり、序盤はややスロー・スタート気味。「ロスタイム」の笛と共に審判団&実況中継が乱入してその基調リズムをかき乱すまでには少し時間がかかる。ややもすれば冗長になりがちなこの序盤だが、むしろ筧昌也の「刑事ドラマ」観を垣間見る上では面白い映像展開となっていることに注目したい。とりわけ警察署の廊下を使った複雑なワンショット撮影は、三谷幸喜の諸作品や「踊る大捜査線」の影響が多分に沁み出したものだろう。

 時折、バックには「太陽にほえろ」に似た音楽が鳴り響くが、でもどうだろう、筧監督が僕と同世代なら、その遺伝子はあまり深く組み込まれていないんじゃないだろうか。むしろ刑事ドラマの“アイコン”としての「太陽にほえろ」といったほうが適切なのかもしれない。また、過去の凶悪事件を追いかける老刑事の設定など、「太陽にほえろ」の子作品「踊る大捜査線」のオマージュとなっている部分が多い。でも筧監督はその影響をストレートなカタチで発露させる単純な性格は持ち合わせていないようだ。物語として「大捜査線」的なるものが展開し、それを電信柱の影から審判団がジッと見ている、という微妙なスタンス、これこそが今回の典型的な「構図」となっており、その構図的な部分を見せることにおいては筧監督はなんの“照れ”も見せていない。うっかりとスルーしてしまいそうだが、実はこの特徴こそ、若手クリエイターならではの一筋縄ではいかない発想なのではないか、と考えずにはいられない。

 物語の面では違和感も残る。個人的には、主人公が最後に下した“ある決断”が素直に共感できなかったのだ。携帯に電話をしてくる母親の声が耳に残る。最愛の娘を亡くした上に前途ある部下を死なせてしまった老刑事の背中が目に焼きついて離れない。最初から分かっていたとはいえ、このやりきれない結末は、事件解決の快哉よりも悲しみの方が先行する。

 しかし忘れてはいけない。このテレビシリーズは「ライフ」という名の「ゲーム(スポーツ)」なのだ。ロスタイムを終了して主人公は試合場を後にするが、そこには同時に新たな誕生の瞬間(赤ん坊の泣き声)も刻まれている(このシリーズがなぜか“輪廻”の概念を基本としているところも面白いところだ)。スポーツにおいて、ゲーム終了は「死」ではない。新たな「出発」を意味するものだ。

 人生とスポーツを同等に扱うなんてけしからん、なんていう視聴者の方もいるかもしれないが、これは誰もが思いもつかなかった画期的な発想であり、そこを出発点にして産み落とされる壮大な実験でもある。よって、ルール違反ギリギリの手助け(ハンドボールの“中東の笛”じゃないんだから)などして「刑事ドラマ」に感化されていたあの審判団や、悲しみにくれた我々視聴者は、来週また再び涙をぬぐってそのピッチに立たなければならない。立ち続けることに意味があるのだ。
 
 実はこれこそ、この画期的なドラマシリーズに付随するいちばんの特徴なのかもしれないと、まだ「第2節」ながら漠然と考えている。

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2008/02/09

『潜水服は蝶の夢を見る』

 山田宏一氏の「トリュフォー、ある映画的人生」(平凡社刊)に、“アイリス・アウト”について触れた部分がある。山田氏はかつて自身の患った脳の病気について、あくまで医師から聞いた話として「だんだん視野が狭くなっていき、それが小さな点ほどの大きさになり、遂には消滅してしまう」と語っている。彼は思いを馳せる。それはちょうど映画のシークエンスの締めくくりの際に用いられる“アイリス・アウト”という手法によく似ている。おそらくは、おなじ脳の病気でこの世を去ったトリュフォーも、この“アイリス・アウト”によって人生のラストシーンを閉じたのではなかったかと。

