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『バンテージ・ポイント』

 初期イメージとしてはパッとしない。そのポスターもDVDスルーを免れたB級アクションのような雰囲気が充満している。舞台は何かの政治サミット。「テロに対抗するための歴史的な第一歩です!」的な白々しい実況レポートが生中継される中、各国のお偉方の集まったセレモニーが幕を開ける。このご都合主義のビミョーな設定が典型的なハリウッドの常套手段のような気がして「ああもう、いいよ!」と萎える。上映時間はあと90分あまり。チラッと時計を見て、いくばくかの徒労感に襲われる…だが、その矢先、スクリーン上でとんでもないことが勃発する。

 大統領暗殺。そして大規模な爆弾テロ。

 まるで『大統領暗殺』+『キングダム』のような展開!そしてハリウッド風ありきたり映像を木っ端微塵に吹き飛ばした後に訪れたのは、なんと驚愕の“巻き戻し映像”だった!

キュルキュルキュル!!!

戻っていく映像!なんだこりゃ!チープ過ぎるじゃないか!そして巻き戻った先に立っているのは、また違った登場人物。いまここから、新たに彼(彼女)の視点で事件が始動するのである。

 そこでようやくこの映画の目論見が分かる。なんと90分足らずの上映時間の中、核となる8人の目撃者の<視点>で暗殺事件をリプレイしていこうというのだ。冒頭にはテレビ局プロデューサーの視点で<事件の外観>が描かれ、次に大統領のボディ・ガード、ハンディカムを手にした旅行者、見るからに不審な謎の男…といった具合に、より<ディープな視点>へと侵入していく。そして視点が切り替わるごとにバナナの皮を剥くように驚くべき新事実が明らかにされていくのだ。

 とはいっても、「暗殺」→「悲鳴」→「大爆発」のパターンを何度もリプレイされるとそのうち飽きてくるはず。キュルキュルと巻き戻しが始まるごとに、ああまたか!と幾ぶん食傷気味になりそうなものだが、これがまた、ちょっとした視点の違いで圧倒的にスピーディーな展開が巻き起こり、あれよあれよと言う間に観客は、ええ!いったいどうなっちゃうの!?と全速力で翻弄されてしまう。肝心なのはストーリーではない。見せ方だ。いい意味で「乗せられてるなあ」と思いきや、やっぱり面白いものは面白い!

 もうちょっときちんと解説すると、『バンテージ・ポイント』はここ数年のテレビドラマの急速な進化ぶりが映画への波及してきた結果といっていいだろう。たとえば『24』が<1日>というフィールドを1時間ごとの時間軸で横に切り取り、全24回話を“時間の断面図”として語っていくのに対し、『バンテージ・ポイント』はキャストの数だけストーリーを縦に分割する試みといえる。これをデ・パルマのように画面分割の同時進行で描いてもよかったのだろうが、そうすると観客にとって情報過多となってしまうことは映画界のこれまでの試行錯誤で明らかなので、分割された視点はそのまま小説の<チャプター形式>のように8人分が積み上げられ、その狭間に先ほどのキュルキュル巻き戻し映像が挿入されているわけだ。

 視点から視点へ、全力疾走でストーリーテリングのタスキが手渡されていく。果たして最終章への突破口を開くのは誰なのか?この映画のアンカーは一体誰なのか?

 キャストはシガニー・ウィーバーやデニス・クエイド、フォレスト・ウィテカーなど、あまりに渋過ぎるやつらばかり。それぞれが一人勝ちな役どころを持っていくのではなく、あるものはアクションを担い、あるものは人間的な感情を担い、あるものは復讐心を、そして弱い部分を…などなど、個々の人間性があくまで部品として組み合わさって、最後にはひとりの人格を立ち上げていくような、この合体ロボット的な「ガチャーン!」という手ごたえが何よりも心憎い。

 そして忘れてはいけない、登場人物は8人だけではない。この映画に金を払い、劇場の客席に腰を下ろした瞬間から、あなたは最も重要な<9人目の視点>を担うことになる。そして“客観”に肉薄したその立場から、最終的に他の8人の視点を組み合わせることで、あなたの頭の中にだけ事件の最終構造が出来上がっていくという寸法。

 そういう意味でも、真の<バンテージ・ポイント(優位な視点)>に立つのは、紛れもないあなた自身なのである。

バンテージ・ポイント』は、3月8日(土)よりサロンパス ルーブル丸の内ほか全国ロードショー

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