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2008/05/03

最高の人生の見つけ方

 人間の誰をも待ち構える死―。

 その果てに絶望するか、あるいは前向きに突き進むかで人の一生は変わっていく。

 多くの宗教は「死を見つめること」を発端に数百年、数千年の歴史を歩んでいるが、これらに対し100分足らずの映画作品に一体何が描けるだろう。エンタテインメントは死を緩慢に感じさせる麻薬ではない。ハリウッド映画だって、ときには真正面から死を見つめようとする。もちろんそれには用意周到な布陣と、極上のユーモアが不可欠なわけだが。

 本作『最高の人生の見つけ方』に集結したのは、『スタンド・バイ・ミー』の名匠ロブ・ライナー&米映画界が誇る2大俳優、ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマン。それはとてもシンプルな映画だった。複雑なプロットも無ければ、観る前にいささかの緊張を強いることもない。隣のお年寄りがガサガサとうるさくったって別に気にしない。何しろスクリーンに映っているのはエキセントリックな“ジョーカー”と“神様”なのだ。最高の俳優たちによる極上のコラボレーションは自ずと向こう側から僕らの心に飛び込んできてくれる。

 ふたりが演じるのは余命幾ばくと診断されたガン患者。性格も社会的地位もまったく違う。健康に生活していたら絶対に出逢うことの無かったふたりは、運命のいたずらで病室の同居人となる。最初は他人行儀な生活が続くが、闘病風景がふたりの距離をだんだん縮めていく。剃髪、そして淡白な毎日。抗ガン剤治療は徐々に苦しさを増す。トイレに閉じ込もり嘔吐。ベッドでのたうち回る。そして新たに突きつけられる無情な診断結果・・・互いの弱い部分をさらけ出したふたりに強がりなんて要らない。気がつくと彼らは人生最後の、そして唯一無二の親友となっていた。

 そしてリストを作成する。死ぬまでにやっておきたい項目を書き連ねる“The Bucket List”ってやつだ。スカイ・ダイビング、カーレーシング、絶景を眺める、絶世の美女とキスする…。いつまでもベッドの上で燻ってはいられない。人生が動に転じていく。彼らはいま、人生最後の大冒険に漕ぎ出そうとしていた。

 同じテーマで、サラ・ポーリー主演の『死ぬまでにしたい10のこと』が思い出される。だがこちらは年齢が何倍も上だ。人生の酸いも甘いも体験し尽くした彼らはごくシンプルに生を謳歌しようとする。これまで病室に停滞していたエネルギーは一気に吐き出され、そのまま距離へ置き換わる。世界中どこにでも飛んでいくバイタリティ。今更ながら湧き出してきたチャレンジ・スピリット。死を前にした彼らに怖いものなど何も無い。

 死に対して守りではなく、攻めに転じながら、ふたりの表情はどんどん少年のように変わっていく。どんな名優も子役と動物には敵わないなどと言うがそれは完全な間違いだ。いまやこのふたりに勝るものなんてあるものか。

 ところで、ふたりはそれぞれ演技のアプローチが少しずつ違う。ジャックは常に声を尖らせて仕掛けるタイプ。モーガンは相手の出方を慎重に見定め、柔軟な吸収力で受け止めるタイプ。かと思っていたら、時折その演技がスイッチする瞬間があって驚かされる。モーガンがふと意固地になり、一方ジャックの表情がシュンと軟化する。演技の応酬だ。このリラックスした雰囲気の中であっても彼らは常に仕掛け、そして仕掛けられている。かつて来日したモーガン・フリーマンは演技についてこう語っていた。

「演技はチェスのようなものだ。うまい相手と対戦しているときはどんどん自分も上手くなっていく」

 本作はまさにその頂上対決。名人戦だったわけだ。

 バックを彩るジャジーな音楽も、それにエンディングに流れるジョン・メイヤーの楽曲“Say”も深い余韻を残す。僕らはずっとにこやかにスクリーンを見つめ続け、気がつけばこの映画の醸し出す雰囲気に泣いている。それは単に哀しいだけの安っぽい涙では到底なく、とても幸福感に満ちた、自分で言うのもなんだが、とても尊い涙だったように思う。

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最高の人生の見つけ方
監督:ロブ・ライナー
出演:ジャック・ニコルソン、モーガン・フリーマン、ショーン・ヘイズ、
ロブ・モロー、ビバリー・トッド
(2007年/アメリカ)ワーナー・ブラザーズ映画
5月10日より丸の内ピカデリー2ほか全国公開

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