 『潜水服は蝶の夢を見る』は、その冒頭の長い時間、主人公の視点(詳しくは左目)のみで映像が展開する。ふと気が付くとそこは病院。あわただしく動きまわる医師と看護士たち。どうやら自分の身に何かが起こったらしい。身体が動かない。意識が薄れる。まぶたが閉じる。そして時間が飛ぶ。再びまぶたが開く。ピントが合わない。物がはっきりと見えない。誰かが自分の名を呼ぶ。だが身体はまだ動かない。

 ゆっくりと記憶が呼び起こされていく。雑誌ELLEの編集長、ジャン=ドミニク・ボビーは脳梗塞に倒れ身体の自由を失ってしまった。意識ははっきりしていながらも、唯一動かせるのは“左目”のみ。彼の意識と世界を繋ぐ窓口は突如としてたったそれだけに限定されてしまったのだ…。

 やがてジャン=ドミニク・ボビーのもとに言語療法士のアンリエットが現れる。彼女はジャンに“まばたき”で意志を伝える方法を教えてくれる。彼にとってそれが言語となり、ジェスチャーとなる。ようやく取得したコミュニケーション・ツールを使い、彼は渾身のまばたきで「死にたい」とだけ伝える。

 スクリーンには否応なしに重い空気が立ち込める。

 このとき僕は山田氏の語ったトリュフォーのことを思い出さずにはいられなかった。というのも、こんな絶望的な状況においてさえ、彼の左目があたかも“アイリス・イン”と“アイリス・アウト”を繰り返しているように思えたのだ。トリュフォーの最期のようにアイリス・アウトしたままだとそれは「物語(人生)の終幕」を意味する。だがここでは、たとえ身体は動かなくとも、それは閉じてはまた開かれている。つまり“物語(人生)”は閉じたままではなく、いま確実に“展開している”のである。

 思いがけなくも山田氏の言葉と主人公の姿を掛け合わせたことで、人間の“眼”もしくは“まばたき”が映画の基本原理に驚くほど肉薄していることにあらためて気づかされた次第だ。

 静かな胎動はやがて映画全体を包み込んでいく。かつて左目で「死にたい」と訴えていたジャン=ドミニクは、いつしかその“まばたき”でもって前々から構想中だった自伝の執筆に取り掛かる。彼の内面で繰り返されていた“展開”は、いよいよ人々の眼に見える形で外の世界へと発露していく。午前中は意識内での推敲に使用し、午後の時間で一気に執筆活動へと突入する彼。まばたきは次々と文字をつかまえ、意味をつかまえ、文章として彼の言葉を刻んでいく。

 徐々に書き留められ、形を帯びてくる文言たち。その映像に載せて活字化されたジャン=ドミニクの言葉がモノローグとなって零れ落ちてくる。

 それはよどみなく流れる美しいせせらぎのような響きだった。なんとウィットに富んだ語り口。なんと豊かな感性。なんと軽やかな文体。まるで潜水服のように重く、自由の利かない身体の内側で、彼の創造力はまるで蝶のように大空を羽ばたいているのだ。そして途方もなく繰り返されたまばたきの回数はいつしか20万回にまで達し、念願の自伝はいままさにこの映画の原作本「潜水服は蝶の夢を見る」として産み落とされるようとしている。

 この映画はジャン=ドミニクが著した自伝を通して、逆説的に人間の創作意欲がこんなにも不屈で、繊細で、強靭なものであったことをまざまざと教えてくれる。また彼の創作意欲に触発されたかのように、ジュリアン・シュナーベル監督は驚異の映像力(撮影監督を務めたのはスピルバーグ作品でもおなじみ、ヤヌス・カミンスキーだ)でもってこの“静”の物語を渾身の“動”へと変貌させていく。僕は思う。シュナベールはきっと、この物語を“アイリス=映画の物語”としても深く認識していたに違いないと。そして現実的な“アイリス・イン”“アイリス・アウト”の聖域として、俳優マチュー・アマルリックの左眼は身体的にとても重要な使命を帯びている。すべてはその眼から始まり、そしてその眼で幕を閉じる。アマルリックの左目が彼自身をこれまで以上に世界的な注目の的として包み込んだことは言うまでもない。

