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2008/04/28

『幻影師アイゼンハイム』

 映画が始まるや、エドワード・ノートンが一点集中、凄い形相を浮かべて念力を送っている。どうやらそこはステージの上らしい。固唾を飲み見守る観客たち。やがて彼の目線の先におぼろげな光が形を現し始める…

 昨年のアカデミー賞で話題になっていた“The Illusionist”という作品が、『幻影師アイゼンハイム』という深夜アニメのような邦題で日本公開となる。今年の夏に『インクレディブル・ハルク』が待機するノートンが相変わらずのペロンとした“なで肩”ぶりで観客をいざなうは、19世紀末、ウィーン。突如現れた幻影師アイゼンハイムが、世界中を旅して習得したという驚愕のマジックで一大ブームを巻き起こしていく。

 そこに現れし、幼なじみの麗しき女性がひとり。長らく秘めていた想いがあふれるアイゼンハイムだったが、彼女はすでに皇太子の婚約者となっていた・・・。とまあ、歴史ラブロマンス、そして後にサスペンスの様相も呈してくる本作だが、僕はむしろこの映画の捉える時代性にこそ焦点をあてたい。

 19世紀末といえば、もうじき科学の時代が間近に迫っている。そんな時の流れを察してか街中では“超自然主義”が最後の花火を打ちあげる。人々は超能力や心霊現象に魅了され、“手で触れられないもの”に強く想いを馳せる。アイゼンハイムのマジックショーはそういった嗜好の観衆たちに拍手喝采でもって迎えられた。どんな頭脳をもってしても解き明かせないトリックの数々。彼はそれがマジックなのか超能力なのか決して種を明かさない。それが彼のカリスマ性をますます助長し、やがて権力をも脅かす強大な影響力を持ち始めるのである。

 イリュージョンVS権力。この対立構造が時代の本質を巧く浮き上がらせる。どちらもこれといった実態がなく、いわゆる“手で触れられないもの”。あるいは「権力とは極めてイリュージョン的なもの」と解釈することだって可能かもしれない。いや、そういってしまえば“映画”だってそもそも光のイリュージョンとして生まれたものなのだから、この映画自体が手品箱のような謎に満ちた存在といっても過言ではない。

 参考までに、おなじイリュージョン映画『プレステージ』に登場した「一流のマジックに必要な3つのパート」を紹介しておこう。

 1つ目はプレッジ(確認)、2番目にターン(展開)、3番目に観客の喝采を一身に浴びる、プレステージ(偉業)。

 これを踏まえて本作を振り返ったとき、その随所に名優ポール・ジアマッティの姿が浮かび上がってくる。『サイドウェイ』で御馴染みのこの俳優、今回は危険分子としてのアイゼンハイムを取り締まる警部役として威厳たっぷり(その中にお茶目な部分も満載)の重厚な演技に徹している。そんな彼が、思いのほかこの映画の“プレステージ(偉業)”とも思える地点において快心の演技を爆発させるのだ。

 「ジアマッティの一人勝ちじゃないか!」

 思わずスクリーンに向かって叫びそうになった。もちろん主役のエドワード・ノートンも素晴らしいのだが、彼はあくまで仕掛ける側の人間。それを受ける側としてのジアマッティはリアクション俳優として最高ポイントを獲得している。僕はこの瞬間にこそ“イリュージョン”の意味を改めて実感させられた。映画がイリュージョンならば、演技だってイリュージョンである。それは手で触れようにも触れられない。僕らの心の中でその重量を受け止め、グッとくるかこないかでその成果が計られるものである。とても感覚的な物言いで申し訳ないが、ジアマッティのあの腹の底から湧き上がるような表情は間違いなく“プレステージ”の極みに達していた。マジックの種明かしなどにも増して、あの場所ではずっと高度なイリュージョンが炸裂していたように思う。
 
 映画&ドラマ好きで知られる作家スティーブン・キングは本作について「繰り返し何度も見たくなる!特別な一本!」(Entertainment Weekly)と評しているらしい。その理由が同じかどうかは分からないが、僕もまったく同じ気持ちだ。繰り返し見るたびにポール・ジアマッティのプレステージに触れられるとあらば、これ以上の幸福はない。

 これからはポール・ジアマッティのことをプレステージ俳優、いや、イリュージョン俳優と呼ばせていただく。

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幻影師アイゼンハイム
監督・脚本:ニール・バーガー
原作:スティーヴン・ミルハウザー
出演:エドワード・ノートン、ポール・ジアマッティ、ジェシカ・ビール、
(2006年/アメリカ=チェコ)デジタルサイト/デスペラード
5月24日より日比谷シャンテシネほか全国ロードショー

「幻影師アイゼンハイム」の原作は、スティーヴン・ミルハウザー著作「バーナム博物館」に収録されています。名優ポール・ジアマッティのイリュージョンにもっともっと触れたい方は、『サイドウェイ』、とにかく必見です。

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