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2008/03/29

『恋の罠』

 日本では韓流ブームも過ぎ去り、『シュリ』のハン・ソッキュも今や一昔前の映画スターのように思えてきた。そんな彼が装いも新たに珍妙な役どころを情熱的に演じきる歴史喜劇、それが『恋の罠』だ。韓国では公開15日間で250万人が観たという、大ヒットを記録している。

 舞台は李朝の宮廷。なるべく人とは争わない、温厚かつ生真面目、かといって他になんの長所も見当たりそうにない官吏ユンソが思いもかけず「春本」に出会うことによってそのアンダーグラウンド文化に野心をたぎらせていく。ユンソは仕事もそっちのけで「画期的な春本とは…?」と悩みに暮れる。やがて努力の甲斐あって、彼の著作は貸し本屋を通してどんどん民衆に浸透。でも後一歩のところでヒットチャートNO.1には及ばない。う~ん、何が何でも一番になりたい!!…となると、あとは挿絵か。

 これまで春本がその具体的なイメージ(絵)と手を組むことはなかった。いやむしろそれは「あまりに過激すぎる」と恐れおののく所業だった。しかしもう誰にもユンソは止められない。彼は圧倒的な絵の巧さを誇る宮廷内のライバルにこの企てを打ち明け、コラボして最高の春本を作ろうぜ!と強引にアングラ世界へと引きずりこむ。ここに最強の春本タッグが誕生するのだが…。

 本作で面白いのは、“春本の革命期”がどこか現代と繋がっているってことだ。返却されてきた貸本には好意の落書きが多数書き込まれてある。「最高でした!」とか「次回作も期待してます!」とか。結果、作者はそこからたくさんの意欲を得る。温厚な主人公をここまで過激に走らせるのも、こうしたコール&レスポンスの賜物だ。そして編み出された革新的なアイディアが「文章だけじゃつまらないから挿絵を入れよう!」だったことも、もはやこのストーリーが<インターネット>をモチーフに構成されているのは明らかだ。いずれ主人公がお妃さまとのランデブーを自作でノベライズしてしまうのだって、もはや<ブログ連載>に近い。

 この歴史的スキャンダルがどこまで本当の話なのかわかりゃしないが、でもひとつ確実にいえるのは「歴史は繰り返す」ということであり、僕らが日々ついつい何かに熱中してしまう過程と見事に共通するものがある。とりわけ作家とイラストレーターがいろんな卑猥な体位を考案しながらふたりしてプロレスみたいになってしまう状況にはもう呆れ顔を通り越して感動さえ覚えてしまう。彼らの少年のような情熱が有無言わさず僕らの琴線に触れるのである。

 神妙になったり、宦官の悲しさが綴られたり、拷問を受けたり、恋の行方が危ぶまれたりと、中盤とてつもないダークサイドに転がっていく面も多いのだが、この映画の根底にあるのはやっぱり「何がなんでも表現したい!」という純粋な欲求であり、その情熱の衣を身にまとったとき、のび太くん並みにとりえのなかった彼はいつしか果敢な挑戦者となっているのである。もちろん同じ表現者としてキャスト&クリエイターたちの手腕にも歴史上の人物キム・ユンソへの多大なリスペクトを感じさせる。

 キン肉マンは額に「肉」の文字でおなじみだが、ハン・ソッキュがそれにも増してアヴァンギャルドな文字を額に刻んではしゃぎまわる姿に観客はこの映画の本気度を思い知ることだろう。

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恋の罠
監督:キム・テウ
出演:ハン・ソッキュ、イ・ボムス、キム・ミンジョン、オ・ダルス
(2006年/韓国)エスピーオー
4月5日より、シネマート六本木、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国ロードショー

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