 現在、この映画に触れたおびただしい映画人たちが軒並み絶賛コメントを寄せているが、同じフランスの国籍を持つこの映画を天国のトリュフォーが何と評するのか、不可能とはわかっていなからも、その言に触れてみたいと欲せずにはいられない。僕にとっていつか聞こえてくるかもしれないその声にずっと耳を済ませることこそ、この映画に対する最大級の敬意の表しかたのような気がしてならないのだ。

潜水服は蝶の夢を見る』は、2/9(土)シネマライズ、新宿バルト9、シネカノン有楽町2丁目ほか全国ロードショー

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2008/02/08

『フローズン・タイム』

 『トレインスポッティング』や『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』と同じく、『フローズン・タイム』を世界の映画シーンに全く新しい風を吹き込んだ革新的ブリティッシュ・“ポップ”ムービーとして捉える向きも多いだろう。

Cashback

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2008/02/03

『4ヶ月、3週と2日』

 1987年のルーマニアで、違法堕胎に踏み切る女性と彼女を助けるルームメイトの物語…などとストーリーを俯瞰してみたところで、この映画の面白さは1パーセントだって伝わらない。

 僕ら現代人は、人として生きていく上での想像力が乏しくなったと言われて久しいが、2007年のカンヌでパルムドール(最高賞)を受賞した『4ヶ月、3週と2日』は、まさにその、観客の“想像力”を試すための作品と言い得るのではないだろうか。

 余計なナレーションなど存在するはずもない。映画が始まると同時に、僕らは圧倒的な状況描写へと押し込まれる。とある寮の一室。ふたりの女性が慌しく朝の準備に追われている。「いいわね?」「うん、わかった」とやり取りが交わされるが、観客には何のことだかさっぱり分からない。中にはこの時点で取り残されて途方に暮れる人だっているかもしれない。でも大丈夫。これはルーマニアが生んだ新鋭、クリス・ムンジウ監督の仕掛けた通過儀礼のようなものだ。僕らはこの圧倒的な朝の海に投げ出されることによって、我を忘れて必死に映画の流れにしがみつこうとする。彼女たちの会話、細かな動き、用意している道具にグッと神経を集中させ、いま何が起こっているかを状況把握しようとするのだ。

 そうしてハッと気がつくと、僕らの意識はいつの間にか、80年代のチャウシェスク政権下ルーマニアに入り込んでいる。

 この時代、ルーマニアでは労働力確保のために出産が奨励され、逆に避妊は禁じられていた。そして妊娠中絶なんてもってのほか。見つかると厳しく罰せられたという。彼女たちは今日、どうやらその法を犯そうとしているらしいのだが、映画の中ではそんな具体的な説明などまったくない。主演女優が親友のため、何かに怯えながら粛々と手はずを整えていく姿を見て、僕らは必死に想像力を働かせるだけだ。いったい彼女の身に何が起こっているのか。この計画が失敗すると彼女たちはどうなってしまうのか。カメラはダルテンヌ兄弟の映画のように、ただ淡々と、彼女たちの行動を追い続ける。たどり着いたホテルの一室。大きな鞄を抱えた謎の男。そして「約束が違う!」と怒り出す男。法の外に足を踏み出した彼女たちに、もはや選択の余地など存在しない。そして主人公は親友のために、あるひとつの決断を下す…。

 カンヌ授賞式の生中継を見ていて、クリスティアン・ムンジウ監督の若さに驚いた。彼はいま39才。それに対して、この映画のメイン女優ふたりはまだ20代の現代っ子。彼女たちは監督に「主人公の下す決断が信じられない」と相談したそうだ。「なぜ主人公は、たかがルームメイトのためにあそこまで身を捧げられるたのか…?」と。監督はこう答えたそうだ。

