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2008/03/31

『スパイダーウィックの謎』

 すべてのファンタジーが『ロード・オブ・ザ・リング』や『ハリー・ポッター』のように超大作である必要性はない。むしろファンタジーとは人間の日常に隣接したものであり、その意味でもたった96分という上映時間ながらその箱庭的な世界観を器用に確立させた『スパイダーウィックの謎』はなかなか侮れない作品である。子供向け番組を多数制作するニコロデオンの提供ではるが、子供の付き添いで劇場を訪れたお父さんも、おお、意外と楽しめるじゃん、と子供以上に没入してしまうことも少なくないだろう。

 舞台となるのはオバケでも出てきそうな古びた屋敷。

 むかし大叔父さんが住んでいた不気味な屋敷に4人の家族が越してくる。そこに父親の姿はない。母親と、姉のマロリーと、双子の男の子ジャレッド&サイモンだけ。どうやら両親の関係がうまくいっていないことは子供たちもなんとなく気づいているようだが、ジャレッドだけはまだその事実を受け入れられずにいる。

 しかし少年期の悩みとファンタジーほど相性の良いものはない。新生活に踏み切れず、ふて腐れる彼の前にさっそく冒険の扉が開かれる。足を踏み入れた屋根裏部屋で不思議な書物を発見したのだ。表紙には「決して読んではいけない」との文字。ロウでしっかりと封印されている。でも少年の好奇心は止められない。勢いに任せて封印を解くジャレッド。その瞬間、あたりにブワッと強い風が吹き荒れた。屋敷の周りで何かが変わり始めていく。

 書物の中身は屋敷の主アーサー・スパイダーウィック氏が著した“妖精の研究”だった。幾種類にも及ぶ妖精たちの弱点をも網羅した研究書は多くの妖精たちにとって脅威以外の何物でもない。案の定、妖精界の支配をもくろむ獰猛な種族がさっそく書物の強奪に乗り出してくる。と同時に、屋敷では長年スパイダーウィック氏に仕えてきた年寄り妖精が登場。彼の魔法にかかるとジャレッドにも妖精の姿が見えるようになる。そしてふと窓の外を見やると、そこには獰猛な妖精たちが群れを成して攻め込んでくる姿が。いまこの不思議な書物をめぐって、スパイダーウィック家と獰猛な妖精たちの戦いが幕を開けるのだった…。

 主演は『ネバーランド』でおなじみ、フレディ・ハイモア君。早いものでもう16歳。けれど、開始早々おかしなことが発生した。双子の兄弟のどちらがハイモア君なのかわからないのだ。髪型も性格も対照的なこのふたり。どうせ双子の内で登場回数の多い方が彼なのだろうと決め込んでいたら、あとで資料を読んでビックリ。なんてこった、ハイモア君は一人で二役を演じていたのだ。双子が同時に出演するシーンも数多い。現代の技術をもってすればごく簡単なことなのかもしれないが、僕みたいに気が付かなければそのままスルーしてしまうほど、とてつもなくナチュラルな映像処理が施されている。

 そして本作の脚本にあの名匠ジョン・セイルズの名を見かけてこれまた驚いた。テレビ、映画を問わず、大人向けの重厚な作品を手がけてきた彼の功績なのか、本作はファンタジーの積み上げ方にいっさい破綻がない。そして少年が「父親の不在」を乗り越える成長物語と、自ら書物の謎を解き明かしていく冒険物語とを見事にシンクロさせるという、およそファンタジーの常套手段と言われる部分を丁寧にきっちり描ききる。こういう細かな分野での得点率の高さが、トータル的にも手ごたえ十分のクオリティへと導いているのだろう。

 徐々に結束していく家族、ニック・ノルティが声をあてた無駄にデカイ妖精(怪物?)、フィル・ティペット率いるティペット工房&ILMが生命を吹き込んだアナログ感たっぷりの妖精たち。そして最大の謎…個性あふれるアーサー・スパイダーウィック大叔父さんにも注目したい。

 彼を演じているのは『グッドナイト&グッドラック』でアカデミー賞に輝いた名優デヴィッド・<良い声>・ストラザーン。あの低音で深みのある声を聞いただけで作品の格調がひときわ深まりを見せるのは間違いない。しかも今回のストラザーンときたら、妖精博士としてかなり飄々とした天然キャラを披露する。ついこの前、筋金入りの冷徹さで『ボーン・アルティメイタム』のジェイソン・ボーンを追跡していたなんて想像もつかない相貌だ。かくも本作は大人好みのいぶし銀の職人たちのチカラで彩られている。

 前々から「期待作!」との呼び声が高かった作品というわけではないし、それほど派手目な作品というわけでもない。でもだからといってスルーしてしまうのはあまりに勿体ない。『スパイダーウィックの謎』は小品ながら子供向けにしては見事なまとまりを見せた、“職人的ファンタジー映画”といっても過言ではない。

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スパイダーウィックの謎
監督:マーク・ウォーターズ
出演:フレディ・ハイモア、サラ・ボルジャー、メアリー・ルイーズ・パーカー、
ジョーン・プロウライト、デヴィッド・ストラザーン、ニック・ノルティ
(2007年/アメリカ)パラマウントピクチャーズジャパン
4月26日(土)日比谷スカラ座ほか全国ロードショー

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