 「あの頃は、そういう時代だったんだ」

 もう一度言っておく。これは隠居したお爺さんの回顧録ではない。時代は1987年、ムンジウ監督が20歳前後の頃が舞台なのだ。たかだか10年くらいの歳の違いで、これほどまでにギャップが生まれてしまうこの国の状況に言葉を失ってしまうと同時に、ムンジウ監督が放った言葉の重みに改めて圧倒される。僕らが同じ言葉を口にするなら、せいぜいバブル期のフィーバーぶりくらいが精一杯に違いない。

 そしてこの映画は妊娠中絶に関して何かのメッセージを伝えようという類の作品では毛頭ない。子宮に宿った小さな命が原因で激しく苦悩する主人公たちをフィルムに刻みながらも、「4ヶ月、3週と2日」を生き抜いた果てにまるで物のように取り出されて床に転がった小さな亡骸からも決して目をそらすことはない。やはりすべては“状況”なのであり、そこから何を感じるか、その一切はすべて観客に託されているのだ。

 その意味でも、本作の最後の一瞬から目をそらさないでほしい。いよいよエンドクレジットへ暗転しようという直前、主人公が観客に向けてふいに視線を投げかけるのだ。本当にさりげなく、チラッと。

 来日したムンジウ監督によると、これは「あなたはどう思う?」という観客への問いかけなのだそうだ。僕はこの視線にもうひとつの役割を見出したい。それは、僕らが113分、ずっとかけられっぱなしだった映画の魔法から覚醒するための、いわば“目覚めの呪文”なのだと。彼女がこちらを振り向いた瞬間、観客の“主観”は再び“客観”へと引き戻される。その一瞬のささやかな仕草によって、僕らは無事に2008年の日本へと帰還を遂げるというわけだ。

 “歴史”は上書きされるたびに過去となるが、生々しい“状況”を封じ込めたこの映画に過去なるものは存在しない。『4ヶ月、3週と2日』に与えられた宿命とは、これから10年後も20年後もフィルムが回転するたびに「進行形の物語」として観客の想像力を起動させ、そして変わらず「あなたはどう思う?」と問い続けることである。

4ヶ月、3週と2日』は、3月1日より東京・銀座テアトルシネマ他、全国順次ロードショー

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『ザ・フィースト』

The FEAST/ザ・フィースト 』というパニック・ホラーを観た。

 有名俳優などいっさい登場しない本作は、インディーズ精神を地で行くノリ&強引さで突っ走っている割には、何か得体の知れない強力な磁場のようなもので観客をグイグイと惹きつけるものがある。どうやらマット・デイモン&ベン・アフレックが脚本にほれ込んでプロデューサーを買って出て、その製作過程は「プロジェクト・グリーンライト」というテレビ番組で総力レポートされたらしい。

 マット&ベンは来日するたびに「ふたりのコラボは?」との問いに「いまは時間が取れないけど、いつか実現させたい」なんて答えていたけれど、『グッドウィル・ハンティング』で世界を大いに泣かせた彼らが実は裏でちゃっかりこんなパニック・ホラーをこしらえてたなんて、なんだか悪ガキ坊主たちの華麗なる悪戯を目の当たりにしたみたいで思わず笑ってしまう。もちろん悪ガキには保護者(?)が必要ってことで、あのホラーの名匠ウェス・クレイブンまでもが面白がってプロデューサーとして企画に名を連ねているあたり、なかなかあなどれない。

 映画の舞台は、とある寂れた酒場。

 エイリアンなのか化け物なのか分からん恐怖の生命体親子がここを急襲し、見るからに頭の悪そうな常連客が、阿鼻叫喚の地獄絵図へ巻き込まれていく…。

 と、突如、頼りになりそうな風貌の男が店に飛び込んでこう叫ぶ。

 「奴らがやってくる!おれの指示をよく聞くんだ!」

 テンポよくテロップで彼の人物紹介が入る。

 ヒーロー

 なるほど、彼がヒーローか。彼がみんなを率いてバケモンと闘うのか…なんて思いきや、次の瞬間にはヒーローの断末魔の叫びが酒場にこだまする。あっという間にバケモンにやられてしまった。ヒーローの強制退場。残された者たちはただ唖然とするしかない。

 つまりこの映画は最初から「ヒーロー不在」なのだ。本命不在のまま迎える代表選挙みたいなものか。果たして彼らが目指すのは“カオス”か“希望”か。

 華のない俳優たちがストーリー上の生き残りを賭けて闘う姿は、さながら「俺が!俺が!」と芸能界生き残りを賭けて最後の闘いを繰り広げるバトル・ロワイヤルのようでもある。「子供」は死なない?「老人」は生き残る?「バカっぽい女性」は真っ先に死ぬ?「偉そうな男」はいちばん悲惨な死に方をする?そんなホラー映画の使い古された定石を、『スクリーム』顔負けの(正直、そこまでは行かないまでも、“意欲”だけは認めてあげよう)貪欲な斜に構えた精神でことごとく解体していくのだ。

 中盤、俳優のひとりが俄然やる気を見せる。
となると、テロップも態度を豹変させて、キャラの肩書きがこう変更される。

 「ヒーロー2

 それは役者が主役級に格上げされた瞬間だった。目の前で暴れるバケモンをよそに、この俳優の前で運命がパアッと花開いたような感じだ。これは俳優たちにとってパニック・ホラーというよりもむしろ公開オーディション「アメリカン・アイドル」に近いのではないか。

 こんな感じで、「うぉー!」とか「ウギャー!」とか、ロバート・ロドリゲス的なテンションを爆発させながら、『スクリーム』的なメタ・ホラー&サム・ライミの『死霊のはらわた』的なチャレンジ・スピリットがムチャクチャ低次元で結実したような、思わぬ拾い物ムービーだったわけだ。

 あ、モンスター・パニックなのに、肝心のバケモンのことに触れてなかったな…2本足で立って(この時点で着ぐるみなのは丸分かり!)、エイリアンっぽくも、バタリアンっぽくも、ナウシカの巨神兵っぽくもある…まあ…すごい怖い…しっかもあまりにエゲツない方法で家族を増やしたりもする…とにかく獰猛なヤツっすよ!!(←無駄に“!”を一個多くつけてみた)

 オエッときたり、呆れたり、爆笑したり、呆れたり…。間違っても絶賛はしないが、でもどうだろう、こういうバクチ打ちみたいな映画が出てくるあたりが、実はアメリカ文化本来の野太さであり、懐の深さなんじゃないだろうか。

 本作は既に『フィースト2』『フィースト3』の製作も決定している。それらが日本で劇場公開されるかどうかは分かりゃしないが、とりあえず一作目くらいはちょっと間違って拾い食いしてみて、あなたの武勇伝をいたずらに更新させてみるのも一計だろう。

 3月は、アカデミー候補作や映画祭受賞作などで、とにかく優等生っぽい映画の多い季節。個人的にはこんな時こそ、『ザ・フィースト』や『デッド・サイレンス』といったB級ホラー・ムービーをも同時に摂取して、映画に対する平衡感覚を極力保ちたいものです。

無性に元気の出るB級映画って大好きだー!

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そして、ついに・・・
『フィースト2/怪物復活』、『フィースト3/最終決戦』
6月下旬より新宿バルト9、シアターN渋谷ほかにて公開決定!!
ほんとに!?ほんとに作っちゃったのかよ!?

サム・ライミが『死霊のはらわた』を撮ったときも、
ロメロが『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』を撮ったときも、
きっと同じ想いだったに違いない・・・

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